釈放されたそうです
「二人とも牢屋から出れてよかったねえ」
カトレアがクロとアメリアさんを置いていく宣言をした次の日。とりあえず、大人しくできるっぽいから釈放ってことで、と引き渡された。乱暴も食事抜きとかもなかったようだし、ほんとによかったよ。……理由はともあれ。ちなみに、僕たちに二人を引き渡したときのエヴァンさんの表情はとても嬉しそうだった。そんなに面倒だったのかな………?
「ああ、主よ。すまなかった。少し大人げなかったのかもしれん」
おお、珍しい。クロが反省しているみたいだ。よほどカトレアのあれが堪えたのかな?
「そうねえ。ごめんなさいね、カトレアちゃん。私、少し子供っぽかったかもしれないわ」
アメリアさんもカトレアに謝っていた。まあ、別にこれと言って僕への態度が変わったみたいでもなさそうだけど。
「それで、今日はどうするのだ?」
「ん?んー……どうしよっか?」
まだ何も決めてないんだよね。朝になったらすぐに、エヴァンさんがクロたちを連れてきたわけだし。
「何も決めていないなら、今日は冒険者ギルドで依頼を受けませんか?お金はいくらあっても、あり過ぎるということはないと思いますし」
「そう?あんまり多いとかさばるわよ?」
「そこはクロに任せれば何とかなるしねえ」
正直、金庫よりもよほど頼れると思う。すごいねえ、《影収納》って。
「……あんたって、一応それなりに使えるやつじゃああったのね………」
「……少なくとも、お前よりは役に立っているな」
また険悪ムードになりかけているけど、カトレアが何かを言う前に互いにそれを霧散させる。……うん。落ち着いてはいるのかな?取っ組み合いの喧嘩にはなってないし、注意されてもグチグチと続けるわけでもないし。何より自発的にやめているわけだから、落ち着いてはいると思う。というか、そう信じたい。もう疲れるような事態は勘弁したいし。
「……まあ言いたいことはありますが、とりあえず冒険者ギルドまで行きますか。急がなければ日が暮れてしまいますから」
「そうだね」
あまり深く突っ込むと、また面倒事になるのが見えたからカトレアの考えに賛成した。二人もどうやら問題はないみたい。黙ってついてきていた。
……え?どこにあるのかわかるかって?わかるけど、カトレア曰く遠回りになるのでやめてくださいだそうだ。ひどいよね。そういうことで、今日も今日とてカトレアに手を引かれて街を歩いていくのだった。
※ ※ ※
「ええと?魔力草?の採取と、スピン……なんだっけ?」
「魔力草30本の採取と、スピンブロッサムの退治ですよ。なんでも、スピンブロッサムが大量に発生してしまったようなので」
並んで歩きながら会話を続ける。クロたちは後ろにいる。いざというときにすぐに対応するためだって。別にそこまで気にしなくても、《未来視》があるんだから大丈夫だと思うんだけどなあ。あと、いつになったらカトレアは手を放してくれるんだろう………?
「……ユート様が変なことをしなければ離しますが」
あれ?口に出してたっけ?そんなことはないと思ったんだけど。
「別に口にしなくてもわかりますよ。何となくですけど」
そうなんだ。すごいねえ。流石はメイドさんなだけはあるのかな?
「だから、メイドは関係ないですよ………」
呆れ交じりの視線を向けられた。なんでだろ?
「とりあえず、です。ユート様はあまり採取は得意ではないようなので、スピンブロッサムをどうこうする方を頼んでもよいでしょうか?武器も何もないと、魔法を使わなければ危険な相手ですので………」
「うん、いいよ。カトレアが魔力草を集めるってことでいいんだよね?」
「はい。魔力草の匂いは独特なので、恐らく見つけることは難しくないと思いますし」
そんな会話をしていると、アメリアさんも会話に交じってくる。
「へえ、カトレアちゃんすごいわねえ。やっぱり私のところに来ないかしら?」
「行きません!」
あ、今回は断固拒否するみたいだ。まあ曖昧に返事をしたら、強引な手を使いそうな人だしなあ。仕方ないと言えば仕方ないのかも?
「話を整理すると、だ。今回は我とカトレアが魔力草とスピンブロッサムとやらを発見。主とそこの女が討伐を行うということでいいのか?」
「はい、それでいいと思います」
どうやら話はまとまったみたい。僕はそのスピンブロッサム?とかいう魔物を倒せばいいみたい。あんまり難しくないからこれでいいのかな、とも思ったけど。
そんな話をしながら、気が緩んでいたからなのかもしれない。それに直前まで気付くことができなかった。それでも、気付くことができたのは奇跡としか言いようがないのかもしれない。突然嫌な予感がしたため、後ろを振り返り転移する。転移すると同時に、今まで僕たちが歩いていたところに火柱が上がる。一瞬でも遅れていたら、即死していただろう。
「え?え?」
「……油断したか。何たる不覚ッ………!」
「ど、どういうこと?何よ、あれ?」
それぞれが火柱に向け、思い思いの言葉を口にする。けれど、僕にはそんなことを言っている暇はなかった。もし気を抜けば、瞬時に死ぬ。そう思ったからだ。《未来視》を使用しながら、その場で問いかける。
「……あなたは誰?そこの、茂みの向こう側にいる魔族さんは」
「ほう?よくもまあ、気付けたものだ」
茂みの中から出てきた、その魔族を見て確信する。この魔族と似たような魔族に出会ったことがある。こいつは………
「初めましてだな、人間の少年よ。私の名前はボルグという」
現れたそいつには足がなかった。いや、人型ですらなかった。燃え上がる炎に腕を付け足したかのような、奇妙な姿。目も、鼻も、耳もない。あるのはただ口のみだった。それがかえって不気味さを加速させる。ボルグと名乗ったその魔族はその口を笑みの形に変える。
「八魔将の一人だ」