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嫌われてる?

 (それにしても、なんでアメリアさんは僕のことを嫌ってるんだろ………?)


 流石にいくら感情の機微に疎いとは言っても、むこうが僕のことを嫌っているということくらいはわかる。あらかさまに視界に入れないようにしてくるし、話しかけても言葉のキャッチボールというものができそうにない。何をやっても無駄そうだ。今だって、テントの外に見張りという名目で放り出されている。いや、まあ別に見張りをするくらいはいいんだけどね。でも、引き受けるって言ったときに言われた言葉がこれ。


 曰く―――あらそう。助かるわ。そのまま朝まで頑張って?と。


 それを理解するのには少し時間がかかった。その間に我を取り戻したクロが怒っていた。……怒っていたなんてものじゃないか。止めてなかったら、アメリアさんを引きずり倒して殺してたかもしれない。それくらいの剣幕だった。クロのあまりの激怒っぷりに驚いてたみたいだけど、こっちもすぐに我を取り戻した様子のアメリアさんは冗談よ、とどこ吹く風だった。そのため、今はすごい険悪な雰囲気なのだ。主にクロが。

 その話はクロ、カトレアも手伝うということになり、アメリアさんもなぜか参加することになって、二人一組でやることに。クロは絶対にアメリアさんとは組まない、アメリアさんはカトレアとしか組みたくないということで、必然的に僕とクロ、カトレアとアメリアさんという組み合わせになる。もうカトレアは疲れ果てたような目をしていた。……大丈夫かな?


 「……ねえ、クロ」

 「なんだ」


 若干怒り交じりの声。それでも怒りを抑えようとしてるのだから大したものだよね。軽く感心しつつも、胸の中に浮かんだ疑問をクロにぶつけ………


 「アメリアさんのことなんだけど………」

 「あの女のことは放っておけ!何ならここに置いて行ってもいいくらいだ!あんな女など助ける価値もない!」


 られなかった。相当ご立腹だったようだ。


 「クロ、僕は気にしてないから大丈夫だよ?」

 「我が大丈夫ではない!今すぐにでも殺してきてやる!」

 「クロはほんとに僕優先だよねえ。別にそこまでしなくてもいいのに」


 そう言って、クロの背中を撫でる。うん、いい毛並みだよね。これならいつまでも触れてそう。


 「……主よ。主には幸福になるための権利………いや、ならなければならないのだ。絶対に」

 「どうして?」

 「それを言うことはできない。……だが主が辛い目に、不幸にあってはならないのだ」

 「それって、クロの自己満足なんじゃない?」


 ただでさえクロはエスカレート気味だからねえ。そこまでしてくれなくたっていいのに。僕は今の状況に不平不満を持ってるわけでもないんだし。


 「……そうだな。そうかもしれん」

 「でしょ?」

 「だが、主の傷つく姿を見たくないと思っているのは確かなのだ」

 「そっか」


 それならそれでいいや。直すのはめんどくさそうだし、何よりそう言われて悪い気はしなかった。


 「そういえば、さっきの続きなんだけど」

 「なんだ」


 嫌そうではあったけど答えてはくれるらしい。律儀だねえ。


 「アメリアさんって、どうしてあんなに僕のこと嫌ってるのかな?何かしでかしたわけでもないのに」

 「ああ、なるほど。そういうことか」


 クロはため息をつくと、いかにも嫌そうな顔で答えてくれた。


 「やつはカトレアのことが好きなのだろうよ」

 「……へ?」

 「だからやつのことだ。あの顔だけよくて、恐らく頭に回されるべき栄養がすべて胸に吸い取られたであろう、主を冒涜した忌むべき、今にでも死ぬべき女のことだ」


 ……きっとアメリアさんのことだろう。ここまでぼろくそに言われるのはシルヴィアさんにもないんじゃなかろうか。よっぽど嫌ってたんだな、と考えると同時に、よくもまあそんなにすらすらと悪口が言えるよねと変なところで感心してしまった。


 「……カトレア、女の子だよ?」

 「だから女にしか興味がないのだろうよ」

 「そんな人いるんだねえ………」


 女の人しか好きになれない女の人かあ………なんか人口減っていきそうだよね、いっぱいいたら。男の人と女の人からしか子供って生まれないんじゃなかったっけ?どうしたら生まれてくるまでかはわからないけど。いつものごとく知識が偏ってるから。ていうか、女の人の知識とか道徳?とかいう知識が全くと言っていいほどにないんだよね。まるで必要がないと教えられなかったように………


 (まあ、そんなことはないと思うけど)


 単に興味がなかっただけだよね。たぶんだけど。


 「んー、じゃあ何を言っても無駄なのかな?」

 「だろうな」

 「こっちから仲良くなろうとしても?」

 「ああ」

 「……なら、どうしようもないのか」


 むこうに仲良くしようとする気がないなら、こちらからどれだけ仲良くしようとしても意味がないだろう。なんかシンシアさんの気持ちがわかったような気がする。


 「見張りしようか。何か来たら困るし」

 「そうだな」


 それを最後に会話を終わらせた。ただ、考え事を始めた僕には直後にクロが呟いた言葉を聞き取ることができなかった。


 「……あれだけの不幸に合って、幸せになれないというならば………そんな世界はどうかしている」


 クロのその言葉の意味を知るのは、また先の話になる。 

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