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お祭りに行こう カトレアの場合

 (もう!あれほど注意したのに!)


 私は今、ふらふらとどこかへ行ってしまったユート様を探していた。でもやっぱり人が多いせいでいつものように見つけることができない。前々から気付いていたことではあるが、ユート様は方向音痴だ。それこそ、私と合流しようとしてどんどんと違う方向に向かうこともある。というか、それがほとんどだ。だから時間をかければかけるほど遠ざかっていくわけで………


 (本当になんでこんなに手がかかるんでしょう?)


 普通に一緒にいられる私も私だが、あの人と行動を共にするのはなかなか、いやかなり大変だ。迷子にはなるし、トラブルに巻き込まれるし、かと思うとけろりとした顔でいるし………


 (……本当になんで私は一緒にいるんでしょうね?)


 なんだかこれだけ見ると放り出したくなるようなことばっかりだ。私は意外とだめな男好きだったのだろうか?


 「あ、すみませ………」

 「ああん?何すんだ、てめえ!」


 見ると、大柄でなんとも悪そうな人がこちらを睨んでいた。


 「てめえ、亜人じゃねえか。なんでこんなところにいんだ?大人しく森にでも引っ込んでろよ。それとも体で金でも稼ぎに来たのかあ?」

 「そ、そんなんじゃ………」


 急いでユート様を探さないといけないのに。


 「おいおい、詫びの一つもなしか?」

 「す、すみませんでした………」

 「そうじゃねえよ」

 「え?」

 「金貨1枚だ。それで見逃してやる」

 「そ、そんな………」


 そんな大金は持っていない。せいぜいが銀貨数十枚。それもほとんどをクロさんに管理してもらっているから手元には大銅貨数枚程度しかない。


 「ねえんだったら、体で払うか?俺はそれでも構わねえぞ?」


 周りの人に助けを求めようとするも冷たい視線ばかり。どうして忘れていたんだろう?人間は獣人を蔑むことを。ただ、ユート様のような人が希少だということを。今、私を助けてくれる人は――――誰もいない。


 「おら!とっととこっちに来いよ!」

 「あんた、最低だね」

 「あ?」


 そう聞こえたかと思うと大柄なその人は空中に放り出されていた。何が起きたのか、周りの人はおろか私自身もわからなかった。


 「行くよ!」

 「え?ええぇぇぇぇぇぇ!?」


 一瞬のうちに抱えられたかと思うと、そのまま移動が始まった。あっという間に景色が流れていくのを見て、いつもは逆なのになと見当違いなことを考えていた。


※               ※               ※

 「大丈夫だった?」

 「は、はい、ありがとうございます……ええっと、失礼かもしれませんがどちら様でしょうか………?」

 「ん、ああ、これがあるからわからないか」


 そう言って、フードの下から出てきた人はまさしく………


 「……ゆうしゃ、さま?」

 「その呼び方好きじゃないからやめてほしいんだけど………」

 「は、はい!すみません!」

 「そんなに硬くならないでもいいよ?もっと気楽に話しかけてくれて構わないし」

 「そ、そういうわけにもいきませんし………」

 「おーい、どうだったよ」

 「はぁ……はぁ………無事、でした、か?」

 「息切れすぎだろ……やっぱ、大きさが違うと体力にも差が出んのかねえ………?」

 「……ジリアン、後で覚えてなさいよ」

 「なんでだよ!?」

 「ええ?えええ?」


 もう何が何だかわからない。どうしよう?


 「まず、状況から確認しようか。カトレアさん、だったよね?なんでお城から抜け出してたのかな?後、何があったの?」

 「あ、あの、私などにさんはつけていただかなくても大丈夫です。順を追って説明するとですね………」


 私もどういう状況なのか知りたいから最初から話した。解雇されたこと、自分が獣人だから差別されていること、ぶつかってしまったため襲われそうになったこと。すると、勇者様たちは一様に怒り始めた。


 「何それ?意味がわからない。なんでわざとぶつかったわけでもないのにそこまでされるわけ?」

 「いや、それ以上に城から追い出した方だろ。なんだ、あいつら!?ユートに加えてこいつまでかよ」

 「許せません!いくらなんでも酷すぎます!」

 「あ、あの皆さま。私が獣人だからいけないわけですし………」

 「そんな生まれてきたのがいけないみたいじゃない!絶対に許せない、もう一回投げ飛ばしてくる!」

 「だ、大丈夫です、私は大丈夫ですから!どうか落ち着かれてください!」


 嬉しくはあるけどそんなことをしたら一大事である。もっとも、この場にユート様がいれば聞きもせずに飛び出していただろうけど。


 「そ、そうだ!皆さま、ユート様を見かけませんでしたか!?」

 「ユート?見てないけど……なんでユートが出てくるの?」

 「そ、そういえば話していませんでしたか。私が解雇されたとき、声をかけてくれたのがユート様で今は一緒にいるんです。目を離したらどこかへ行ってしまって……ど、どうしましょう!?」

 「落ち着いて!取りあえず探すしかないよ。移動しながら話そう」

 「は、はい……すみません、取り乱してしまって………」

 「ううん、構わないよ。心配に思うのはわかるし」

 「にしても、あのときのメイドと一緒にいるたあな。あいつから声をかけたのか?」

 「はい、恐らくですがユート様がいなければ私は今頃………」

 「そ、そこまでは言い過ぎなんじゃ………」

 「獣人には物を売ってくれない人がいたり、もともとの値段より高く売りつけてきますから……それにお給金もあまりもらえませんでしたし、宿にも入れてもらえない始末で………」

 「……腐ってんな」

 「でも、ユート様はちゃんと私のことを考えてくれてます。持っていたお金を全部預けてくるくらいですし」

 「「「全部!?」」」

 「あはは、あれには驚かされました……私がそのまま逃げたらどうするつもりだったんでしょうね?」

 「あいつらしいというか何というか………」

 「それに宿に住めているのもユート様のおかげですし、感謝してもし切れないです。そのせいでさっきみたいなことになっちゃったんですけど」


 苦笑いする。いつも迷惑を掛けられてはいるが、私も助けられているのだ。放り出せないのもこの辺りが理由なのかもしれない。


 「ふーん、ユートも意外と頼りになるところあるんだね」

 「その代わり、普段はだめだめですけどね」

 「そうですね、ユート君どことなく頼りなさげですし」

 「さっきみたいのに絡まれてなけりゃいいんだが」

 「ああ、それなら大丈夫だと思います」


 ユート様の影にはいつもクロさんが潜んでいるのだ。何かおかしなことをしようものならあっという間に酷い目に合うだろう。


 「でも、よかった。ユートのそばにカトレアがいて」

 「どうしてですか?」

 「だってほら、目を離すとすぐに無茶しようとするでしょ?一人だと不安だったから……誰かついてて、しかもそれがカトレアだったら安心できるよ」

 「私が途中で投げ出すとは思わないのですか?」

 「できないよ。なんて言うんだろ?カトレアがユートのこと話すとき、なんだか熱が入ってる感じがするんだよね」

 「ユートに恋でもしてんじゃねえのか?」

 「な、なななななな何を言ってるんですか?そんな勇者様に恐れ多い………」

 「はいはい、そういうことにしといてやんよ」

 「ちょ、ちょっと待ってください!本当に違うんです!」


 そう言って誤解を解こうとして視線を前に向けると………


 「あれは………!」


 間違いない。何日も一緒に過ごしているのだから見間違えるはずもない。全速力で駆けだす。


 「ちょ、ちょっとカトレア!?」


 わき目もふらずに走ると、向こうもこちらに気付いたようでゆっくりとだが歩いてくる。


 (本当に心配ばかり掛けるんですから!)


 そう怒る気持ちがある。でも、やはり安心する気持ちの方が強い。


 「ごめんね、カトレア。はぐれちゃって」

 「本当ですよ!どれだけ心配したと思ってるんですか!」

 「うん、ごめんなさい。ずっと探しててくれたの?」

 「当り前です!」

 「じゃあ、お祭り周れてないんだ………悪いことしちゃったね」

 「もういいです。後でお説教ですからね」

 「うう……やっぱりか。それなら、気分良くしてもらえば少しは短くなるかな?」

 「何を言ってるんですか?」

 「お祭り。終わるまではまだあるよ。一緒に周ろう?」

 「……仕方ないですね」


 今度は離さないように、しっかりと手をつなぐ。


 「あれ、手をつないだらカトレアの好きな人に見られたとき誤解されちゃうよ?」

 「それ自体間違ってますよ……あれはクロさんの冗談です」

 「そうだったの?そっか、じゃあ最初から手つないでおけばよかったかもね」

 「そうですね」


 内心、手のひらの汗に気付かれていないか不安だった。もしかしたら私は勘違いをしていたのかもしれない。あのときに抱いた気持ちは弟に対してのものじゃなくて………


 「やっと見つけたぞ、亜人め……」

 「え……ここでですか………」


 不安と幸福感が入り交じった複雑な気分を遮ったのは、あのガラの悪い人だった。


 「さっきのやつはどこだ!一緒に礼をしてやる!」

 「カトレア。あの人誰?」

 「ええっと……偶々、ぶつかっちゃった人です」

 「そう。ちゃんと謝った?」

 「え、はい。それはまあ………」

 「だって。謝ったんだから許してあげなよ」

 「ふざけてんのかてめえ!亜人風情が謝っただけで許されると思ってんのか!」

 「じゃあ、何すればいいの?」

 「金貨2枚よこせ!もしくはその亜人をこっちに渡せ!」

 「……ねえ、カトレア。確か、亜人って差別用語だったよね?」

 「は、はい。そうですね」

 「……クロ」

 「注文は?」

 「殺さないように。それと今後ふざけたことをしないくらいに傷めつけといて」

 「了解した。ちょうどいい。鬱憤が溜まっていたんだ、ストレス解消程度にはなれよ?」

 「は?どういう………」


 そう言い残し、消えてしまった。でも、今のって………


 (怒ってた?)


 感情なんてほとんどないと言っていたユート様が。私のために?


 「どうしたの?」

 「なんでもないです!」


 そう言って、歩き出す。屋台を周るために。お祭りが夜にやっていてよかった。明るかったらきっと、赤くなっているのに気付かれるだろうから。


やっとお祭り編終わった……これからどうやって話進めよう?

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