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対決

 「ずいぶんといいご身分だな、お前……女を二人も侍らせてるなんてよ」


 シドさんの口調で開口一番から不機嫌さが伺える。まあ、侍らせるってのがどういう意味かはわからないんだけど。


 「シドさん、どうして魔族の味方をするの?」


 それが疑問だった。だからと言って、どうするわけでもないけどね。やることは変わらないわけだし。


 「お前に教える義理はない。どうせここで死ぬんだからな」


 そうは言っても、簡単に死ぬ気はないよ?《未来視》があるし、《テレポート》もあるし。むしろ危ないのはシドさんのような……そんなことを考えてると、カトレアが口を開いた。


 「いい加減にしてください!私はあの人じゃないんです!」

 「いいや、違う。君はあの人の生まれ変わりなんだ。あの人を失った俺に遣わした、あの人の分身だ!」

 「もうわかってください!あなたが見ているのは私じゃない!だからあなたとは一緒にいられません!」

 「……わかってるよ、カトレア。そいつが悪いんだろう?そいつのせいで俺を見られないんだ!今から俺が助けてやるよ。そいつの魔の手からね」


 シドさんは僕に暗く、淀んだ目を向けてくる。あの目からわかった。シドさんは……正気じゃない。


 「最低ですね」

 「シルヴィアさん?」


 隣を見ると、シルヴィアさんが嫌悪の目でシドさんを見ていた。


 「ええと……シルヴィアさん?どうして怒ってるの?」

 「あの人はカトレアさんを見ていないのです。似ている人を重ねて、その人を追いかけているだけ。そんな人に好かれても迷惑なだけです」

 「んーと、よくはわかんないけど……カトレアが嫌がってる、ってことでいいの?」

 「はい。その認識で間違いありません」


 そっか。それならやることは簡単か。


 「じゃあ、早く捕まえようか。カトレアがこれ以上困らないように」

 「わかりました。私も尽力します」


  二人でシドさんに構えをとったのだった。


 「……捕まえる?お前らが、俺をか?笑わせてくれるな」


 不意にシドさんが笑う。


 「何がおかしいのですか?」

 「いや、お前らの馬鹿な発言がだよ。俺に勝てるとでも思ってるのか?たった二人で?人間なのによ」


 明らかにこちらを見下した態度。前に会ったときとは違い、人間に対する明確な敵意を向けてきている。


 「そんなものは……」

 「やってみないとわからない、か?わかるさ、俺は力を得たんだからな」


 急にシドさんの体が黒い何かに包まれていく。煙のようなそれは、全身に纏いついていく。その光景を見て、シルヴィアさんが絶句していた。


 「なっ……この魔力は!?」

 「どうしたの?」


 流石にただ事じゃあなさそうだったので、質問する。シルヴィアさんは動揺を隠せないままこう答えた。


 「これは……間違いなく魔族の魔力なのです。まさか、この人は………!」

 「その通り。魔族から力を貰ったのさ。カトレアを取り戻すための力を!」


 シドさんは顔を歪めて、シルヴィアさんを見ている。自分がこの場を支配していると思っているみたい。


 「そんな……それがどういうことかわかっているのですか!?」

 「ああ。人の敵になるってことだろ?別に構いやしないさ。俺はカトレアさえいればそれでいい」

 「……何を言っても無駄なようですね」

 「そういうことだ。だから………」


 言葉をそこで切った。不自然に思ったので構えておくと、いきなり視界からシドさんが消えた。と思ったときにはもう至近距離まで近づかれていた。


 「じゃあな。お前はもう死んでくれよ」


 その言葉と共に、抜き手が僕の方へと迫ってくる。シドさんの爪はかなり伸びているし、硬そうなので僕がこの攻撃を受けたらひとたまりもないだろう。狙われているのは……心臓だった。


※               ※               ※

 「ユート様!」


 思わず声が漏れてしまう。とは言っても仕方がない。あの獣人はとんでもないスピードで動き、攻撃を仕掛けてきたのだ。それも、私ではなくユート様を。もしユート様が怪我をしてしまったら、私は自分で自分を許せそうもない。


 (今すぐ助けなくては!)


 そう思って、魔法を撃とうと獣人の方を向き……驚きで目を見開いた。


 「なっ……どういうことだ!?」

 「あのさ。いつまで僕は守られてる存在だと思われてるのかな?」


 いつものように抑揚の乏しい声。それが私の右から聞こえてきたのだ。私はユート様の右に立っていたはず。普通なら左から声が聞こえるはずなのだ。そして今は左を向いたのだから、真正面にはユート様がいるはず。なのに、ユート様の影は見ることもできなかった。なぜなら………


 「てめえ!どんな手品を使った!」


 獣人が後ろを振り向く。そこにはユート様がいたのだ。


 「どんな手品って……敵にわざわざ教えるような人いないでしょ?」

 「黙れぇ!」


 怒りに任せて、再びユート様へと突っ込んでいく。が、今度ははっきりと見えた。その場でいきなりユート様が消え、獣人の後ろへと出現したのだ。これと似たような現象を私は見たことがあった。これはまさしく………


 (転移能力………!?)


 この場にあの魔物はいない。つまり、ユート様の能力なのだ。それに、ユート様はどこに動けばいいのかがわかっているかのように転移していく。


 (……これ、私はいるのでしょうか?)


 今もまた攻撃を容易く避けるユート様を見てそう思う。最初は私が守らなければいけないと思っていた。なのにむしろ、私の方が守られているような気がする。軽く落ち込んでいると、いきなり声が聞こえた。


 『あ、シルヴィアさん。ちょっといい?』

 「え!?」


 いきなり声を掛けられたので、声を上げたがユート様は口を動かしていなかった。


 『ああ、ごめんね?今は念じたら会話できるから』

 『こ、こうでしょうか?』

 『そうそう。聞こえるよ』

 『これは一体………?』


 念じれば会話ができるなんてスキルは聞いたこともない。


 『それは後で教えるよ。今はシドさんを捕まえることに集中したいから』

 『は、はあ………』

 『それでね?シルヴィアさんに手伝ってほしいことがあるんだ』

 『私に、ですか?』


 正直、ないような気がするのだけど。


 『魔法をね、使ってくれないかな?僕も使えるけど、殺さないようなものはないんだ』

 『……いろいろと言いたいことはありますが、わかりました。どのタイミングで撃てばいいのですか?』

 『次にシルヴィアさんの方にシドさんが移動するんだ。だから、それと同時に撃ってほしい。お願いできる?』

 『お任せください。ちゃんと決めて見せます』

 『うん、お願い』


 ユート様の言葉に頷き、数ある魔法の中で一番的確な魔法を選ぶ。この場合は『スタンショット』でいいだろう。そして、そのときが来た。ユート様の言葉通りに、こちらに向けて移動した。恐らく、私を人質に取ろうと思っていたのだろうがそうはいかない。


 「『スタンショット』!」

 「何っ!?」


 流石に予想していなかったらしく、驚きの表情を浮かべる。だが、むこうの反射神経で避けられてしまった。


 (くっ……もう少し引き付けてから撃つべきでした!)


 そう、後悔したときだった。


 「《半重力(アンチグラビティ)》」


 魔法が急に進行方向を変える。空中にいた獣人は避けきれず、まともに直撃した。私が目線を声の方へと向けると、そこにはユート様がいるのだった。

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