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激昂したようです

 「……ねえ、二人とも」

 「我は人ではないぞ」

 「そこは今どうでもいいから。そんなことよりも優先しなくちゃいけないことあるから」


 バーホルト国に入国してから、丸三日。疲れはちゃんと取れたし、街の人は獣人に対して寛容とまではいかないまでも帝国や王国ほどひどくない。だから、もし行くところがなかったらここで暮らしてみるのもいいかもね、とかカトレアと話していたのだけど……ここで一つ問題が生じたのだ。


 「……いつまで捕まってるつもりなの?」

 「この女が反省の色を見せないから………」

 「こいつが生意気なのよ」

 「……つまり、どっちもどっちだと」


 牢屋に入って、ついぞここまで出ることのなかった二人である。前に宿を教えてくれた門番さん―――エヴァンさんというらしい―――が教えてくれたところによると、三日間ずっとこの調子らしい。よくもまあ、あんなに続けられるもんだと感嘆してた。うん、そこは感心するところじゃないと思った。


 「カトレアちゃん、こいつに何か言ってあげて?どう考えてもこいつが悪いでしょう?」

 「主よ、この女など放って先へ急ぐのだ。こんなやつなど、いるだけで邪魔になるだろう」


 二人が威嚇し合う。確かにこれは近づきたくもなくなるよね……出さなきゃそれでいいよと、ここに入ろうとはしなかったエヴァンさんを思い出した。


 「カトレア、どうしようか?」

 

 流石に依頼を受けたくなったから、もう出してもらえるかなと来てみたんだけど。この様子じゃ行けそうもないなあ………


 「……そうですね。じゃあ、こうしましょう」

 「何か思いついたの?」

 「はい。二人とも反省の色が見られないようなので、置いていきましょう」

 「「「……え?」」」


 三人分の声が重なる。それほどとんでもないことを言ったような気がする。


 「えっと、カトレア?」

 「はい?」

 「置いてくの、クロとアメリアさん?」

 「はい」

 「つまりは僕とカトレアだけで出かけるってこと?依頼に?」

 「あ、少し違います」

 

 ……?依頼受けようとして来たのに違う?どういうことだろ?


 「このままサクラ連邦に行きましょう」

 「……二人で?」

 「はい」

 「ええと、それは………」

 「駄目だ!」

 「駄目よ!」


 いいのかな?って言おうとする前に二つの声に遮られた。勿論、クロとアメリアさんだ。


 「主に何かあったらどうする!お前が守り切れるとでも言うのか!」

 「クロさん、確かにクロさんがいた方が安全なのかもしれません」

 「ならば!」

 「でも、今の状態だとむしろ害にしかなりません。ユート様が何故あんなに疲れていたのか、それすらもわからないんですか?」

 「いや、それは………」

 「わからないようですね、ならついてくる必要はないです。ユート様のことを考えるならここで暮らすか、考え方を改めるかしてください。ユート様の迷惑です」

 「…………」

 

 クロが黙り込んでしまった。なんだろう。フォローしてあげたいけど、何故かしたくない気持ちの方が勝っちゃう………


 「か、カトレアちゃん?私は関係ないんじゃないかしら?」

 「黙ってください」

 「へ?」

 「前々から思っていましたが、ユート様に対する迷惑行為や無視など目に余る行為が多すぎます。連れていくことにどんなメリットが?」

 「い、いや、魔法とか使えるし………」

 「私に対してしか使いませんよね?それならいてもいなくても同じです。というより、いることでユート様が被害を被っている分邪魔にしかなりません。だから置いていくんです。わかりませんでしたか?」

 「あ、ええっと、その………」

 「少なくとも、二人に反省の色が見えるまで一緒に連れていく気はありません。いいですね?」

 「いや、我が聞く必要はないような………」

 「私も別にそう言われる必要は………」

 「い い で す ね?」

 「「はいっ!」」


 ……カトレア、怒ってる?何に対してかはわからないけど……やっぱり、怒らせない方がいいなあ。しみじみとそう思った。ちなみに僕は返事はしなかったけど、反射的に背筋を伸ばしていた。二人は言わずもがなだった………


※               ※               ※

 「おい、女」

 「……いちいち、呼び方もイラつかせるわね。何よ?」

 「一時休戦にするぞ。このままでは主を守れん」

 「はあ、まあ妥当よね。私もこのままじゃカトレアちゃんに置いて行かれちゃうし」


 互いに互いが気に食わないようだが、目的のために堪えることができないほどに子供なわけでもないようだ。一時休戦、という言葉に不承不承といった様子で頷く。が、目を合わせることはしない。どころか、相手の方を向きもしない。やはり嫌いであるのは変わらないようだ。


 「お?珍しいな、喧嘩してねえのは」


 飯を持って来たのだろう、二人の前にもはや恒例となったエヴァンがやってくる。何があったのかを知らない彼は目を見張る。


 「……いろいろあったのだ。あまり詮索するな」

 「そうか。まあ、暴れられなきゃ構わんよ。ここを壊されると流石に困るしな」


 典型的なおっさんの様に笑う。まあ、見た目も年齢的にもおっさんなわけだが。


 「……あれから魔族はどうなっているのだ」

 「んー、いや、何も聞かねえな。見間違えだったのかもしれんし、動いてないだけかもしれんし………」

 「つまりわからない、と」

 「そうとも言う」


 にやりと笑って、答える。それに対し、クロは呆れた様な顔だった。


 「近々、依頼が出るかもな。調査してくれ、ってやつが」

 「そうか」


 何となく嫌な予感がかすめたが、それよりもここを出る方が先だと思い直し、考えを切り替えたのだった。

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