火の海の中で
タイトル未定の投稿を再開します。読んでいただけると幸いです。
ふわふわと自分が浮いている。いつものように、夢を見ているのだろう。いつも通りの記憶の夢。けれど、今日は様子がおかしかった。
目の前に広がるのは、一面の火の海。聞こえてくるのは誰かの泣き声。その泣き声は誰かを責めているようでもあり、何かを呪っているようでもあった。
(何があったんだろう?)
記憶のない自分には、その慟哭がどこで起こったものか、なぜ起こったのかがわからなかった。ただ1つわかることは、この火の海は自分に関係しているというそれだけのことだった。
そして、いつものようにまた急激に引き上げられていく感覚。目が覚めるのだ。そんなとき、不意に声が聞こえた。優しく、どこか懐かしい声。それが誰のものであるかはもう知っていた。
(……先生?)
「いい?あなたの名前はユートよ?名前の通りに………」
そこで意識は途絶えた。
※ ※ ※
「ふあ………」
まだまだ頭がぼんやりするや。何をしてたんだっけ?思い出してみようとしたけど、思い出せない。すぐに諦めて、他の人に聞いてみることにした。でも、まだみんなは寝てるようで、クロは床で丸くなってるし、カトレアは僕の胸を枕にして寝てる。どうしよう?とも思ったけど、よくよく考えれば外はまだ暗いし、普段は寝ている時間だと思う。
いつもなら中途半端に起きると、まだまだ眠くてすぐにまた眠っちゃうんだけど、今日はどうにも眠れる気がしなかった。見ていた夢が印象的だったからかもしれない。懐かしいけれど、なぜか胸の中には不思議な感情で溢れている。何かがぽっかりとなくなってしまった。そんな感じ。その感情を何というのか、僕は知らなかった。誰かに聞けば、わかるのかな?
「……ユート様?」
「あれ、カトレア?まだ夜っぽいよ?」
「その言葉はそっくりそのまま返したいんですが……一つ、聞きたいことがあって」
「何?」
僕を見上げてくるカトレアの目を見ながら、首を傾げた。カトレアは不思議そうな顔をしながら、僕に問いかけてくる。
「何故……泣いているのでしょうか?」
「え?」
頬を拭ってみると、確かに液体が流れた感触がある。辿っていくと目に着くし、カトレアの言う通り泣いていたのかもしれない。
「わからない……なんでだろう?」
「もしかして……いえ、なんでもありません。まだまだ夜更けには時間があります。眠りましょう」
「うん、そうだね」
僕にはどうして泣いているのか、理由はわからなかった。そして、どうしてカトレアが無理に笑ったのかも。それを知るには、感情のことを知らな過ぎたから。
※ ※ ※
「……え?アメリアさん、ここでお別れなの?」
「ええ、そうよ。なんでも、今すぐに帰ってきてほしい案件があるのだとか。めんどくさいわねえ」
そう言って、ほんとに嫌そうな顔をするアメリアさん。何があったんだろうね?
「大方、あの男が来てるんでしょうけど。ああ、行きたくなくなってきた」
「そんなに行きたくないなら、無視することってできないの?」
「私もそうしたいところなんだけど……あいにく、あいつの方が力を持ってるのよ。だから逆らうことができないってわけ」
その言葉にみんなが気の毒そうな顔をしていた。偉い人の強制ってあんまり好きになれないんだよね。それはシルヴィアさんでも例外じゃないみたい。いや、シルヴィアさんだからこそかな?
今はみんなで朝食を摂っているんだけど、アメリアさんは食べ終わって支度が終わったら、すぐに出かけるみたい。急なことだよね。だから嫌なのかな?そう思ったんだけど。
「あー、もう!せっかく可愛い子たちと知り合えたっていうのに!あの男、会ったらただじゃ置かないわ!」
「あ、そっちなんだ」
「当たり前でしょ!あんなむさくるしい男と可愛らしい女の子たち。どっちを取りたいのかなんて、馬鹿でもわかるわ!」
その意見には同意だとばかりに、ジリアンさんも頷いてる。そして、凛花さんに叩かれてた。
「ということで、よ。ユートちゃん?私についてこない?」
「え?どうして?」
「そりゃあ、ユートちゃんは私の好みに合うからよ。それにユートちゃんが来れば、カトレアちゃんも来るんでしょう?一石二鳥じゃない!」
ふふふ、と笑うアメリアさん。でもね?それじゃ、悪役っぽいよ?
「ユート様、駄目です!その人は危ないですから!」
間髪入れずにカトレアが否定してくる。んー、危ないことなんてされるのかなあ?首をひねっているけど、シルヴィアさんも同意見だったみたい。
「ユート様、やめてください。この人の目は獲物を狙っている目です」
「……?それって、食べられるってこと?」
アメリアさんは人をむしゃむしゃ食べるんだろうか?考えてみたら、なかなかにすごい絵面だね。
「いえ、そうではないのですが……あ、でも、別の意味ではそうなるかも?と、とにかく、駄目です!」
「やーねー。ちゃんと、カトレアちゃんも一緒にしてあげるわよ?カトレアちゃんもユートちゃんとできて幸せじゃない」
「わー!わあぁぁぁぁ!」
カトレアが何故か叫び出してしまった。何があったんだろ?疑問符が頭の中で飛び交いながら、食べ物を口へと運ぶのだった。