二度目の悪夢
長らく休止していてすみませんでした。またお付き合いしていただけると幸いです。
アーネストさんと一悶着(?)あって次の日の朝。みんなが朝ごはんの準備をしているんだけど、目がしょぼしょぼしてボーっとしちゃうんだよね。もう今すぐにでも瞼がくっついちゃいそう。
「……あんた、準備くらい手伝ったらどうなの?それともそんなのは女がやればいいとでも言うつもり?」
「アーネスト、やめないか。すまない、ユート君。気分を悪くしてしまったのなら………」
「ああ、シンシアさん。アーネストさん。ユート様は手伝わないんじゃないですよ?」
「?どういうことだい?」
「たぶん手伝わないんじゃなくて………」
「zzz………」
「眠たくて手伝えないだけかと」
「……ものの見事に寝ているね」
「ユート様は長い時間起きていられませんから……それに疲れが出やすいみたいなので………」
「そ、そうなのか………」
カトレアが何か言ってるみたいなんだけど……いまいちよく聞き取れない。変だなあ?
「ユート様?食事ができましたよ?食べれそうですか?」
「……うん」
口の近くにご飯が来たからもそもそと食べる。あ、クロはどうするんだろ?
「……なんていうか、あれ………」
「餌付けしているみたいだね……それだけ信用しているともとれるのだろうけど」
「主は動けそうもないな。片付けは我がやっておこう」
「すみません、助かります」
お腹が膨れたからなのか、意識が保てなくなってきた。うつらうつらと頭が動き、何か柔らかいものに当たったかな?と思ったのを最後に意識を手放したのだった。
※ ※ ※
(……ここは?)
また夢の中なんだろうか?知らない場所だし、さっきまでとは違う景色なのだからそうなのだろうけど………
(なんだろう?なんだかそこまで違和感はないような………)
そう、取り立てておかしなところではないのだ。いつもならもっとこう、人工物めいたところばっかりなのに、ここはこの世界の、もっと言うなら自然が豊かな場所だ。道は舗装されているけれど。
(じゃあこの世界でのこと?いつもみたいな記憶に関係することじゃないのかなあ?)
まあ、正直そこまで気にしてはいないのだけど。ゆっくり思い出していけばいいのだから。そう能天気に考えている。……本人は能天気とは思ってはいないが。
(?あれってもしかして………)
見覚えのある馬車。そう自分とカトレアが乗っている馬車だった。
(なんであそこにあるのかな?)
そう思って近づいていく。近づくにつれて誰かの声が聞こえてきた。
「待って!まだあそこにはシルヴィアさんが!」
「ユート様、駄目です!戻ったら危険です!」
「……ごめん!ユート!」
それっきり静かになる。だが、その声を無視できるはずもなかった。だってその声は………
(え?なんで僕が?それにカトレアと凛花さん?どういうこと?)
まぎれもなく自分自身の声と同行者、そして自分を案じてくれた人のものだった。
(……でも、僕ってあんなに焦ったりするっけ?)
そんなことはないと思う。感情はあんまりない方だとわかってもいる。だからこそ、あんなに焦るのだろうかと疑問にも思うのだ。
(夢だからあり得ないこととか起こってるのかな?それなら納得できるし)
移動を続けるとそれを見てしまった。それは………
(……シルヴィア、さん………?)
そこにはシルヴィアがいた。否シルヴィアだったもの、だろうか?魔物に群がられ、ぐちゃぐちゃになったそれはもはや原型を留めていなかった。シルヴィアだと判断できるのは銀色の髪がはらりとそこに落ちているからであった。それがなければ誰の死体だったのかもわからないに違いない。それほどに酷い死体だった。
「あ、ああ……駄目………駄目だよ…………」
意識がぐらつく。目の前の光景を否定したい。そんな感情で埋め尽くされていく。
そのとき、突然膝の力が抜ける。理由は単純。頭が痛み始めたからだった。
(駄目……もう絶対に………あれを繰り返すことだけは…………)
そう思ったのを最後に意識を失った。
※ ※ ※
「……とさま。ユート様!」
「ん……カトレア?」
「大丈夫ですか?うなされていましたが………」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと嫌な夢を見ちゃっただけ」
「……本当ですか?顔が真っ青ですが………」
寄りかかっていた体勢を元に戻し、辺りを確認する。どうやら随分と長い時間を眠っちゃってたみたい。
「さっきの夢が酷い内容だったから。本当にそれだけだよ」
「どこかおかしいなら早めに言ってくださいね?心配ですから………」
「うん、ごめんね。ここってどこ?」
「今日の野営するところですよ。いい具合に開けているので」
「そんなに寝ちゃってたんだ。ありがとね、いろいろと」
「いえ、大丈夫です。それよりも準備をしませんか?」
「そうだね」
会話をしつつ、見てしまった悪夢を追い出すかのように作業に没頭した。その甲斐あってか見張りをする、となったときは完全にいつもの調子を取り戻せた。
「……ねえ、クロ?」
「なんだ?主よ」
みんなが寝静まった頃――――とは言っても見張り番のアーネストさんは起きてるけど――――クロに話しかける。律儀に応えてくれるあたり、クロは僕のことを嫌ってるわけじゃないのかな?いつも迷惑ばかり掛けてるからちょっと心配になっちゃった。
「……もしも。もしもだよ?誰かが危ない目に合ったとき………僕にその人を助けられるだけの力はあるのかな?」
「……我には答えかねるな」
「そう………」
「だが、これだけは言っておこう。夢で見たことは大切にすべきだ。それはなんであれ、主には重要なことなのだからな」
「そっか………」
「そしてこれは禁止されていないからこそ言えるが……その危機によるな。少なくとも戦いのことならばなんとかなるやもしれん」
「……クロ。今のギリギリだったでしょ?」
「わかってしまったか」
「うん。ありがとね、僕のために」
「主のためなら構わんさ」
その後はとりとめのない話をしながら夜を明かした。……警戒?一応していたよ?




