捜索をしよう
カトレアのお母さんを探しに行こう!そうして、行動に移った。移ったんだけど………
「なんの手掛かりもないのかあ………」
「す、すみません………」
「いや、別にカトレアが悪いわけじゃないでしょ?」
「ですが、手掛かりを何一つ持っていないので……せめて攫っていった人がどこに連れていったのか、それだけでもわかっていれば………」
「んーと、どういうこと?」
「要は元々この国にいたかもしれないが、他国に連れて行かれた可能性もあるということだ。そうであればお手上げだな」
「そうなんだ……そうなると困ったことになるねえ………」
「困ったことになるって……あの、どういう………?」
「え?だってこの国を出て、探しに行かなきゃいけなくなるでしょ?だとすると奴隷制がある国を調べて、そこに行って、探してってやって、見つからなかったらまた別の国に行かなきゃいけないんだよね?もしかしたら今回みたいに魔族とばったり会うかもしれないし………」
「ちょ、ちょっと待ってください!もしかして……見つかるまで付き合うのですか?」
「元からそのつもりだったんだけど?」
「いつまでかかるかわからないんですよ!?」
「うん。だから困ってるんじゃない」
カトレアが頭を抱える。どこか痛いのかな?あ、でも頭を抱えているし、痛いとしたら頭かな。
「……そういえばこういう人でした………」
どういうことだろう?カトレアがクロに近づいて、ひそひそと話し始める。
「……何を言っても無駄ですよね?」
「そうだろうな。主は頑固であるからな。夜逃げしようとも追おうとして、どこかで行き倒れるという可能性の方が高い」
「で、そうなったらクロさんが私のところに連れてくるわけですね………」
「当たり前だ」
「はあ、もうわかりました。次の場所に向かいましょう………」
「……?うん」
何がなんだかわからないまま、また歩き始めたのだった。
※ ※ ※
カトレアが自分のことを話してくれてから一週間。二人で探し回ってみたのだけれど、なかなか見つからない。それどころか、手掛かりすら得られない。今は探す、という作業をしているからこそ暴走してはいないものの……やっぱり、カトレアも何の手ごたえもないこの状況にやきもきしているみたい。お母さんは似ているから、行った奴隷商にいればわかるはずなんだろうけどね。最初は情報料がないからかとも思ってたんだけど、どうやらそうでもないみたい。お金を払って聞いてみても、やっぱり知らないって答えが返ってきたんだよね。え?そんなことばっかしてたらお金が無くなるんじゃない、だって?大丈夫。そこは説得で何とかしてるから。人を騙すのってよくないと思うしね。カトレアもこのときばかりは仕方ない、って言ってたし。それこそ場所を変えたり、お店を変えたり、酒場に行って情報を集めてみたりとしたんだけど。なかなか見つからない。
「どうしたらいいのかなあ……せめてほんの少しでも手掛かりが得られればまた違ってくるんだろうけど………」
「はい……こうまで情報がないとどうしようもないです………」
シルヴィアさんたちと別れた街を出て、これで3つ目の街。その街の一角にある公園内のベンチに二人で腰かけて、水でのどを潤す。訪ねたお店の数は数えてないけれど、とっくに50は超えているだろう。それなのに見つからないところ、世界って、もとい国って広いんだなあとしみじみそう思う。
「さてと、ここにもいないみたいだし。明日辺りに次の街にでも行く?」
「そうですね。早めに戻って休みましょうか」
二人で立ち上がり、出口に向かう。公園を出るとちょうど横から人が現れた。影になってたからわからなかった。幸い、むこうが気付いてくれたらしく立ち止まってくれる。
「あ、ごめんね。気付かなくて」
「ああ、いや。別に構わ……ないです」
不自然に言葉を区切った、というよりも詰まったの方が正しいかな?ので、その立ち止まった人を見る。その人はかなり引き締まった体つきをしていて、背は僕よりも高い。灰色の髪を伸ばしているのか、後ろで縛っている。それでもって、男の人だった。あ、あと気付いたのが………
「あれ、獣人の人?一人で歩いてて大丈夫なの?」
「は?どういうことだ……じゃねえ、ですか?」
「……?別に無理にそんな言葉遣いしなくてもいいよ?」
「は?お前変わってんな……まあ、そういうことなら遠慮なくこの口調にするが」
「うん。気にしないし。それよりなんで一人で?誰かに捕まえられたりとかしないの?」
「……俺は元から捕まってんの。ほら、こいつ見ろ」
そう言って首元を指す。そこにはかなり独特な模様がついていた。二つの鎖の間に×印がある。これがどうかしたのかな?
「これはな、奴隷であることの印なんだよ。しかも契約済みのな。だから手ぇ出すような馬鹿はいねえのさ。トラブルを招くことになるわけだしな」
「そうなんだ。なんかごめんね、変なこと聞いちゃって」
「……珍しいな、お前。この国で俺らみたいな奴隷に謝るやつなんざいねえぞ?」
「ああ、僕はこの国の人じゃないし。だからじゃない?」
「そか。なら、納得だな。んじゃ、俺はこれで。仕事中だしな」
「うん。それじゃ」
そう言って、別れようとした。そのとき。
「……!おい、ちょっと待て!」
「ん?何?」
「そっちの女の方なんだが、カトレアって名前じゃねえか!?」
「え?どうしてその名前を………?」
「……やっぱそうか。気が変わった、ついてきてくれ。話がある」
その言葉に、カトレアと二人で顔を見合わせたのだった。