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異変

 ……何と言うか、まあ。あの模擬戦後も思ったことなんだけど。


 「アルヴァさんって無茶苦茶だねえ………」

 「ほんとだよな……ありゃ異常過ぎんだよ………」

 「私たち何もできないからね……呼ぶのあの人一人でよかったんじゃないの?っていつも思う」


 ここまで帝国に向かう道中は順調すぎる、と言っていいほどに何もなかった。というのも、ほとんどの魔物をアルヴァさんが一人で倒しちゃうからだ。凛花さんだったりジリアンさんだったり、シンシアさんたちだったりも倒しはするんだけど……一体倒してる間にアルヴァさんは全部倒してるからねえ………無茶苦茶過ぎない?とまあ、そう思ったよ。僕?シルヴィアさんに駄目って言われて、ほとんど何もしてないです。なんだか情けなくなってくるなあ………


 「……?どうした?」

 「いや……正直、勇者やるのはダンナとこいつだけでいいんじゃねえか、って思ってな………」

 「ちょっと待って。なんで私まで入ってるの?」

 「お飾りのやつが必要だろ?ダンナじゃ大したこと言えなかったり、見栄えがしなかったりするしな」

 「……投げ飛ばされたい?」

 「おい、やめろ!ここから落ちたら割と真面目に洒落にならねえ!」


 目がまったく笑っていない凛花さんに追われて逃げるジリアンさん。これだけ狭い空間なのにあれだけ軽やかに避け続けることができるのってすごいよね。僕にもできないかなあ?


 「……ユート様。くれぐれも真似しないでくださいね?」

 「え?どうしてわかったの?」


 ジリアンさんの動きを目で追っていたら、カトレアにそう注意されちゃった。なんでばれたんだろ?


 「なんとなくわかるので……ジリアン様の真似をできないかと考えていましたよね?」

 「……できないかな?」

 「無理です。危ないのでやめてください」

 

 うう……カトレアがひどい。少しくらい許してくれてもいいのに。


 「……私はやっぱりいらない子なんでしょうか………?」

 「お前と私とでは役割が違うだろう。気にする必要はない」


 むこうでは落ち込んでるコルネリアさんをアルヴァさんが励ましてる……のかな?ジリアンさんに勇者認定されなかったのがショックだったのかなあ?自分も入れてなかったから気にしなくてもいいと思うんだけど。もしかしたらめんどくさいからやりたくない、ってことなのかもしれないけれど。


 「ふふ、にぎやかですね」

 「うん、そうだね」


 シルヴィアさんの言葉に同意する。魔族がいるって言われてたのが嘘みたい。もしかしたらここにはいないのかな?見間違えだったのかもしれない。このまま帝国まで何も起こらずに行ければいいんだけど………





 けれど、現実はそうは甘くなかった。それは前の世界(、、、、)でもわかっていた。わかってはいたのだ……だがその記憶を失っているため、それに気付くのは更に先のことである。


※               ※               ※

 (……あれ?)


 何かがおかしい、そんな気がする。特に代わり映えのしない景色。おかしなところはないように見える。素人目で判断したものだったとしても、アルヴァさんだって何も反応していない。それなのに魔物や魔族がいるものなのだろうか?


 (気のせいかな?何もないし………)


 そう思い、またみんなの様子を見ようとした。そのとき。


 「あ、ぐっ……ああぁぁぁぁぁ!」


 急に激しく頭が痛み始めた。これまでのようにすぐに終わるようなものじゃない。そして、これまでの頭痛と比べても段違いに痛い。まるで頭が割れるかのよう。姿勢を保つことができず、口からは悲鳴が漏れる。


 「ユート様!?どうしたのですか!?」


 唐突に苦しみだした僕にカトレアが声をかける。が、痛みによってどんな表情をしているのか見ることすらできない。いつもなら大丈夫と声をかけてあげられるのに、そんな余裕すらない。


 「お、おい!大丈夫なのか、これ!?」

 「何があったの!?」

 「わ、わかりません……いきなりこうなったので………」


 シルヴィアさんや凛花さんたちの会話もどこか遠くでされているような感覚。そのくせ、気絶することもできないのだからたちが悪い。


 「う……あ………」


 声もかすれた、小さなものしか出ない。大きかったところで痛みが減るとも思えないけど。

 そんな中、はっきりとした映像が目の前を流れる。逃げ惑う人々。泣きじゃくる子供。命乞いをする冒険者。そして……無数の死体。その中には、シンシアさんたちもいた。その中心で誰かと対峙している凛花さん、ジリアンさん、アルヴァさん、シルヴィアさん。その対峙している相手は………

 もう一つ。思い出すのは、クロのあの言葉。

 ―――――夢で見たことは大切にすべきだ、と。


 「と、とりあえず《回復魔法》を使ってみます!少しでも痛みが和らぐかもしれませんし………!」

 「お願いします!」

 「か、と……れあ………?」

 「は、はい!何ですか!?」


 涙声に聞こえる。ああ、僕なら大丈夫だから。だから泣かないで?そう言いたいけれど、安心できるような状態じゃないし、何よりも伝えなくちゃいけないことがある。


 「速度を……もっと………もっと、上げて…………ここは危ないから…………」

 「今はそんなことを言ってる場合じゃ………!」

 「いいから、早く………!このままじゃ取り返しのつかないことになる!だから、だから……早く………」


 無理矢理声を絞り出したのに、5秒と持たない。まだ、伝えなきゃいけないことがあるのに………


 「……わかり、ました。ユート様のいうことなら………」

 

 馬車の速度が速くなる。よかった……ありがとう。


 「アルヴァ、さん……気を付けて………もう、すぐ近くにいる…………来てるんだ……………」

 「…………」

 「みんなにも、伝えないと……みんな、死んじゃう………」

 「それはどういう………」

 「……ふむ」


 銃の発砲音。アルヴァさんが撃ったのかもしれない。


 「なるほど。これは確かに取り返しがつかなくなるところだったな」

 「おいおい、どういうことだ?なんで俺らに気が付いた?」

 「……嘘だろ?いつの間に近づいてきやがってた?」

 「……冗談ならよしてほしいんだけどね」


 三人が武器を構える。馬車の外にいる、そして僕たちを追ってきていたものの正体。それは………


 「……魔族」


 魔族と魔物の群れがそこにはいた。

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