何をすればいいのだろう?
「そう、ですか……帝国へ行こうとしていたのですね………」
「うん。何かあったの?」
「はい。実はこの付近で魔族が確認された、との報告がありました。しばらくの間はこの町に留まった方がよろしいかと」
「そんな!?」
「?どうしたの、カトレア?」
「い、いえ……ですが、魔族ならばすぐにどうにかできないのですか?」
「……申し訳ありません。相手は上級魔族、との報告で………数日ほどお待ちいただくしかないと思います」
「……わかり、ました………」
意気消沈、って言葉が似合うほどに肩を落としてしまった。そんなすぐに帝国に行きたかったのかな?
「すみません、本当はこんなことはしたくはないのですが………」
「ならするな。いつもいつも足を引っ張るしかできないやつだ」
「ああ、いたんですか。姿が見えないので、とっくにどこかで力尽きているとばかり」
「ふん、貴様こそ前に見たときと何も変わっていないようで何よりなことだ。見た目も実力も無能さもな」
「あら、人を不快にさせることだけは得意なようですね。黙るついでに視界からいなくなってもらえると幸いなのですが」
「クロ?シルヴィアさん?なんで会ってすぐにそうなるの?」
「主よ、世の中にはな。決してわかり合えぬ相手というものがいるのだ」
「はい、ですからユート様が気にする必要はありませんよ?」
「そうはいっても気になるし……とりあえずいったん止めよう?」
「チッ、主に感謝することだな」
「そちらこそ感謝した方がいいのでは?それにユート様に感謝することはあっても、あなたに感謝することはありませんね」
「……うーん、ほんとにどうしてこうなるんだろ?」
顔を合わせたらすぐにこれだからなあ………仲良くすればいいのに。なんだかんだ言ってるけど、二人とも結局は僕のことを心配してくれてるわけだし。
(……それにしてもカトレアが心配だなあ。なんかあるみたいだし………)
「ねえ、カトレア。どうしてそこまで急いでるの?」
「……ストレートに聞いたな」
「え?駄目なの?」
「少しは婉曲表現というものを覚えた方がいいと思うぞ………」
「……すみません」
「言えないの?」
「はい………」
「そっか。わかった」
「すみません………」
「いいよ、別に。話したくなったら話してくれればいいし」
「ユート様らしいですね。私も用事が終わりましたので送っていきます。宿はどこですか?」
「え?いいよ、カトレアもいるし……それになんかそれは情けない気がするし………」
「却下です」
「……僕の意見はどこにいったの?」
「提案ではありませんので。それに話したいこともあるかもしれませんし」
「まあ、そういうことなら………」
押し切られて一緒に帰ることになっちゃった。……弱いなあ、僕。
※ ※ ※
「驚きでしたね、同じ宿だったなんて………」
「そうだね。僕としてはシルヴィアさんに面倒をかけさせなくてよかった、って思ってるんだけど」
「ふふ、そんなことは考えなくても大丈夫ですよ?」
「そうだぞ、主よ。その女にはむしろ迷惑はかけてやるくらいがちょうどいいのだ」
「あなたは黙っていてください」
「だからやめようよ………」
すぐに喧嘩しようとする二人を落ち着かせる。困ったものだよね。
「いや、主には言われたくないのだが」
「ひどくないかな?」
「そうは言っても、主はいつも困ったことをしでかすからな」
「そんなことはないよ」
「迷子になったときもか?」
「……そんなことはないよ?」
うん、そのはず……だと思う。
「ところでユート様はこれからどうするのですか?」
「うーん……特にやることはないからボーっとするくらいかなあ?」
「それなら私たちの部屋に来ますか?ちょうど凛花様とコルネリア様もいますし……呼べばジリアン様とアルヴァ様も来てくれると思います」
「そう?なら、行ってみようかな」
来ているのならみんなにも会いたいなあ。魔法とかクロのこととか話したいし。お城にいるときはいつも助けてもらってたからお礼も言いたいし。
「カトレアもそれでいい?」
「あ……その、すみません。先に部屋に戻っていてもいいですか?」
「え?うーん、だったら………」
「……少し、一人になりたいんです」
「そう。わかったよ。僕のことは気にしないで。いざとなったらクロがいるから」
「……ありがとうございます」
そう言って、部屋に戻っていった。大丈夫かなあ。
「何かあったのでしょうか………?」
「わからないよ。帝国に早く行きたがっていたから、それが原因なんじゃないかとは思うけど………」
(でも、たぶん……あれが原因なんだろうな………)
カトレアはたまにお母さん、と寝言で呟いていることがある。そのとき、カトレアはとても苦しそうな表情なんだよね。だからきっとそれが理由なんじゃないかとは思うんだけど。
(クロからは自分から話すのを待て、って言われてるしなあ………)
だから僕が尋ねることはしない。そういうことには疎いから。
後ろ髪を引かれる思いではあったけれど、シルヴィアさんの部屋へと向かったのだった。
※ ※ ※
「ここです。少し待っていてくださいね、もしかしたらお二人が着替えているかもしれないので」
「うん、わかったよ」
そう言われて、外で待っている。時間はかけないそうだからおとなしく待ってようかな。
「このっ、ドヘンタイぃぃぃぃ!」
「主よ、すまん」
「へ?」
何が?っていう前に影の中に引きずり込まれる。強引だねえ。
「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あれ?あの声ってジリアンさんだよね?何があったのかな?」
「戻るとするか。今なら大丈夫そうだからな」
影から出ると、そこにいたのは仁王立ちしてツリ目をこれでもか、ってほどに怒らせている凛花さん。涙目のコルネリアさん。あきれ果てたような顔をしているシルヴィアさん。そして投げ飛ばされたのか、床に転がっているジリアンさん。
「……ええと、どういう状況?」
「お、おうユートか!助けてくれ!」
「え……あ、うん」
「……ユート様。今回はジリアン様に非があるのでこちらに引き渡してください」
「……えっと、どっちが正しいの?」
みんなと再会したはいいんだけど……カオスな状況での再開になってしまったのだった。