代償
間が空いたので連投?します。どなたかが評価してくださったようで、総合評価が上がっていました。ありがとうございます
「……はあ、はあ………」
「おい、大丈夫か?」
「なんとか。私は体が痛むくらいだし……問題は………」
「すまない。かなり厳しいな」
アルヴァ様の腕は折れていた。応急処置をしたいところではあるが、状況がそれを許さない。万全の状態でようやくついていけるレベルなのだ。もし怪我を負った状態で、となるとかなり……いや、正直に言おう。絶対無理だろう。それに………
「シンシアさんたちはどうですか?」
「大丈夫……って言いたいところなんだけど。肋骨が何本かいっちゃったみたい。さっきまでと同じように動けるか、って言われれば無理だと思う。二人は?」
「私は特には。リーダーが庇ってくれたから……でも………」
「……そうか。もう剣が………」
アーネストさんの剣を見ると、もうぼろぼろで途中からぽっきりと折れてしまっていた。これでは戦えないのに等しい。
「私も怪我はないんですけど……もうMPが切れてしまって………」
アリスさんは魔法を使って戦うようだが、彼女ももうMP切れ。これまでのことをまとめると………
「まともに戦えるのは俺と姫さんのみ。そして、何とか戦えんのはダンナと暴力女だけか………」
「あんたねえ……投げ飛ばされたいわけ?」
「今は言ってる場合じゃねえだろ。どうやって逃げるか、だ」
「逃げるって……あいつのこと放っておく気?」
「どの道、今のままじゃ無駄死にするだけだ。逃げるっきゃねえ」
「撤退には賛成するが……どうやって逃げる?逃げ出したところで追いつかれるかもしれんぞ?」
「そうなんだよな……今はあの犬っころの力も借りれねえし………」
「なんだなんだァ?逃げようってか?無駄だと思うがなァ」
「……凛花様、アルヴァ様、シンシアさん。走れますか?」
「たぶん。でも、一体何を………?」
「……私が時間を稼ぎます。そのうちにお逃げください」
「なっ………!できるわけないでしょ!何言ってるの!」
「勇者の皆様にはいつか、あの魔族を倒していただかなければいけません。だから、ここで死なせるわけにはいかないんです」
「でも!」
「……元の世界に帰らなければいけないんですよね?なら、こんなところで死ぬべきじゃないはずです」
「…………」
「私には代わりに役目を果たせる人がいます。でも、あなた方にはいないんです。どうか、お願いします」
「……わかった」
「ああ、そうしよう」
「ちょっと!?」
「わりいな」
アルヴァ様が凛花様を気絶させ、ジリアン様が彼女を担ぎ上げる。よかった、逃げてくれるようだ。
「……なんて言やあいいのかわかんねえがよ。あんたのことは嫌いじゃなかったよ。あのクソジジイと違ってな」
「礼を言う。いつか必ずやつを倒そう」
「はい。この世界を、お願いします」
一度頭を下げて、後ろを振り返る。圧倒的な数の魔物と強大な力を持つ魔族を前に怯みそうになる。
「で、どうすんだ?方針は決まったのかァ?」
「はい。ですが、油断していると痛い目に合いますよ?」
精一杯の虚勢を張る。震えそうな手を握りしめ、魔法の詠唱に入る。……本当は怖くないはずなんてなかった。無理矢理、責任感と誇りで誤魔化しているだけなのだ。死ぬのは……怖い。
「今です!」
叫び、魔法を放つ。同時に魔物たちが襲い掛かってくる。けれど、走り出したジリアン様たちには追い付かないはずだ。
(どうか、ご無事で………)
次の魔法の準備をし、放とうとして………
(えっ………!?)
唐突に景色が変わる。目の前にいた魔物は消え、遠く離れた場所に見える。不思議に思い、隣を見ると………
「ああ?どうなってやがる?」
「ここは……元々の馬車か?」
「……私は今まで走っていたはずだが………夢でも見ているのか?」
ジリアン様たちもシンシアさんたちのパーティーもそこにいた。皆それぞれ戸惑っているようだ。
「ああ?姫さんじゃねえか?向こうで囮を引き受けてたんじゃねえのか?」
「それが……私にも何があったのか………」
そう、何が起こったのか何もわからない。さっきまで覚悟を決めて、殿を引き受けようとしていたのだ。なのに、何故………?
「……ああ、よかった。無事だったんだね、シルヴィアさん」
「……!?ユート様!?」
振り返るとそこには彼がいた。馬車を飛び出したときとは異なり、自分の足で立っている。
「どうして……いえ、そんなことよりも休まなければ!身体に差し支えますよ!?」
「大丈夫。あと一仕事するだけだから」
そう言って、私の隣を通りぬける。馬車を追ってきている魔物たち。馬たちもわかっているらしく、全力で走っているのだがむこうの方が速い。
「ユート様!」
「『水壁』」
その言葉とともに腕を振ると、目の前に巨大な水の壁が現れる。魔物たちはその壁にぶつかり、通り抜けできずにもがき苦しんでいる。
「んだァ、こいつはァ?通り抜けられねえじゃねえか」
そんな声が聞こえたような気がするが、遠ざかっていくためによく聞き取れなかった。それでも、その姿が見えなくなるまで安心することなどできなかった。私たちは……負けたのだ。
※ ※ ※
「見えなくなったな。当面の危機は去ったとみていいだろう」
「だな。助かったぜ………」
馬車の中に安堵の空気が戻る。そういう私だって、安心して腰が抜けてしまったようだ。しばらく立ち上がれそうにない。
「とりあえず、傷を治しておくか。さもなきゃまた来たときやべえだろ」
「そうだな。それがいいだろう」
そうだ、傷で思い出した。
「ユート様?体の調子は………?」
「……?ああ、だいじょう………」
その瞬間、体が倒れる。不幸中の幸いと言うべきか、私の方に倒れてきたからこそ受け止めることができた。
「ユート様!?」
「あれ………?おかしいな、体に力が入らない………」
顔を上げた彼を見て、絶句してしまった。なぜなら………
「ユート様、本当に大丈夫なのですか!?」
目は充血したのか真っ赤に染まり、血の涙を流している。鼻からも絶えず血が流れだしていて、顔色は真っ青を通り越して土気色だった。
「……ん、ああそうか………これが、代償なのか…………」
「ユート様?ユート様!?」
何が起こったのかわからない私はただただ、名前を呼ぶことしかできなかった。