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目覚め

今更気付いたのですが、ブックマーク数が増えてました。評価してくださった共々ありがとうございます。そして、気付かず申し訳ありませんでした。これからもユートのすっとぼけた旅にお付き合いいただけると幸いです。

 胸の上に慣れた重みを感じる。意識が段々とはっきりしてくると、近くに誰かの気配を感じた。目を開き、自分の状況を確認する。僕はどうやら、ベッドの上に寝かされているようだ。ベッドはお城のほどとまではいかないまでも、なかなかフカフカしていて寝心地がいい。通りでゆっくりと休めたと思った。体の節々も痛くないしね。

 次に、胸の上に目をやるとやっぱりカトレアがいた。ただ、あの村を出たときはそんなでもなかったのに今はまた隈ができている。疲れたから寝ているのかもしれない。と、少し視線をずらして気付いたのだけどその横にはシルヴィアさんもいた。こっちもこっちで寝ている。でも、カトレアほど寝相は悪くないのかな?シルヴィアさんは隈はなかったけど、泣きはらしたかのように目の周りが真っ赤だった。何かあったのかな?


 「……クロ?いる?」

 「……!気がついたか」

 「うん。何があったの?」

 「覚えてないのか?」

 「魔族が追ってきて……頭が痛みだしたのは覚えてるんだけど。そこから先が思い出せないんだ」

 「……そうか。では、あの後のことを話そう」


 クロの話によると、こうだった。あの後凛花さんたちが魔族の迎撃をしたのだけど、相手は八魔将だったため敗北。撤退しようとしたのだが、誰かが魔族を食い止めなければいけない。そのため、シルヴィアさんが命と引き換えに逃がそうとしたらしい。


 「え?でも、生きてるじゃない」

 「ああ、本当に遺憾なことにな」

 「駄目だよ、クロ。そんなこと言っちゃ。どうして助かったの?」

 「なんでも奇跡が起きた(、、、、、、)らしいな。一瞬で馬車の中に転移したそうだ」

 「……それって、クロがやったんじゃないの?」

 「我には3人運ぶのが限界だ。4人は見捨てなければならん」

 「そこはこう……急いで運んで?」

 「では聞こう、主よ。我が何の命令もなく主の下を離れると思うか?」

 「……ないかな、そんな状況なら」


 クロだったら、僕のこと優先とか言いそう。そんな僕を放って、誰かを助けるなんてことは考えないよね………それがいいことなのかどうかは置いておくとしても。


 「そういうことだ。だから我がやったことではない」

 「んー、じゃあどうしてこんなことに?それ以前にここはどこ?」

 「ここは帝国だ。もう着いたのだよ」

 「え?そんなに近かったんだ?」

 「そんなわけがないだろう。魔族から逃げたあのときから5日も経っている。帝国に着いてからは丸1日だ」

 「5日?よく生きてたねえ、僕………」


 確か人間って1日水を飲まなかったら死んじゃうんじゃなかったっけ?点滴の類もないよね?


 「幸いなことに口元に水を運べば飲みはしたからな。粥のような食べ物も食べられたようだから、栄養失調や脱水症で死ぬことはないだろうとのことだったな」

 「そっか。ありがとね、クロ」

 「礼ならカトレアにでも言ってやれ。ずっと主の看病をしていたのはそいつだからな」

 「そうなんだ。だからこんなに疲れてるんだね……なんか悪いことしちゃったかな………?」


 ずっと看病していた、ということはこの様子を見るに恐らく寝ずにやっていたのだろう。どれだけ大変なことだっただろうか?それに、いつ目を覚ますかわからないからこそ心配したんだろうな………ん?あれ?


 「……ねえ、クロ。看病していたのってカトレアだけ?」

 「…………」


 黙って顔を背けられた。うん、あれが答えだろう。


 「シルヴィアさんにもお礼言っとかないとなあ………」

 「その女には必要ないだろう。むしろ、看病するのが当たり前だ」

 「そういうわけにはいかないでしょ?」


 まったく。仲が悪いのは相変わらずなんだなあ。


 「見舞いに来てやったぞ、っつっても反応すんのはあの犬っころだけか………」

 「あ、ジリアンさん」


 そんな中、扉が開き入ってきたのはジリアンさんだった。むこうも僕が起きてるのに気づいたらしく、驚きの表情になる。


 「おまっ……ユート!?大丈夫なのか!?」

 「え?ああ、うん。頭も痛いわけじゃないし、どこか痛い場所もあるわけじゃないから………」

 「そうか……そいつぁ、何よりだ。腹減ってるならこれでも食ってろ。消化にゃいいだろうからよ」


 渡されたのは赤くて、丸いものだった。何だろ、これ?


 「暴力女の話によりゃあ、リンゴとかいうもんらしい。食って味も同じだったらしいから病人にはいいだろう、だそうだ」

 「そっか」

 「ああ。自分で食えそうにもねえならメイドの嬢ちゃんでも起こしな。それで食えんだろ」

 「ええ?でも二人とも寝てるし、起こしちゃ悪いんじゃ………?」

 「阿呆なこと言ってんじゃねえ。無茶してまた倒れられる方が迷惑だっつの。それに、早く起きたとこ見せてやった方がいいだろ?すげえ心配してたんだぞ、そいつらよ」

 「……うん。わかった」

 「じゃあ、俺は他のやつらを呼んでくる。なるべくゆっくり帰ってくっから、話してえことあんならちゃんと言っとけよ?」

 「うん、ありがとう。ジリアンさん」


 手を軽く振って出ていっちゃった。すごいよねえ、あんなに気を回せるんだから。ああいう人がモテるのかなあ?


 (あ、そうだ。二人を起こさないと)


 お腹も減ってるし、元気なところを見せてあげないと。そう思って、二人を起こそうと努力するのだった。


※               ※               ※

 「意外と律義なのだな。貴様は」

 「……そういうおめえは口わりいよな、相変わらず」


 部屋の外に出て、この犬が現れるもんだから何言うかと思やあこれだ。皮肉しか言えんのかね?


 「まあ、貴様はまともな部類に入るからこそ何もせんがな」

 「そいつぁどうも」


 少し驚き、そいつを見る。こいつが人を認めるとはな……明日は槍でも降っかもな。


 「わかってるとは思うが………」

 「あのことは話すな、だろ?十分にわあってるよ。あんなもんをおいそれと話しゃあ、国が放って置きゃしねえだろうしな」


 あのとき起こった奇跡。あれはユートが起こしたもんだった。そして、本来とは異なる使い方をしたため過負荷となり、脳にダメージを負った。記憶が所々飛んでいるかもしれない、だそうだ。


 「わかってるさ……あんときと同じヘマはしやしねえよ」


 その言葉とともにその場を後にした。

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