道中で
「……あの、ユート様?」
「ん?なに?」
何やら呆れた様な目線を送ってくるカトレアを見返す。なんか変なことしたっけ?
「なんで私たちは歩いてないんでしょう………?」
「え?疲れるからだよ?」
自慢じゃないけど、僕は常人よりも体力がない。そりゃあ、まったくないわけでもないけれど……恐らく、次の目的としてるところまで歩きで行くと途中でへばって、カトレアに抱えられていく羽目になりそう。それは情けないし、荷物も……いや、それはクロが保管してくれてるからいいのか。改めてクロに感謝しないとなあ。
「だからと言って、ずっと《テレポート》を使用してどうするんですか!私も一緒にずっと転移させて!」
「?いや、だって一緒に移動しないとはぐれちゃうでしょ?」
前のお祭りのときみたいに。あのときたっぷりと怒られたから、次はしないようにしよって思ったんだよね。そのときの反省をちゃんと活かしてるんだから、怒られるようなことはないと思うんだけど………
「主よ、そろそろ気付いてやれ。カトレアは主のことが心配なのだ」
「そうなの?」
「そうですよ!また倒れたらどうするんですか!」
「また?倒れた事なんていっぱいあると思うんだけど」
「いろいろともうツッコミ切れません………」
本当に疲れたような表情で、ため息をつく。疲れてるのかな?
「カトレアが言っているのはあの魔族と最初に会ったときのことだろう。あのときはなかなか目を覚まさず、心配をさせてたのだからな」
「ああ、あのときか。なら大丈夫だよ」
「……ユート様の大丈夫は大丈夫じゃないです………」
疑いの目で僕を見てくる。ひどいなあ。カトレアって僕のメイドだよね?
「魔族にあったとき倒れたのは無理に能力を使ったからだよ。別に普通に超能力を使う分には制限とかはないんだ」
「無理に、ですか?」
「そう、無理に。あのときはまだ超能力のことを思い出してなかったでしょ?それなのにどうにかしたいと思って、無理矢理に能力を引き出したから血とかが噴出したってわけ」
例えるなら、水の出るところに栓がされているホースみたいなもの。水を出そうと努力して、出すことが叶わず、遂には破裂してしまうのによく似ている。
「じゃあ、普通に《テレポート》と《未来視》を使うだけならまた倒れたりしないってことですか?」
「うん、そういうことになるかな」
そう言って締めくくると、カトレアが僕の顔をじっと見つめてくる。何か顔についてるのかな?
「……嘘じゃないみたいですね。それなら問題ないです」
「……そんなに信用ないのかなあ?」
首をひねりながら先へ、先へと進む。その間に自分の能力について考えていた。
《テレポート》の便利なところは二つある。まず一つは切り替えが可能だということ。この超能力は遠距離移動と近距離移動で切り替えることができる。遠距離だと一度行ったことのある場所に距離に関係なく転移することができる。一方で近距離移動にすると、目視できる範囲に跳べる。前に凛花さんたちを支援したのはこっち。あと、今使ってるのも。歩くよりも早いし、ずっと楽なんだよね。
もう一つの便利なところは体力を全く使わないってところ。いくら使っても疲労の影もよぎらないから、移動するときには重宝するんだよ。
「……ユート様。少しいいでしょうか?」
そんな考え事をしていると、急に声を掛けられる。カトレアを見れば真剣な眼差しだった。どうやら冗談を言うわけじゃないみたい。
「うん、いいけど。何?」
「それが……どうやらこの先で戦闘が行われているようなんです。血の臭いがしますし………」
「そうなの?うーん、どうしようか?」
カトレアの言葉を疑う気は全然と言っていいほどになかった。実際にその嗅覚を頼りにしているし、嘘を言うようなことはないし。そもそも、今嘘をついたところでメリットがないと思う。
「そう、ですね……このまま見捨てるのもなんだか申し訳ないですし、助けませんか?」
「ん、わかった」
「ただし、戦闘はなしでお願いします。目的の場所についたら、困っている方を助けてすぐに転移ということで」
「え?戦わないの?」
「駄目です。もしもがあったらどうするんですか」
「そんなことはないと思うけど………」
「主よ、我もカトレアの意見に賛成だ。戦うくらいならそんなやつらは捨て置け」
「クロはほんとに僕以外には冷たいよねえ……そこまで言うならわかったよ。目的地に着いたら、困っている方を回収して、《テレポート》で逃げるよ」
「回収って……まあいいです。このまままっすぐに進んでください!」
「わかった。急ぐよ」
転移する速度を上げ、カトレアの言う戦闘が行われている場所へと急いだ。