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その過去は

 「ええと……つまりユート様は超能力者で、4つの能力を使えるということですか?」

 「うん、そうだよ」


 シドさんがらみの事件が片付いたとき。僕はシルヴィアさんと話をしていた。シドさんはどうやら無法人として、このバーホルト国で、ずっと投獄されたままになるらしい。当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけど。勿論、話の内容は僕自身のことについて。そういえば、前に会ったときにはこういう話はしなかったんだよね。話を聞いていくうちにシルヴィアさんは頭を抑えて、苦々しい顔つきになっていった。


 「ユート様。流石にあの魔物を支持するわけではありませんが……これは秘密にしておいてください。特に父には」

 「それはいいけど……なんで?」

 「ユート様の能力が規格外過ぎるのです……もしもの話ではありますが、父がこの事を知ったとき、ユート様を利用しようとするのはまず間違いないでしょう」

 「そうは言っても攻撃系のものはないよ?魔法で攻撃しかできないし………」


 そこでシルヴィアさんがため息をつく。


 「ユート様。どうかご自分の価値にお気付きください。ユート様の能力は各国が多額の報酬を払ってでも手に入れたいようなものばかりなのです」

 「……?」

 「まず転移能力。これがあれば、他国に兵を送るのに長々と進軍させる必要がありません。物資も好きなだけ送り放題です。また、奇襲部隊を敵陣に送り込むことも容易でしょう。次に念話能力ですが、これも大きな使い道があります。敵に作戦内容が漏れることなく、伝令をすることができます。これによって作戦の成功率は格段に上昇するでしょう。声に頼らずとも会話できるのですから」


 聞いていると納得できるような?


 「さらに反重力という能力ですが、これは重いものを軽くすることができるのですよね?それなら土木工事にもっとも用いられると思います。軍部の人間が用いるのなら恐らく砦などの建設でしょう。そして、何よりも狙われる要因となるのが………」

 「《未来視》、ってこと?」

 「はい。未来を見通す能力など、知られれば即座に手に入れようとする者が出てくるはずです。どうすれば戦に勝てるのか、どうすれば権力を握れるのか、どうすれば富を得られるのか。最悪、ユート様を巡り戦争が起きないとも限りません」

 「……そんなに?」

 「そうです。手に入れば、成功が約束されたようなものなのですよ?その誘惑に勝てるほど人間の理性はよくできたものではない人が多いです」


 そうなんだ。でも、不思議に思ったんだけど………


 「じゃあ、なんでシルヴィアさんはそうしようとしなかったの?」

 「……私もしようと考えてしまっていますよ。ユート様のその力があれば、この世界を救えるのですから」

 「うーん、でも自分のためじゃないでしょ?そこが不思議なんだよね」

 「それは………」


 シルヴィアさんが言葉に詰まった。隣を見ると、顔を少し赤くしていた。


 「い、色々と事情がありまして………」

 「そうなの?どんな?」

 「ええっと、その………」

 「主よ、その女の言うことなど聞く必要はないぞ」


 突然聞こえた声に驚いたけど、知っていた声だったので返事をした。


 「クロ、おかえり。どうだった?」

 「役目は果たした。だから戻ってきたのだ」

 「そっか。お疲れ」


 これで少し心配事が減った。


 「ところでクロ。聞く必要がないってどういうこと?」

 「ろくでもないことを考えているからだ。大方、主に懸想でもしているのだろう」

 「懸想?」

 「ゆ、ユート様は知らなくてもいい言葉です!」

 「図星か。前にやらかしておいたことを忘れているとはな」


 馬鹿にしたような口調でそう言う。いつまで根に持っているんだか。


 「……忘れてなどいません。あのときしてしまったことは必ず償うつもりです」

 「ほう?その言葉に二言はないだろうな?」

 「ええ」


 なんとなく嫌な予感がする。


 「ならば、その命で贖ってもらおう」


 一瞬にして、クロがシルヴィアさんの首元に噛みつこうとする。それを知覚した瞬間に思わず能力を発動させていた。


 『クロ!』


 クロの牙はあと少しで刺さりそう、というところで止まっていた。


 「注意されずとも止めていた。だが……忌々しいな」


 クロがそう吐き捨てた。シルヴィアさんはクロから目を逸らさず、逃げようともしなかった。


 「……接触したり、会話したりする分には認めてやる。それ以上のことをしようとするならば」

 「それなりの覚悟が必要ということですね。わかっています」

 「フン………」


 クロは影へと戻っていった。関係は少しだけ進展したのかな?そうだといいんだけど。


 「あれ?どうしたんですか?」


 そこに、買い物に行っていたらしいカトレアが戻ってきた。これを見越して逃げたのかもしれないなあ。ぼんやりとそう思った。


※               ※               ※

 「それじゃあ、体を吹きましょうか。いろいろありましたからね」

 「うん、わかった」


 カトレアの言葉に頷く。そう言われれば、シドさんのことはまだ一昨日のことなんだよね。時間が経つのは早いような、遅いような?その場で服を脱いで、後ろを向く。どう頑張っても背中だけは拭けないんだよね。だからカトレアに手伝ってもらってる。


 「ユート様、少しいいでしょうか?」


 そう言って入ってきたのはシルヴィアさん。中で何をしているのかまでは知らなかったみたいで、入って何が行われているのかわかった瞬間顔を真っ赤にしていた。


 「も、申し訳ありません!返事を待つべきでした!」

 「あ、別にいいよ?気にしてないし」


 見られたからって何か不都合なことが起こるわけでもないしね。そんなことを言ったら、少しだけ顔をこっちに向けてきた。と、そこで何かに気付いたらしい。


 「ユート様?腕のところの包帯は一体………?」

 「ああ、これ?外しちゃいけない、って言われた気がするから付けてるんだ」


 両方の二の腕に巻いたままの包帯を見て、そう言う。誰に言われたかまでは覚えてないけど。


 「今はコルネリア様もいますし、外してはどうでしょう?いつまでもそのままにしておくと、包帯も汚れてかえってよくないと思いますし」

 「それもそうか。じゃあ、外そうかな」

 

 シュルシュルと外していく。勿論、カトレアにも手伝ってもらったけど。包帯の下から現れた腕を見て、初めは苦笑していた二人の苦笑が凍り付く。そこには、何かで何度も何度も刺されたような傷がいくつもあったのだ。ただ、それがどうしておかしいのかまではわからなかった。


 「ユート様、これは………?」

 「どうして、こんな………」


 二人が絶句していると、クロがいきなり現れた。


 「一旦外に出ろ。主が体を拭くだろうからな」

 

 二人は何か物言いたげではあったけど、素直に出ていった。どうしたんだろ?


※               ※               ※

 「クロさん、あれは一体何だったんですか?」


 未だ驚きの表情が抜けない私はそう尋ねていた。シルヴィア様も聞きたそうにしている。


 「……超能力が普通に発現するものだと思うか?それに、何もせずとも維持できると思うか?主を見て、違和感を感じたことはないか?」


 いきなりの言葉に戸惑う。だけど、それについては少し考えたことがあった。


 「ユート様は、その、少しずれてるような気がするんです。勿論、嫌いというわけじゃないんですけど………」

 「お前の指摘は正しい。主はずれているのだ。普通の人間とはな」


 思わず息をのむ。言葉が上手く出てこない私に変わって、シルヴィア様が口を開いた。


 「どういうことですか?」

 「……主は人体実験によって超能力を発現させられたのだ。我も詳しくは知らないがな」


 今度こそ息が詰まってしまった。人体実験?誰が?誰に?


 「毎日毎日投薬され続ける日々。痛みを伴うようなものもあったはずだ。そして人としてではない、兵器として育てられていったのだ」

 「そんな………」

 「むこうに帰ることは必ずしも幸せだとは限らん。それだけは覚えておけ」


 その言葉を残して、クロさんは影に潜った。ユート様の下へと行ったのだろう。その証拠に部屋の中から会話が聞こえてくる。


 「主よ。忘れていたが、《テレパシー》が戻ったのだな」

 「うん。あ、でも《反重力》もだよ」

 「そうか」


 その会話が聞こえても、今の私には何も考えることができなかった。

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