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次の目的地は

 「ということは二人とはここでお別れかな?なんだか長いようで、短かったような気もするね」

 「そうだね。まあ、僕が倒れてたのもあるかもしれないけど」

 「それはそうかもね。まあ、もうしばらく私たちはここにいるよ。また会えたらよろしく頼むよ」

 「うん、こっちこそよろしくね」

 

 準備をして、次に行く国を探して、必要なものを買いそろえて。いろいろと手間はかかったけど、ようやく旅に出れるようになった。そのときになって、そういえばシンシアさんたちに何にも言ってなかったなと思い当たって、お別れがてらにお礼を言いに来た。シンシアさんとアリスさんは別れを惜しむような感じで、アーネストさんはむしろせいせいするって言った方が近い感じだったかも?まあ、それでシンシアさんに怒られてたけど。


 「それで?次はどこに行くのかな?」

 「うーんとね。隣のなんちゃら国ってところを抜けて、なんたら連邦ってところに行くらしいよ?」

 「……ええっと?」

 「……隣のバーホルト国を通って、サクラ連邦に行くんです………」


 カトレアが代わりに応える。もはや諦めの境地に達したかのような表情が印象的だった。


 「……君も大変だね。それとも、一緒にいたいと思える何かがあるのかな?」

 「え、いえ、そういうのは、別に………」


 シンシアさんの言葉に挙動不審になっているカトレアなんだけど……なんで慌ててるんだろう?考え込んでいると、ふと思いついたことがあった。うん、これが正解なんだろう。


 「ねえねえ、もしかしてカトレアが慌ててるのって………」

 「え!?もしかしてわかったんですか!?」


 期待と不安が混ざったような表情で僕を見てくる。


 「うん。カトレア、自分がだめんずうぉーかーって気付かれたくないんでしょ?」

 

 なんか動きが止まった。あれ?変なこと言ったかな?


 「あの、ユート様?一つ聞いておきたいんですけど……だめんずうぉーかーって何ですか?」

 「え?ダメ人間が好きな人のことだよ?」

 「……ちなみにどうすればその結論に?」

 「だって僕のこと放り出さずにずっと一緒にいるでしょ?だから………」

 「ダメ人間の自覚あるなら治しましょうよ………」

 「無理かなあ?どうしようもないことだし」

 「ちょっとだけ期待した私が馬鹿みたいです………」

 「あはは……その、頑張ってくれ?」


 シンシアさんのその一言にカトレアはまた肩を落としたのだった。そういえば疑問に思っていたのだけど。


 「サクラ連邦、だっけ?そこってなんとなくだけど不思議な響きだよね。理由とかあるのかな?」

 「ああ、それならかなり前の代の勇者様が原因のようだね。なんでもサクラという花が好きだったようで、自分のスキルを使ってそのサクラを創り出してしまったらしい。今でも綺麗に咲いているという話だよ」

 「そうなんだ。それはまたなんとも滅茶苦茶だねえ」


 新しく木を一本創り出すなんてすごいとしか言えないよね。流石は勇者なのかな?


 「え、ええっと、ユート君?一つ勘違いしてるようだけど………」

 「ん?何が?」

 「その、だね。その勇者様はサクラが好きだったものだから……その、創り出したのは一本じゃないんだよ」

 「じゃあ、何本?二、三本創ったの?」

 「……その数、実に千本だそうだ」

 

 …………。みんな固まってる。そりゃそうだよ。その勇者って本当に人間だったのかな?怪しいんだけど………


 「ま、まあ、見事なのだからいいんじゃないかな?」

 「……うん、そうだね」


 そういうことにしておこう。めんどくさくなりそうだし。


 「それじゃ、またどこかで」

 「ああ、どこかで会おう」


 そう言って、三人と別れた。いつかまた会えると信じて。


※               ※               ※

 「……で、別れたわけなんだけど」

 「?はい、そうですね」

 「少し寄っていきたい場所があるんだ、二ヶ所。いいかな?」

 「……ユート様が行きたい場所ならついて行くだけですよ。気にしないでください」

 「ありがとう」


 カトレアは笑って許してくれる。いつか報いてあげられるときは来るのかな?そんなことを考えながら、手を取る。


 「じゃあ、さっそく最初の方に行こうか。あんまりここで時間はかけられないし」

 「はい」


 頷いてくれたのを確認し、移動する先のことをイメージする。時間は経っているけど、まだ思い出すことはできる。よかった。


 「行くよ?『テレポート』」


 周りの景色ががらりと変わり、思い描いた通りの場所に辿り着く。息が切れやすい僕でもこれなら苦労せずに出歩くことができるんだよね。


 「ここは………!?」


 生い茂る木々。遠くには見覚えのある街並み。そして――――相変わらずきれいなままの十字架。そう、来たい場所の一つはカトレアのお母さんのお墓だった。きっと、ここを出る前にお別れを言いたいだろうから。


 「少し離れてるよ。終わったら呼んでね?」

 「……はい」


 少し離れた場所へと再び転移する。それと同時に影の中からクロが出てきた。


 「主も気遣いのようなものができるのだな」

 「ひょっとして馬鹿にされてる?」

 「いや、そんなことはないさ。少々意外だっただけだ」

 「そう?ならいいんだけど………」


 納得できたようなできないような。そう思いつつ、クロの話に耳を傾ける。


 「ところで主よ。カトレアのことをどう思っている?」

 「?どうって……いい人だなあ、って思ってるけど?」

 「ふむ。聞き方を変えよう。元の世界に帰ることとカトレアのそばにいること。どちらを優先する?」

 「それって………?」

 「いずれは元の世界に帰る、という話が出てくるだろう?ならば、そのときどうするかをぼんやりとでも決めておいた方がいいのではないか?」

 「それは、そうかもだけど……それがどうしてそんな話に?」

 「わかるだろう?元の世界に帰るということはカトレアを捨てるということだ。もはや一生会うこともないだろうからな」

 「……そっか」


 確かにそうだ。どちらかを取ることしかできない。『テレポート』でも世界の間を渡ることは不可能っぽそうだし………


 「逆にカトレアを取るのなら元の世界には帰れない。知っていたものと会うことはなくなる」


 今は記憶を失っているから知っている人がいるかどうかはわからない。けれど、クロの口調から察するにいるのだろう。元の世界に帰りたいという気持ちは勿論ある。だけど………


 (もし、僕がいなくなったら……カトレアはどうなるのかな?)


 母親を亡くし、頼れる人もいない。今は僕がなんとかできているけれど、いなくなればもしかしたら………


 「ユート様!お待たせしました、次の場所へと行きませんか!?」

 「え、ああ、うん。じゃあ、行こっか」


 いきなり考えてた本人が現れるものだからびっくりしちゃった。だからこそ、カトレアが慌てたような感じだったのに気付かなかった。いや、気付けなかった。

 一度お墓の前に戻る。僕も言っておかなきゃいけないことがあるし。


 「……いってきます。カトレアのことは心配しないでください」


 僕が守るので。その言葉は言葉になる間に口の中で消えた。そう易々と口にしちゃいけない気がしたから。


 「今度こそ行こっか。もうそろそろだろうし」

 「は、はあ………?」


 三回目のテレポートで目的地へと飛ぶ。あとに残されたのは静寂だけだった。

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