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限界

 戻ってきたのは門の前。別に宿でもよかったんだろうけど、もし宿に戻っていたらあの魔族のことを教えることができない。恐らく、あの魔族に出会っても戻ってこれる人はそうはいないと思う。となると、この国はあの魔族たちの存在を知らずに暮らしていくことになる。その先に待ち受けているのは滅びの道しかない。カトレアを守らなくちゃいけない身としては何としてでもそれは止めたい。だからこそ、知らせるまでは戻っちゃいけないんだ。例え、それで自分の腕が犠牲になることになったとしても。


 「おう、お前たちか。どうしたん……って、なんだそりゃ!?」


 門の方からすっかり顔なじみとなったエヴァンさんが歩いてくる。そして、僕たちの様子を見てただならぬことがあったというのがわかったようだった。それもそうだ、自分のことは自分がよくわかっているのだから。


 「ゆ、ユート様……その腕は………?」


 腕を掴んだままのカトレアが口を開く。その表情は後悔で一杯のようだった。自分の腕に目を落とす。炎に手を突っ込んだときに焼けたのか、指先から肘にかけてがただれている。二の腕はカトレアが腕を掴むまで待っていたためなのか、炭化している。それでもカトレアの手を放していなかったのを褒めれるレベルの怪我だ。……まあもう手の感覚がなく、動かすこともできないというのが正しいのかもしれないが。


 「おい、お前大丈夫なのか!?すぐに治療しないと………!」

 「そんなことをしてる暇はないんだ」

 「そんなことだと!?こんだけの怪我だぞ、そんなこと程度じゃあすまないだろ!」

 「そんなことだよ。何もしなくちゃ、ここまで戻ってきた意味がなくなる」

 「だったら何だ!早くそれを言え!」

 「八魔将が出た」


 エヴァンさんの動きが止まり、他にも近寄ってきた門番の人たちも動きが止まる。聞き間違えがないようにもう一度伝える。


 「八魔将が出たんだ。ここからそう遠くないところに」

 「……おい、それは本当なのか?本当に出たのか?」


 頼むから否定してくれと、表情が語っている。周りを見れば周りの人たちも同じような表情だった。


 「……間違いないよ。自分でそう名乗ってた。それに、それくらいの腕は持っていたと思う」

 「嘘、だろ………?」


 呆然としている門番さんたち。想像を絶するような事態に遭遇したから、混乱しているのだろう。けれど、気にしているような暇はないからこそさらに言葉を続ける。


 「今すぐシュレンブルク王国に連絡を取って。数が多いから、兵士とかも必要になると思う。協力してもらわないと」

 「無理だ……間に合うわけがない………」


 誰かが絶望したように呟く。確かに、普通なら間に合わないだろう。けど、間に合わせなきゃいけない。そして、間に合わせることはできる。

 

 「そこら辺は大丈夫だから。なんとかして間に合わせるよ。だから、早く連絡して」

 「……わかった。とりあえず、報告しよう」


 周りよりも一足先に我を取り戻したエヴァンさんがそう言ってくれる。よかった。どうやら大丈夫そうだ。


 「……クロ、シルヴィアさんたちを呼んできてくれる?対抗できるのはみんなだけだろうし」

 「いつもなら断るところだがな……今は状況が状況だ。呼んできてやろう」

 「そう、ありがとう………」


 やるべきことは全部終わらせられた。もう、僕にできることはないだろう。だから………


 「ユート様!?」

 「主!?」


 やっと休める……気力だけで持たせるのは大変だった………


 (ああ、そういえば………)


 カトレアの手を握ったままだった。少し、悪いことをしちゃったかもなあ………


※               ※               ※

 「ユート様!?ユート様!しっかりしてください!」


 もう嫌だ。あのときみたいに、誰かがいなくなってしまうのは。


 「落ち着いて、カトレアちゃん。何があったにしても、揺らすとよくないわよ?」


 振り返れば、珍しくアメリアさんがユート様に視線を向けている。


 「呼吸は……あるわね。鼓動もあるし、死ぬことはないでしょう。気絶しただけね」

 「ほんとう、ですか………?」

 「ええ。でも、火傷がひどい。もしかしたら一生動かないかもしれない」


 その言葉に頭を殴られたような衝撃を感じた。


 「そんな……私のせいで………」

 「あなたのせいじゃないわ。……もう、ここは離れていいわよね?」

 「あ、ああ。早くそいつを休ませてやってくれ」

 「ちょっと黒犬。あんた、こいつ宿まで運べる?」

 「……舐めるな、女。それくらい造作もない」


 視界が暗転したかと思うと、見慣れた風景に。私たちが泊まっている宿まで戻ってきたようだ。ベッドの上に寝かせようとして気付く。火傷している手は、眠っているのに離していないのだ。……こんなにぼろぼろになっているのに。涙が溢れそうになる。私はこの人に何もできていない。それなのに、この人はずっと守ろうとしてくれる。そして、実際に守ってくれたのだ。今日だってそうだった。


 「焼け石に水でしかないだろうけど、魔法で何とかできないかやってみるわ。服を脱がすの手伝ってくれる?」

 「は、はい」


 今、私ができるのはこれくらい。だからこそ、それをきちんとやるしかない。


 「我は一度勇者共のところに行くぞ。治すにはやつの力が必要だろう」

 「……お願いします」


 クロさんが言っているのはコルネリア様のことだろう。確かにあの人なら、助けることができるかもしれない。

 クロさんを見送って、ユート様の服を脱がす。……こんなときなのに、なぜか変なことを考えてしまう。


 「は?」

 「どうかしましたか?」

 「え、ええ……こいつ、こんなに細かったの?」

 「はい。どうやら病弱らしいので……すぐに倒れてしまうんです。だから、無茶はしてほしくないのに………」


 それでも、無茶をしようとする。特に、自分以外のことが絡むと。ユート様にはもう少し周りのことを考えてもらいたい。そう考えながら、横を見るとアメリアさんが真剣な表情でユート様を見ている。


 「アメリアさん?」

 「……馬鹿ね」

 「え?」


 いきなり何を言うんだろう。もしかして、ユート様に向けて言ったんだろうか。そう思って非難の視線を向けると、笑って手を振った。


 「違うわ。この子のことじゃないわよ。そうじゃなくて私のこと」

 「それは、どういう………?」

 「ちょっとだけ本気出すわ。なんとかしてあげる」


 いきなりのそんな宣言に目を白黒させるのだった。 

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