作戦を立てるようです
「シルヴィアさんには話があるんだ」
そう切り出す。これからやろうとしていることは少し面倒なことだから、協力してくれるかどうかは……いや、わかってるか。
「大変だろうけど、力を貸してくれると助かるんだ。勿論、断ってもらっても………」
「いえ、手伝います。それがユート様の助けになるのでしたら」
即答だった。少しくらいは躊躇してもいいと思うんだけど………
「ところで、どのようなことなのですか?」
「うん、内容聞いてから判断した方がいいと思うよ?いくら責任を感じてるからって………」
「ですが、ユート様が困っているのでしたら助けたいと思いますし………」
優しいなあ。やっぱり、先生にそっくりだよ。
「今からやろうと思ってるのはね。とある人を捕まえることなんだ」
「人……ですか?その人はどのようなことをしたのでしょうか………?」
「うーんとね、魔族に力を貸してるみたい」
「……へ?」
「いや、違うかな?たまたま利害が一致しただけかもしれないし、単に魔族が利用してるだけかもしれない。そんな状況だからこそ生かして捕らえたいところなんだけど………」
「す、少しお待ちください。その、ユート様が捕まえようとした方は魔族に協力していたのですか?」
「うん、まあそう見えたよ。僕とクロとアメリアさんを殺そうとしてた」
「なっ……勇者様に対して何ということを!」
「仕方ないよ、むこうは僕のことをよく知らないみたいだし」
そして、話しながら横目で見るとやはり、と言うべきだろうか。カトレアが目に見えて顔色を悪くしていた。ショックだからだろう。
「僕だけだと捕まえることができそうにないんだ。けどシルヴィアさんが協力してくれたら、なんとかなると思う」
「わかりました。私などでよろしければ、いくらでも力を貸しましょう」
「うん、ありがとう………?」
語尾に?がついたのは、それだけシルヴィアさんがやる気を出していたから。何故か、後ろに炎が見えた気もした………
「カトレアもそれでいいかな?」
「え?ど、どうして私が?」
戸惑ってるけど、当たり前じゃない。
「カトレアには説得してもらおうかな、と思ってるんだけど。駄目かな?」
「い、いえ!そういうわけではないんですけど………」
「……失敗するのが怖い?」
肩を震わせる。どうやら当たりだったみたい。
「……その、私なんかにできるのでしょうか?」
「別に失敗しても大丈夫だよ」
「ええ!?」
カトレアは声を上げるけど、それはそうだ。
「だって、そのためにシルヴィアさんがいるんだし。最悪、どうにもならなくなったら僕がなんとかするよ」
「なんとか、ですか?」
「うん。だって、シドさんの狙いは僕みたいだし」
《未来視》を使って見えたのは、シドさんが僕を殺そうとする未来。だから、この作戦では僕を囮にする。そうすれば、むこうから来てくれるだろうからね。
「なっ……危険すぎます!」
「そうですよ!反対です!」
そういった趣旨のことを伝えると、二人して反対された。大丈夫なのになあ………
「んー、じゃあこうしよっか。たぶんこれなら二人も納得してくれると思う」
仕方がないから、妥協案を出す。本当はあまり使いたくない手ではあったけど……これなら二人にも、僕自身にも問題ないと思うんだけど。
「……まあ、それでしたら」
「大丈夫ですけど………」
それでも納得いかなさそうなのが印象的だった。……僕、そんなに弱くないんだけどなあ。二人とはそれから作戦の具体的な内容とどう動くか、そして緊急時にはどうするかを伝えておいた。二人とも驚いてはいたけど、了承してくれた。上手くいくといいんだけど。
※ ※ ※
「それでシルヴィアは残るんだ?」
「はい。皆様には本当に申し訳なく………」
「ああ、いいっていいって。ユートを守るためなら仕方ないよ」
「そうそう。姫さんはちゃんとそいつを守っとけ。万が一がないとは限らないからな」
次の日。ジリアンさんたちは魔族を倒すため、遠征に出かけようとしていた。道中休みは取る気でいるから大丈夫だとは思うんだけど。
「……カトレア。主にあやつが近づきすぎないようにしっかりと見守っていろ。いざとなったら、強硬手段を取れ」
「クロさんはどうしてそこまで頑ななんですか………」
クロとカトレアが何か話している。何を話してるんだろ?僕のことを頼む、とかかな?
「……クロ。みんなのこと、お願いね?」
「主のいうことなら聞くが……いざとなれば見捨てるぞ?」
「それはないよ。クロだから」
クロならみんなを助け出して、尚且つ自分もどうにかできると信じてる。だから任せられるんだ。
「……そうか。わかった。だが、一つ不可解なのは………」
「アメリアさんのこと?そうかもしれないけど」
口を動かすふりをしながら、それを使う。
『わからないんだ』
『どういうことだ?』
『《未来視》を使っても、何があったのかがまったく見えない。ただ、あのボルグってやつが倒れてる未来しか見えなかったんだ』
『そうなのか………』
『ただ、敵ではないと思う。だからついて行ってもらおうと思ったんだよ』
『わかった。それが主の判断なら、我は主に従うまでだ』
辺りを見回すと、みんなももう会話を切り上げたらしい。出発しようとしている。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「ああ、いってくるぜ」
「体に気を付けてね?」
「無理しちゃだめですよ?」
別れの言葉を済ませて、街の外へと出ていった。さてと、僕たちも準備をしないと。
(もしかしたら、だけど。アメリアさんは………)
今は考えても仕方ないか。そう思って、カトレアたちを追いかけた。