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出発しよう

 「ここで合ってるよね?」

 「そのはずです」

 「多いね、馬車。これ全部依頼を受けた人のものなのかな?」


 目の前には5台の馬車があった。商人の人がどれくらい馬車を持っているのが普通なのかわからないけど、馬車を見ることが初めての身としては多いなと感じた。初めてかどうかもわからないのだけれど。


 「おやおや、待ち合わせをしている冒険者さんたちですかな?」


 その声に驚き振り返ると、そこには丸々と太っ……恰幅のいいおじさ………男の人がいた。危ない危ない、なんか考えると変に勘繰られるんだよね。なんでだろう?


 「はい、カトレアと申します。それでこちらが………」

 「ユートだよ。よろしく」

 「おやおや、随分と体つきがほっそりとしていていますが大丈夫なのですか?それとも魔法使いなのでしょうか?」

 「うーん、魔法使いに近いんじゃないかな?攻撃手段は魔法だし」

 「そうですか、それは失礼しました。私が依頼者のラルフです。ところで、そちらの亜人はあなたのものなのですか?」

 「亜人ってカトレアのこと?違うよ」

 「おや、ではどうしてこちらに?」

 「え?だってカトレアが帝国に行きたい、って言ってたから」

 「なるほど、慈悲深いのですね。まあ、使い物になるのであれば構いませんよ。私があなた方冒険者に求めるのは荷物の無事だけですからね」


 そう言って、軽く説明をしたのちにラルフさんはどこかに歩いて行っちゃった。自分の馬車に行ったのかな?取りあえずだけど気付いたことといえば………


 「この依頼受けたの間違いだったかなあ?」


 あの人はなんて言うか、今まで会った人たちとは全く違う気がした。今までにカトレアを差別する人たちは多かれ少なかれ嫌悪する、と言うのだろうか?そういった感情が混じっていた気がする。けれど、さっきの人はまるでカトレアや冒険者を下に見て、それが当然であるかのようだった。なんだかああいう人といると碌な目に合わないような………


 「ですが、このような機会はそうそうありませんよ?帝国に行くと決めたのでしたら、この選択はそこまで間違っているものとも思いませんが………」

 「うん、そうだね」


 それに最近のカトレアは焦ってるというか、急いでるというか……とにかく早く帝国に着きたがっているんだよね。変なことが起きそうで怖いなあ………


 (まあ、いざとなったら僕とクロでなんとかすればいいかな?)


 いつも通り、そうお気楽に考えるのだった。


※               ※               ※

 「はあ、遠征終わってすぐこれか。少しゃあこっちの気持ちと体を考えろっての、あのジジイ」

 「文句言ったところで何も変わらないでしょ。そんなことより早く終わらせるように頑張りなさいよ」

 「俺か?俺だけなのか、頑張らなきゃいけねえのは!?」

 「あんたはそれで十分よ」

 「あわわわ……喧嘩しないでください………」

 「…………」


 行く前からこの調子なのでは少し心配になる。大丈夫なのだろうか?それとも、私が変に気負わないように気を使ってくれているのだろうか?


 「皆さま、あまり気負いすぎるなとは言いませんがせめて緊張感くらいは持ってください………」

 「いやいや、どう考えてもこいつが悪いだろ。全部押し付けてこようとしてやがるしよ」

 「うるさい、覗き魔。あんたはせいぜい一番頑張らないとチャラにできないんだから、きちんと働け」

 「そういえば、昨日もしようとしてましたよね………」

 「……最低」

 

 なんだろう、不安になってきた。早くもあの人に頼りたくなってしまう。


 (いけませんね、そんな簡単に頼るなんて………)


 お祭りのときに諭されたとはいえ、容易に考えを変えることはできないのだろうか?そうやって、やはり自分自身を縛ってしまう。一応、人を頼ろうとはしているのだが。

 私たちが遠征から帰り、さほど経ってないというのに出発する理由。それは上級魔族が現れた、という情報を耳にしたからであった。しかし、大規模な集団では目立ってしまう。そこで勇者様と私のみで現場へ向かうということだった。

 今の実力で立ち向かえるのかはわからない。けれど、やるしかないのだ。


 (……大丈夫なのでしょうか)


 未だに言い争っている二人を見ながらそう思った。


※               ※               ※

 「勇者、か。それは本当なのか?」

 「間違いないかと。シュレンブルク王国とやらで勇者召喚成功のパレードをやっておりましたので」

 「ふむ、そうか。報告ご苦労」


 一礼すると、人外の姿をしたその者はその場から退出した。


 「……だそうだが、どう思う?」

 「召喚されたばかりの今ならば脅威ではないと思いますね。勿論、八魔将であるあなた様が負けることはないでしょうが」

 「あら、じゃあ私は勝てないのかしら?」

 「……!い、いえ、そのようなことは………」

 「まあいいわ。正直、あなたみたいなジジイじゃそんなことを言われても嬉しくないし。言われるならかわいい子がいいわ。そういう意味じゃどんな子がいるのか楽しみね」

 「遊びではないのだぞ。口を慎め」

 「かわいくないわねえ。それじゃ、私はもう行くわね。道中でそういった子と会うかもしれないしね」


 部屋にいる気配が一つ消える。


 「シュレンブルク王国か。確か、あの国と帝国だったか?その二つを繋ぐ街道(、、、、、、、)の近くにはあいつがいたな。早めに叩いておくように指示しておけ」

 「ハッ」


 気配がまた一つ消える。部屋にはもう一人の気配しか残っていなかった。


 「さて、勇者とやらがどんな活躍をするのか……見せてもらうとしよう」

次回から新章かな?

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