無数の声
3章開始です。読んでくれる人がいるといいんだけど………
(やっと思い出してくれた?でも、どうやらまだ完璧じゃないみたいだねえ………)
(そのようだ。私も一緒に思い出されるとまでは思わなかったのだがな)
(素直じゃないなあ。もっと正直に喜べばいいのに)
(黙っていろ。お前は鬱陶しいな)
(ひどっ!?なんでそこまで言われなきゃいけないのさ!)
どこか遠くで不思議な声が聞こえてくる。いや、頭に響いてくると言った方が正しいのだろうか?ぼんやりとして、思考の纏まらない頭でそんなことを考える。今聞こえてくるのは二つの声。一つはまだまだ幼さを残す声だ。もう一つは少し大人びた、けれど大人ではないような声。二つの声は言い争っているようだった。
(ねえ、みんなも何か言ってあげてよ!素直になれーでも、流石にそれはひどいんじゃない?でもいいからさあ)
(んー、そうですねー……じゃあ、私も早く思い出してほしいですかねー?)
(ええ?それはあの子に言ってよ。ボクじゃどうしようもないし)
(ふふふ、わかってますよー?軽い冗談というものですー)
新しくおっとりとした声が加わる。どうやら声は二つだけではなかったようだ。
(そういうことなら、別に私からは何も言うことはない)
(ええー!?)
(当たり前。私が言いたいことはマスターに思い出してもらいたい。ただそれだけだから)
(そりゃそうだろうけどさー……もうちょっと仲良くなる努力とかあるんじゃない?なんて………)
(なら正直に言う。私はあなたが嫌い。どっか行って)
(そこまで言っちゃう!?)
今度は抑揚の少ない声が聞こえてくる。声はどんどんと増えているようだ。
(あっはっは、フラれちまったなあ!一番使われてるから嫉妬されてるんじゃねえのか?)
(そうだね。それに引き換え僕の使用頻度は少ないから………)
(くっらいなあ!もう少し明るく生きようぜ?)
(誰もが君みたいに明るく、豪快にはなれないんだよ……あと、厳密にいえば僕らは生きてはいないよ)
(そんなに細かいこと気にすんなって!言葉の綾ってやつだしよ!)
続けて増える二つの声。一つは明るく、さばさばとしたような声。もう一つはどんよりとした若干暗めの声だ。
(はあ、もう少し纏まりというものを持ったらどうですか?この調子ではすべてを思い出したときに大変でしょうに)
そしてまたもや響く別の声。今度の声は落ち着いた凛としている声だった。
(とは言ってもなー、あたしらが纏まれてたのはマスターがいたからだろ?その本人がいねえんじゃ纏まりもくそもねーと思うんだがなー)
(当然のこと。私はマスターのいうことしか従わない)
(今の僕たちは例えるならばらばらになったビー玉みたいなものさ。入れ物がなければ同じ場所にはいられない、ね)
(私はもう少し仲良くした方がいいと思いますよー?)
(私は興味がない。馴れ合いならリーダー気取りのそいつと自称相棒、そしてお前でやっていればどうだ)
(自称って!ボクが一番使われてるんだからボクが相棒でいいじゃない!)
(((((それはない)))))
(ええー!?)
誰の声なのか、気になって瞼を開こうとする。だが、開くことができない。体の自由が利かないからこれも夢なのだろうか?
(でも、どこかで聞いたような声なんだよね………)
どこでだったかは思い出せないのだけれど。ただ、どこか懐かしい気分になるからきっと元の世界に関することなんだろうと思う。
(あれ?)
(どうしたのですか?くだらないことなら許しませんよ?)
(いやさ。マスターが少し身動ぎしたから………)
((((((………!))))))
(もうそろそろかなあ?早く思い出してほしいよ。ボクたちのことだけでもいいから)
(いえ、むしろ私たちだけの方がいいでしょう。あれはマスターにとっては辛すぎることだったでしょうから………)
(そうだよね……もし、思い出しちゃったらあの子が埋めてくれるかな?あの犬耳の子)
(それを祈るとしようぜ。見たところ完璧に惚れてるぽかったしな!)
あれ?何のことだろう。この声たちは僕のことを知っているんだろうか?
(あ、もうそろそろ戻るみたい。なんか言っとこうかな?)
(マスター。早めに私を思い出して。きっと役に立つから)
(いやいや、思い出すならあたしだろ。身を守るには最適だしな!)
(……僕は最後かな。どうせあまり使わないだろうし………ああ、でもそうなったら劇的な再会でいいかもしれないね)
(私はいつでもいいですよー。ただ、ちゃあんと思い出してくださいねー)
(早く全部使えるようにしてくれ。危なっかしい)
(たとえ言っていることが違くても私たちの想いは同じです。辛いことは無理して思い出さなくてもいい。けれど、私たちのことは一刻も早く思い出してください。あなたのためにも)
(みんな待ってるよ!マスター、頑張って!)
その言葉を最後に急速に意識が覚醒していき………
※ ※ ※
「……やっぱり夢かあ」
目を覚ますと、そこには天井が。昨日のうちに取った宿の天井だ。視線を下へとずらせば、相変わらず僕の胸を枕代わりにしているカトレアがいる。
(朝まではまだ時間ありそうだし……もうひと眠りしようかな)
再び目を閉じて、寝息を立て始めた。さっきまでの夢の内容は勿論忘れて。