アメリアとの別れ
「じゃあ、元気でね」
「……ねえ、ユートちゃん。今からでも心変わりしない?」
「「ないです」」
アメリアさんが名残惜しそうに僕を見てくるけど、僕が答える前にカトレアとシルヴィアさんが答えちゃった。なんで?
「仕方ないわねえ。今度会うときは、3人まとめて捕まえようかしら」
「やらせませんよ!?」
「そ、そうです!あなたは何を考えているのですか!」
「それは普通に可愛い子とイチャイチャするだけよ?性的なことも含めて、ね?」
アメリアさんが舌なめずりをすると、二人とも肩を震わせていた。どうしたんだろ?
「……さっさと行け。そろそろ不快でしかなくなってきたからな」
あ、クロが話し始めた。さっきからずっと黙ってたから、どうしたのかなって思ったんだよね。
「はいはい、わかってるわよ。あー、あとあのこと忘れてないでしょうね?」
「……忘れてはいないな。だから不快なのだ」
「あっそ。それなら結構」
アメリアさんはクロに笑いかけると(ニヤリ、って感じではあったけど)、国の外へと出ていった。
「じゃあね。またどこかで会いましょう?」
「うん。またどこかで。あと、クロと喧嘩はしないようにね?」
「わかったわよ、今度は一日に1桁で済ますようにするわ」
あ、することにはするんだ。まあでも、喧嘩していないところなんて想像できないし、それが普通なのかな?アメリアさんの言葉に困りながら、手を振って見送った。そして姿が見えなくなるまで見送った後、みんなの元に戻る。
「そういえば、シルヴィアさんたちはこれからどうするの?」
「ええと、そうですね……城に戻ればゆっくりとは休めないでしょうし、サクラ連邦に向かおうかと」
「サクラ連邦?なんでそんな名前になってるの?」
凛花さんが不思議そうな顔をしていたけど、それにはクロが口を開いた。
「なんでも前の勇者が傍迷惑なことに、大量の桜を咲かせたからだろう?チッ、そのまま帰ればいいものを」
「相変わらず口が悪いわね、あんた………」
「ん?てことは、ユートもそこに行くってことか?」
そこでジリアンさんが割って入ってくる。僕は間違えていないから、頷いておいた。
「なるほどなー、道理でこいつの機嫌が悪いわけだ」
「なんで私たちがついていくと、機嫌が悪くなるのよ………」
「正確にゃあ、俺らっつーより姫さんが許せねーんだろ。なんたって主を傷つけられたわけだしな。普通なら恨んで当然だろよ」
ジリアンさんが肩をすくめているけど、その通りだった。そろそろ許してあげてもいいと思うんだけどねえ。
「ま、でもそこは我慢してくれよ。主を守るやつが増えるってことでよ」
「……チッ、くれぐれも主に迷惑はかけるなよ?」
「へいへい」
やれやれといった様子で、ジリアンさんが応える。でも、クロ。そんなに嫌そうな顔をして言わなくてもいいと思うんだよね。
「まあ、あの狼の方はともかく、ユートなら別にいいよ。下手にどこにいるかわからないよりかは、一緒に行動する方がいいしね」
「それもそうですね。ユート君はいつも無茶をしているようですし」
凛花さんとコルネリアさんも反対はしていないみたい。ただ、コルネリアさんの意見には反対をしたい。無茶してないよ。できると思ったことをやってるだけだし。
「んじゃ、ほとんど決まりだな。ダンナはどうよ?」
「私は構わん。どちらを選んでも、メリットとデメリットがあるからな」
「てなわけで、しばらくは一緒に行動だな。よろしく頼むぜ、ユート?」
ジリアンさんは満足そうに笑っているけど、僕は一つ聞きたいことがあった。
「シルヴィアさんの意見は聞かなくてもいいの?何も言ってなかったけど」
「ええ、私なら構いません」
「ほらな、こういうと思ったからよ?それに、一緒に行きたいって気持ちもあるんだろうよ。何せ姫さんは………」
「と、とりあえず準備を始めましょう!いつまでもここにいれば、騎士団の方々が到着してしまいますから!」
「うん………?」
カトレアみたいに様子がおかしくなるシルヴィアさんを見て、どうしたんだろうと首をひねるのだった。
※ ※ ※
誰も来ないような暗い室内。申し訳程度に篝火が焚いてはあるのだが、逆におどろおどろしくなってしまっている。そんな雰囲気に似つかわしく、鉄格子が嵌められた部屋が無数に並んでいる。そう、ここは牢屋だった。そんな牢屋の一角に、先日捕らえられた男が一人いる。その人物は牢屋番をしている人間から、非常に疎まれていた。もっとも、本人はそんなことを気にしてはいなかったが。
「まったくよ、こいつも何考えてんだろな?魔族なんかと取引するなんてよ?」
「ほんとだぜ。亜人ってのは、どいつもこいつもこんななのかね?」
「大方、頭に行く分の栄養がないんだろうさ。所詮は畜生だからな」
「違いない!」
ゲラゲラと見回り中の男たちが笑う。そんな声には目もくれず、男はぶつぶつと呟くのみだった。
「あいつは……あいつだけは許さねえ……カトレアを誑かしやがって………」
「おお、おお、そうであるな。許すことはない。天罰を下すのだ、お前の手で」
「……!そうだ……そのためにも力が必要なんだ………もっと力をよこせ!」
「よかろう。お主には与えてやろう。復讐のための力をな………」
牢屋を巡回していた男たちが気付いたときには、もう致命的に遅かった。
「グルアァァァァァァァァ!」
その男は……魔族に魂を売ったシドは脱獄をした。目的はただ一つ。ユートを殺すために。