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隠された狂気

 「……今、何と言ったのですか………?」


 治療?誰の?放たれた言葉を否定してほしいがために口からこぼれたが、返ってきたのは何も変わらない事実だった。


 「……主が負傷したのだ。八魔将とやらの襲撃を受けてな」


 ぐらりと足元が崩れるかのような感覚。けれどなんとか持ち直し、この魔物に問い詰めた。


 「ユート様は……ユート様は無事なのですか!?どのレベルの傷なんですか!」

 「ええい、鬱陶しい!離れろ!命に関わるレベルではないわ!」

 「あ、律儀にそこは答えるのか」


 命に関わるほどではないと聞き、ようやく冷静さを取り戻す。それを見計らってジリアン様が応対し始めた。


 「まず確認するんだが、どんな怪我なんだ?お前が大騒ぎするぐらいなのか?」

 「……左腕丸々一本だ。敵の攻撃からカトレアを守るために犠牲にした。ひどい火傷で、このまま放っておけば今後左腕は使えなくなるのは確定だろう」

 「なるほどな……そりゃ、呼びにも来るか。で、次にだが。これから行くのはバーホルト国なんだな?」

 「ああ、そうだ。それがどうかしたのか」

 「いや、ちょうどよかった。俺らが向かう先もバーホルト国だったんでな。拒否する理由がねえ」

 「そうか。なら、とっとと行くぞ」

 「いや、もう一つ聞きたいことがある」

 「……なんだ?急いでいるのだから早くしろ」

 「八魔将ってのは本当なのか?もし本当ならどれくらい強い?」


 魔物の動きが止まる。まるで、何かを堪えているかのような様子だった。


 「……主がよく知っている。治療して、完全に回復してから聞け」

 「そうか。わかった、準備するから少し待ってろ」

 「1分でしろ」

 「無理だっつの………」


 話がまとまったようなので、私たちも準備にかかる。どうせまた話していたら強制的に転移するつもりだろう。ため息をつきながら、荷物をまとめた。だが、このとき私たちは何もわかっていなかったのだ。事態は遥かに複雑になっていたことを………


※               ※               ※

 視界が暗転し、また回復する。一瞬で移動した先には、ベッドに横たわっているユート様とその手を握っているカトレアさん、そして何か魔法を使っている知らない女性がいた。


 「おい、貴様。何をしている?」


 戻って来て早々不機嫌になっている。この魔物は礼儀というものを知らないのだろうか?……知らないに違いないけど。


 「……ああ、あんた帰ってきたの?どうにかできるやつを連れてきたんでしょうね?」

 「当たり前だ。勇者共を連れてきたのだから、それくらいはやってもらわねば困る」

 「勇者?とんでもないのを連れてきたわね………」


 そう言って振り返ったその人は美人だった。前々から思っていたけれど、ユート様は女の人を引っ掛けすぎてる気がする………


 「うーん、男がいるのが納得いかないけどまあいいわ。3人とも十分に可愛いしね」

 「貴様はすぐにそれか。殺されたいようだな?」

 「はあ、私は今疲れてるんだからやめてちょうだい。……それと、一旦外に出るわよ」

 「……構わん。ここで騒げば主の迷惑になりかねん」


 そう言って、その女性は魔物を伴って出ていった。一応、気を遣っているのだろう。


 「俺らも出とくか。邪魔しちゃわりいしな」

 「そうだね、コルネリア。後は頼める?」

 「は、はい!頑張ります!」

 

 そんな話が聞こえる中、私はユート様に近づいていた。確かにひどい傷だった。左腕が肩から指先にかけてまで皮膚がただれている。


 「……い、おい、姫さんよ。聞いてんのか?」

 「は、はい?何でしょうか?」

 「いや、外に出るぞって言いたかったんだが……その様子だと部屋の中にいた方がよさそうだな」

 「え?あ、いえ、大丈夫です」

 「大丈夫じゃねえっての。いいから残ってろっての」


 そう言うや否や、コルネリア様だけを残して勇者様たちは皆退出してしまった。残ったのは未だに眠っているユート様とカトレアさん、コルネリア様と私だけだった。


 「じゃ、じゃあ、始めちゃいますね?いつまでもこのままだと痛いでしょうから」

 「あ……お願いします」


 コルネリア様が詠唱を紡ぎ始め、ユート様を治していく。私はただ、無事であることを祈ることしかできなかった。


※               ※               ※

 「それで?何の用だ、こんなところまで連れ出して」


 部屋を出て、街の外まで転移してくれと頼まれたので連れてきてやった。とは言っても、素直にこいつのいうことを聞いたわけではない。隙あらば、こいつに傷でも作ってやろうという考えだ。


 「いや、ちょっと話をね」

 「貴様と話すようなことなどないが?」

 「いいから聞きなさいよ。大事なことなんだから」


 そう言われて渋々だが聞くことにしてやる。


 「私はね。可愛いものが好きなのよ。それが何であれ、ね。だからこそ、男は嫌いなの。可愛くもなんともないから」

 「…………」

 「でもね。今回、気付いちゃったのよ。私はなにも見えていなかったってことに」

 「……それがどうかしたのか」

 「どうかするわよ。だって、あの子。可愛いでしょう?」


 あの子、とは誰かを聞くまでもない。こいつが指しているのは間違いなく………


 「随分と都合がいいことだな。主のことをあれだけ疲労させておいたくせに、今さらその態度か」


 ふざけるなと叫びたくもなる。だが、激情に任せて傷つけるのは得策ではない。やるなら徹底的に痛めつけなければ。


 「別にただで許してもらおうなんて思ってないわよ。だからあんたが帰って来るまで悪化させないようにしてたわけだしね」


 何をしているのかと思えば、そんなことをしていたのか。帰って来たときにしていたのは魔法で持たせていたということなのだろう。


 「それで許されると?そんなもので許されるほど主は………」

 「はあ?あんたは何を言ってるの?」


 その言葉に耳を疑う。どういうことだ?そう訝っていると、この女はいきなり左腕をこちらへ向けてきた。……まるで、差し出すかのように。


 「……何のつもりだ?」

 「噛み砕きなさい。あの子と同じ傷を負うためにも、ね」


 思わずぞっとする。こいつの目は笑ったままなのだ。本気で噛み砕かれる気でいる。


 「ああ、でもそれでも足りないかもしれないわね。なんなら、足一本もつけていいわよ?」

 「……お前、正気か?」

 「ええ、正気よ。だからこそ償おうとしてるんじゃない」


 笑みを強くする。もはや狂気の笑みにしか見えなくなったその顔で、そいつは滔々と言葉を紡ぐ。


 「可愛いものは正義なの。傷つけたものには罰が必要なのよ。あたしにも、あの獣人にも、あの魔族にも。でも、可愛いものを愛でるためにもあたしは死ねない。なら、必死で償うしかないでしょう?あの子のためになることをしなくちゃいけないの。それがあたしへの罰なのよ」


 そこで一度区切り、こっちを向く。


 「さあ、早くやりなさい?じゃないと戻れないでしょう?」

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