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魔族が現れた場所

 「すぐに取れてよかったね」


 ベッドの上に座りながらそう言う。どうやらこの国ではあらかさまな獣人差別とかはないみたい。現に街を歩いていれば、獣人の人たちがちらほらと見受けられた。


 「そうですね。あの門番さんには感謝しないと」


 あの注意しに来てくれた門番さんはおすすめの宿を教えてくれたのだ。大変そうな目に合ってるからほんの少し手助けしてやろう、と。


 「そうだね。……クロたちに対してはやり過ぎだと思わなくもないけど」


 そう、今ここにはクロがいないのだ。ついでに言うならアメリアさんも。門のところで騒ぎを起こしたため、反省しろとのことで牢屋行きらしい。二人でやり過ぎなんじゃ?ちゃんと言い聞かせておくからそこまでは、と反論したんだけど、怖がらせたのは事実だし皆を安心させるためにも入っていてもらうことになっちゃったのだ。ひどいことはしないし、飯とかも出すから安心してくれとは言っていた。だから、大丈夫だとは思うんだけど。


 「まあ、何かあればクロさんが逃げてきますよ。心配でしたら、夕食を探しているときに様子を見に行けばいいことですし」

 「ん、そうするよ」


 疲れたから、少し寝転びながら返事をする。もうくたくただったからちょうどよかった。ようやく休むことができそう。寝転んでいると、だんだんと瞼が重くなってくる。気付いたときにはもう、意識を失っていた。


※               ※               ※

 「あーあ、あんたのせいでこんな所に泊まる羽目になったじゃない」

 「それはこちらのセリフだ。何故我がこんな所で時間を費やさなければならんのだ………!」


 互いに責任を押し付け合う。ユートがいれば、どっちもどっちじゃない?と言っていそうだが、いないので醜い争いは留まることがない。あまりにも大音量で騒いでいるために、近づいてくる足音に気付くことはなかった。……単に気に留めなかっただけなのかもしれないが。


 「おーおー、まだやってんのか。飽きないねえ、あんたら」

 

 互いに舌打ちをして、近づいてきたものに目をやる。


 「……何の用だ」

 「くだらないことならとっとと帰ってくれる?ついでにここから出しなさい」

 「無茶苦茶言うなあ。無理だっての、あんなことやらかしてんだからさ」

 

 二人が黙り込む。まあ、やり過ぎたという自覚はあるようだ。


 「今はここらがピリピリしてるんだ。だから、危険はないと判断されねえと解放できねえのさ。悪いな」

 「……何かあったのか?」

 「んー、実はな………」


※               ※               ※

 「……で?あのオッサンの用事って何なんだ?」

 「さあ、そこまでは……急いで来てくれとしか聞いていませんので………」

 「私、なんだか嫌な予感がするんだけど。具体的に言うと、またどこか行けみたいな………」

 「ええ!?まだ帰って来たばかりですよ!?いくらなんでもばてちゃいますよ!」

 「だよな……あのオッサン、俺らのことをなんだと思ってやがる」


 あの八魔将を倒して帰って来た次の日。国民たちの熱狂ぶりはまだ冷めるような兆しを見せなかった。考えてみれば当然ではある。誰も太刀打ちできなかった八魔将を勇者様たちが倒したのだ。これで興奮するなという方がおかしい。実際に、私だって嬉しくないはずがない。これで平和に一歩近づけたということでもあるのだから。

 そんな矢先にお父様から謁見の間に来るように指示があった。勿論、勇者様たちを連れてだ。本音を言えばもう少し休みたいところではあったし、勇者様たちにも休んでいて欲しいところではあった。けれど、緊急の用事と言われれば断ることはできず、連れていくことを余儀なくされた。程なくして謁見の間に着き、中へと入る。


 「勇者たちか。よく来てくれた」

 「ああ。誰かさんのせいで来ることを強制されたんでね」


 ジリアン様がそんな皮肉を口にする。無礼ではあるけど、仕方はない。いまだに疲れが取れ切っていないのだ。


 「それについてはすまなく思っている。そして、同時に感謝もしたい。八魔将の1体を倒してくれたことに礼を言う」

 「そーかい。それだけなら俺は戻るぞ」

 「いや、それだけではない。非常に申し訳ないことではあるが、すぐに向かってもらいたいところがある」


 その言葉を聞いて、流石に耐えきれなくなったようだ。ジリアン様が立ち上がる。


 「いい加減にしろよ、てめえ……俺らのことを駒か何かと勘違いしてるんじゃねえのか………?」

 「じ、ジリアンさん?落ち着いて………」

 「こっちは旅慣れてねえやつだっていんだよ。せめて一週間は休息に必要だ。なのに、すぐに向かってくれだあ?舐めてんじゃねえぞ!」


 その迫力に呑まれ、騎士たちも何も言えなくなる。


 「お父様、いくらなんでもすぐに行ってくれというのは無理がありませんか?勇者様たちでも疲労を感じることはあるのです。万全の態勢で向かった方がむしろいいかと………」

 「そうも言っていられない状況なのだ」


 突然言葉を遮られる。その表情には苦り切ったようなものが含まれていた。


 「……八魔将が現れた、との報告が昨日入った。昨日のうちに騎士団をいくらか派遣したが、どれだけ持ちこたえられるか正直わからぬ。手遅れになる前に向かってほしいのだ」


 誰かが息をのむ。そんなことになっていたなんてまったく知らなかった。


 「どこに……どこに現れたのですか?」

 「……バーホルト国だそうだ」

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