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帝国へ

 「ねえ、ユート君?今から私とお出かけしない?」

 「お出かけ?どこに行くの?」

 「ちょっと私の家にね。大丈夫、あまり時間は取らせないわ」

 「……何をやってるんですか」

 「少しお話していただけよ?そんなに怖い顔をしないでよ。ユート君、どう?」

 「ユート様、行かない方がいいですよ」

 「どうしてそう思うの?大体、あなたが決めることじゃないでしょ?」

 「ユート様のことを獲物を見るかのような目で見ておいて何言ってるんですか。家に連れ込んで何するつもりだったんですか?」

 「別に?ちょっとお昼寝をしてもらうだけよ。ちょっと、ね?だからそんなに睨みつけて来ないでよ、嫉妬ならみっともないわよ?」

 「そうですか、婚期を逃したおばさんよりはましだと思いますけど?」


 なんだか二人がおかしい。どうしよう、あの中に入れる自信がないなあ……なんでカトレアもフランさんも笑ってるのに寒気がするんだろう?


 「主よ、あの中に割って入るのはやめておいた方がいいぞ。とばっちりを受けるからな」

 「そうなの?クロがそういうならそうしようかな」


 あの二人が落ち着くのにも時間がかかりそうだし、依頼でも探してよう。何かいいものあるかな?


 (……読めないの忘れてた)


 仕方がないや。こういうときはそこらへんの人にでも聞けばいいかな。


 「あ、アルバートさん。来てたんだ」

 「おう、坊主か。まあ、たまにはな」

 「エリサさんとは最近どうなの?」

 「ハハハ、相変わらず尻に敷かれてるさ。で、どうしたんだ」

 「カトレアとフランさんに近寄れそうもないから、落ち着くまで依頼探してようかと思って」

 「ん?ああ、ありゃあ無理だな……まあ、それはわかったがどうして俺んところに来たんだ?」

 「文字が読めないから」

 「ああ、なるほどな……そういうことなら任せろ」


 そうやってアルバートさんを伴って依頼が貼ってあるボードの前までやってきた。


 「うーむ、今の坊主たちにできそうなものっつったら……ん、これは………」

 「どうしたの?」

 「いや、護衛の依頼が来てるんだが……行き先がヘイム帝国なんだよ」

 「ヘイム帝国?確かカトレアが行きたがってたところじゃなかったっけ?」

 「そうなんだよな……どうするよ?お前さんのランクなら受けられるみたいだぞ?」

 「それならカトレアにでも聞いてこようかな。あ、準備とか必要そうなのかな?」

 「特にはなさそうだな。荷馬車の中で寝たくないやつとかはテント持参とは書いてあるが」

 「じゃあ、食べ物と飲み物の心配はしなくていいんだ?」

 「うーん、途中で村に寄って補給するみてえだからな……金がある程度必要な感じだぞ。後は水袋もだな。飯は向こうで用意してくれるようだ」

 「そっか。それなら大丈夫かな。おーい、カトレア-」

 「お、おい、坊主!今は………」

 「ユート様!絶対にこの人のいうことは聞いちゃいけませんからね!」

 「ユート君!こんな女は放っておくべきよ!」

 「……遅かったか」

 「そうだわ。ユート君?私とこの子、どっちが好き?」

 「な、何を言ってるんですか!ユート様、答える必要はありませんよ!」

 「あら?答えを聞くのが怖いの?随分と臆病なのね」

 「そんなことありません!いいです、聞こうじゃないですか!」

 「……話を聞いてほしいんだけど」

 「「何(ですか)!?」」

 「これ。カトレアは受ける気あるかな?」

 「へ?護衛依頼?」

 「な………!?受ける必要はないわ!」

 「いいえ!受けましょう、ユート様!」

 「そう、わかった。フランさん、この依頼受けていい?」

 「だめよ!」

 「なんで?」

 「ユート君は寂しくならないの!?」

 「うーん、寂しいっていうのがよくわからないから……それにカトレアがここに行きたがってたし」

 「……っ!わかったわ………」


 よかった。受けていいみたい。悔しそうな顔をしていたのが印象的だったけれど。


 「……なあ。坊主ってもしかして空気を読めないとかよく言われないか?」

 「……言うな。我としても悩みの種なのだからな………」


※               ※               ※

 「帝国ねえ……どんなところなんだろう?」

 「ここよりも更に暮らしにくいところだと聞いています。特に私たちのような獣人には」

 「そうなの?どうしてまたそんなところに行きたいと思ったの?」

 「それは……すみません、今は、その………」

 「まあ、話したくないならいいんだけど」

 「……ユート様は不安にならないのですか?」

 「なんで?」

 「その、私は何も話さないじゃないですか。一緒にいて不安になるんじゃないか、と思いまして……悪いことを考えてるとは思わないんですか?」

 「ないと思うよ?」

 「どうして……ですか?」

 「だってカトレアだし。王様とか騎士さんたちだったら信じなかったかもしれないけど」

 「……変な人ですね」

 「そうかな?」

 「そうですよ。明日も早いみたいですしもう寝ませんか?」

 「うん、おやすみ」

 「はい、おやすみなさい」


※               ※               ※

 「なんだかあっという間だった気がすんな」

 「そうだね。ここに泊まり始めたのがつい昨日だったみたいに感じるよ」

 「少し寂しくなんな、坊主たちがいなくなると………」

 「そういうものかな?」

 「そういうもんだ。おっと、エリサからこれを渡しといてくれって言われてたんだった」

 「これって……お菓子?」

 「道すがら腹が減ったら食え、ってな。坊主はそんなに食えないくせに腹が減るのは早いだろ?」

 「確かにそうですね………」

 「ねえ、今馬鹿にされてる?馬鹿にされてるの?」


 大変だ。クロ、カトレアに加えて、ついにアルバートさんまで入ってしまった。シルヴィアさんくらいしかいないのかなあ、僕のことを馬鹿にしない人。


 「エリサは忙しくて来れなかったが……見送りに来たがってたよ」

 「そっか」

 「また、戻ってくるのか?」

 「戻ってくると思うよ。この国にも用事はあるし。今じゃないけどね」

 「そうか。無事に戻って来いよ?」

 「うん。じゃあ、アルバートさん。またどこかで」

 「ああ、またな」

 「行こっか、カトレア」

 「はい」


 アルバートさんと別れ、待ち合わせ場所へと向かう。帝国。どんなところなのかな?純粋に疑問に思いながら歩き始めた。




 このときの僕は知らなかった。帝国に行くことで記憶を取り戻すということを。ただ、記憶を取り戻すことが果たして幸いであるのかどうかもまたこのときは知る由もなかったのだった。

 

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