表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/204

記憶の片鱗

なかなか話が進まない……

 案内された部屋は大きくて、勇者って本当に歓迎されてるんだなって思ったよ。凄いと思ったのはこれだけ大きい部屋なら普通は3人――――頑張れば4人でもいけるかも――――で使いそうなのに、これが僕の部屋だってことだよね。個室らしいよ?2人で使っても十分だと思うくらいなのになあ。しかも、ベッドは天蓋付きだし。ソファもあるよ。まさに至れり尽くせりだね。


 「さて、と」

 

 部屋の中をある程度確認すると、ベッドに横になる。疲れたっていうのもあったけど、もし休んでなかったってみんなが知ったらどうなることか。ろくな目には合わなさそうだよ。晩御飯までは時間もあるみたいだし、少し寝てようかな。わ、ベッドふかふかだ。よく寝られそうだね。

 そうして寝転んでいると、段々意識が遠く………


※               ※               ※

 また、同じ夢。黒髪の少年は何かと歩いている。少年は興味を引くものを見つけたらしく、何かとともにそちらに近づいていく。立ち話をしているところから知り合いにでも会ったのだろう。しばらく話した後、やはり何かと一緒に駆けていった。

 

 (話をしていた人は誰なんだろう?)


 そう思い、近づいていく。そして、ドアから話していた人物を確認しようとしたその時。


 「……ま。………様」


 体をゆすられたような気がした。同時に、やはり意識が浮上していく。


 (また、何もわからないままだったな………)


 きっと起きれば、また忘れてしまうのだろう。夢の内容などそんなものだ。起きたときに夢をはっきりと覚えているなどほとんどないことだ。だから。仕方のないことなのだけれど………


 (結局、僕は何者なの………?)


※               ※               ※

 「起きてください!勇者様!」

 「ん………」


 目を開けると、そこには女の子の顔が。起きていきなりドッキリってよくないと思うんだ、僕。

 まあ、そんなことは一旦置いとこう。その女の子を確認してみる。部屋に来たときはこんな子いなかったよね?だって、メイド服着てるし。メイドさんだよね?こんな特徴的な人なら見落としそうもないしねえ。少し赤みがかった茶色い髪がさらさらと揺れてる。にしても、近いなあ。


 「うーん、あのさ」

 「は、はい!何でしょう!?」

 「いや、どいてくれないと起き上がれないんだけど………」

 「え………?あ!すみません、すみません!今すぐどきます!」


 って言って、遠くまで離れちゃった。そこまで離れてくれとは言ってないんだけど………

 

 「ふにゃ?」


 あれ?何あれ?


 「ねえ、ちょっと聞いていい?」

 「は、はい!何ですか!?何かいけないことでもありましたか!?」

 「そんなに緊張しなくてもいいんだけど……あのさ、その()って本物?」

 

 そう。メイドさんの頭の上には耳があった。犬の。


 「あ……はい。本物です………」

 「そうなんだ。ちょっとこっちに来てくれない?」

 「え?あ、はい」


 体を起こして、ベッドに腰かける。その間に近づいてくれた。腰かけると同時に近づき終わっていた。さすがメイドさんだね。


 「どういうことなんでしょうか………?」

 「え?声に出てた?」

 「いえ、そう言わなきゃいけない気がしたので………」


 女の子の勘って凄いね。あれ?でも、ジリアンさんも似たようなことしたよね?ジリアンさんも実は女の子?


 「んなわけあるか!」


 あれ?ジリアンさんの声が聞こえた様な……?女の人じゃなかったんだね。


 「ええと、それでなんでしょうか………?」

 「ああ、そうだった」

 

 考え事してたから最初の目的忘れてたよ。


 「よっと」

 「わっ!」


 頭の上の耳に触ってみた。どう見ても本物だったけど、触ってみるとやっぱり本物なんだなって思ったよ。ちょっと変な触り心地だったけど。


 「耳のブラッシングしてないの?」

 「ブラッシング………ですか?」


 知らなさそうだし、してないみたい。だから滑らかな手触りにならないんだよ。いいもの持ってるんだし、ちゃんと手入れした方がいいのに………


 「あれ?」


 また、疑問が。でも、今度は自分のこと。


 (なんでブラッシングのことに詳しいの?)


 自由落下だの、質量と重さの違いだの、ブラッシングのことだの。なんで変なことばかり知っているんだろう。


 (僕は本当にどうだったの………?)


 記憶がないことが不安になった。その時。

 少しだけ頭に痛みが走る。


 「え?」


 メイドさんがそんな言葉を発したことを確認するよりも早く。僕はメイドさんの方に倒れていた。


 「!勇者様!?どうしたんですか!?」


 軽く揺さぶられて、意識を取り戻す。何かを思い出しかけていたような………


 「大丈夫。ただ、ちょっと目眩がしただけだから」

 「本当ですか?食事ができたので呼びに来たのですが、体調が悪いようでしたら無理をしない方が………」

 「ううん。ほんとに大丈夫だから。早く行こう」

 「は、はい………」


 感じた不安を気のせいだったということにして、部屋を出る。

 思えばこの日からだったのかもしれない。記憶を取り戻すきっかけとなったのは。

 そして、この時は気付くことはできなかった。僕の影が少しだけ揺らめき、形を変えたことに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ