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お前は………

 「よし、じゃあ最終確認をするぞ」


 勇者のうちの一人がそう言う。名前は覚えていない。まあ、主と主に親しい者しか覚える気はないのだから構いはしないのだが。こいつは確か器用貧乏なやつだったか?曖昧な記憶からそんなことを思い出していた。


 「まず、八魔将の相手は基本ダンナがする。暴力女はダンナのサポート役として、八魔将の相手。コルネリアは二人が怪我をしたら即座に治してくれ。ただ、かすり傷くらいなら治さなくてもいい。魔力はできるだけ温存したいしな。で、俺と狼が周りの敵を減らす。そっちの嬢さんが状況に応じて、八魔将と周りの敵の相手を切り替える。ということだ。もし何かが起こったら、その都度指示を出す。ここまでで質問は?」

 「いや、特にはない」

 「私も大丈夫。……ただ、後で言いたいことがあるけど」

 「わ、私も大丈夫だと思います」

 「私はあるわよ?」


 あの女が手を上げる。……こいつの場合は予想がついてるが。


 「やめろ。どうせこいつの指示を受けるのが不満なだけだろう?」

 「あら、よくわかってるじゃない」


 その言葉に勇者たちが渋い顔をする。


 「くだらん感情を持ち込むな。主のことを考えているのならな」

 「どういうことよ?」

 「主がこいつに託したのだ。ならば従うしかないだろう。他ならぬ主の言うことなのだからな」


 主が何かを決めるとき、それは未来を見てから決めているのだ。そんな主がこいつに任せた。それならこれで大丈夫だということだろう。


 「……ふーん。まあ、いいわ。あの子が言ったことならね」


 明らかにほっとしたような面々。少しは隠す努力をしたらどうだ?そんなことを思ったが、口には出さなかった。


※               ※               ※

 「おや、また来客か?どうやら学習というものを知らない種族らしい」


 まったく変わらない姿形。声とて変わってもいなかった。当たり前でもあるのだろう。だが、この声で思い出す。こいつは憎悪の対象であることを。攻撃できるのなら、その首を食い千切ってるものを。


 「……合図と共に攻撃だ。いいな?」


 むこうに聞こえないようにだろう。声を潜めて全員を見回す。皆、こくりと頷いていた。勿論、我は無視したが。


 「行くぞ!」


 合図されたと同時にやつの目の前へと二人の勇者を送る。むこうもその程度は予想していたのか、即座に攻撃してきた。勇者共もそれを予測していたのか、攻撃を避けて反撃する。激しい攻防が始まった。


 「さて……我も仕事をするとしよう」


 群がってきた魔物たちに分身体を送り、攻撃する。作戦を立てた勇者も負けじと矢や魔法で敵を減らしていく。ここまでは作戦通りに順調だったのだ。

 だが、物事というものは往々にして上手くいかないものだ。ここで予想外のことが起こってしまったのだ。


 「むう!?」


 いきなりすさまじいまでのプレッシャーが生じた。だが、そのプレッシャーを発しているのが誰なのかがわからない。少なくとも勇者共ではなさそうだが。現に、困惑の声を上げている。


 「な、なんだこりゃ!?」

 「……予想外の事態か」

 「は、はわわわ……どうすればいいんですかあ!?」

 「一体こんなもの、誰が………」


 不幸中の幸いだったのは、このプレッシャーが向けられているのが我らではないということ。もしそうであれば、悠長なことは考えていられなかっただろう。


 「くっ……こうなれば、あれを使うしかないか………」


 あの魔族が不穏なことを呟く。我は聴覚が優れているからこそ聞き取れたが、あれを聞き取れたものはいないだろう。仕方がないから教えてやるか、という考えは無用のものだったらしい。


 「……おい、狼さんよ。むこうはあれ使ってくるみたいだぜ?」

 「なんだ、聞こえたのか?どうやらその通りのようだな」

 「いや、聞こえたのとはちとちげえが……まあ今はいい。この場から離脱するぞ」

 「賢明だな。そうするといいだろう」


 ここで追撃しようとしない辺り、指揮官としては優秀なようだ。そんなことを思いながら、スキルを使う。一度に全員を運ぶことはできないので、まずは回復役の女と指揮官役の男を飛ばす。そして、その二人の後に前線で戦っていた二人を同じところに飛ばした。あとはあの女だけなのだが……どこにいることやら。


 (我としては別に死んでいてもいいのだがな)


 だが、そうはいかないだろう。主があの女の未来を見ることができなかった。それが何を意味しているのかぐらいはわかっている。

 幸い、影から探せばそこまで時間はかからなかった。様子を窺うために、影からほんの少しだけ頭を出して状況を確認する。


 (なっ……馬鹿な!?)


 声に出さなかっただけ大したものだと思った。なぜならそこには驚くべき光景があったからだ。絶句したまま、それでも一つでも多くの情報を得ようとして………


 「あら、いつまで見てる気なの?」


 あの女の声がした。しばし沈黙していると、また声が掛かる。


 「あんたよ、黒犬さん。見た目的には狼だけどね」

 「……いつから気付いていた?」


 冷や汗が流れる。


 「最初からよ。あまり私を舐めない方がいいわよ?」

 「そうか。で、どうする気だ?」


 こうなったら、最終手段を使うしかないか……そう思っていたが、その考えは無駄となった。


 「ああ、そんなに構えなくてもいいわよ?別にあんたをどうこうする気はないから」

 「……何のつもりだ?」

 「いつも言ってるでしょう?可愛い(、、、)ものは正義だって。そういうことなのよ」


 ……少なくとも、今のところは大丈夫なのか。


 「あ、そうそう。このことは誰にも言わないようにね?そうじゃないと、何をしちゃうかわからないわよ?」


 今の我にはその言葉に頷くことしかできなかった。あの女の後ろには、八魔将の死体が転がっていた………

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