召喚された理由
広い廊下を姫について歩いていく。少年は5人の中では一番後ろを歩いている。というのも、いちいち立ち止まり、物珍し気にいろいろな所を眺めているからである。元々部屋を出る時に一番後ろだったのもあるが、あちこちを見ているので満足がいくと走って追いかける羽目になっている。
そのせいだろうか?女騎士たちも、お姫様も、召喚された者たちでさえ少年のことを忘れているようだ。それどころか女騎士たちとお姫様に至っては、部屋に少年がいた事にすら気付いていない。位置取りが悪かったこともあり、召喚されたのは4人と思ってしまっていたのだ。ちなみに、この少年は扉から一番離れた位置、更に筋肉質の男の後ろにいたものだから、まあ仕方ないのだろうか?
やがてマイペースな彼もやがて飽きてきたらしく、大人しく前の集団についていくようになった。
しばらく歩き続けると、とりわけ大きな扉の前でお姫様は立ち止まった。どうやら目的地に着いたようである。
豪華な扉が音を立てて開き、扉の中へと案内される。少年は……言わずもがな。やっぱり立ち止まっていた。よっぽどマイペースなようだ。本人のためにそういうことにしておいてやろう。
その部屋は広く、途中から階段状になっており、その一番上の段に大きな椅子――――というより、玉座と言った方がいいかもしれない――――が置かれていた。その玉座には一人の男性が腰かけていた。
年は30歳ほどだろうか?茶色い髪を伸ばしたその男は鋭い眼光で5人を眺めた。
「よくやってくれた、シルヴィア。やはりお前に任せたのは正解だったようだ」
「いえ、成功するまでは不安でした。呼び出すことができてよかったです」
「そうか。だが、誇ってもいいことだろう。何せ呼び出したのは5人のようだからな」
「……え?」
そこで全員気付いたらしい。この場にいる召喚されたものは4人ではなく、5人であることに。
※ ※ ※
今頃気付いたのだろうか?先程からずっとここにいたというのに?
(まあ、いいや)
正直、何も思わないから、放っておくことにした。
「まさか……《ジョーカー》の召喚にも成功していたのですか!?」
「そんな、まさか!何百年も成功しなかった《ジョーカー》を?」
どうやら、僕がここにいることによっぽど驚いているらしい。自分としては他に気になることがあるし、やっぱりどうでもいいのだけれど。
「おい、あんたら。騒ぐのはいいが、俺たちに事情を話してからにしろよ。いつまでたっても状況がわかりゃあしねえ」
「そうだな。《ジョーカー》の召喚に成功したことを確認するのは後でにしよう。彼らを何故ここに召喚したのか説明せねば」
やっと説明が始まるらしい。あることは気になるけれど、今は後回しにしておこう。
「私はジークムント=フォン=シュレンブルク。この国、シュレンブルク王国の国王だ。まずは謝罪しよう。急にこの世界に呼び出してしまうことになった。すまない」
そう言って、王様は頭を下げた。
「要は俺がいた世界とは別の世界に呼び出された、っつーことでいいのか?」
「その認識で構わない。続けて説明をしてよいか?」
「まあ、全部聞かねーとどういう状況かもわかんねーしな。俺は構わねーぜ」
「私も構わん」
「私も、別にいいけど」
「え?え?あ、はい。たぶん大丈夫です………」
みんなあっさりしてるなー、とぼんやり考える。特にさっき慌てまくってた女の人なんて「駄目です!」とか言いそうだったんだけどなー。
「お前はいいのか?」
「え?」
あ、僕にも聞いてたんだ。無視されっぱなしだったから、返事しなくてもいいのかと思ってた。
「別にいいよ?」
「そうか。では、順を追って説明していくとしよう」
王様の話をまとめるとこうだった。
この世界に魔王と呼ばれる魔族が現れたこと。魔王とその配下である八魔将は実力者でも歯が立たないこと。それどころか相当実力があるものでも、複数人でうまく立ち回らなければ上級魔族にすら手も足も出ないこと。そして、この世界の最後の希望が異世界より召喚された勇者であること。この世界には何十年に一度か世界が危機に陥ること。そのために、勇者をより安全に召喚できる方法が創られたこと。それが――――
(このカードか)
スペード、ダイヤ、ハート、クローバー、ジョーカー。この5枚のカードが媒体となることで、以前は命の危険を伴うような召喚も魔力が2、3日欠乏するくらいで済むようになったのだとか。召喚の役割を担っているのはこのシュレンブルク王家。今回召喚を行ったのがお姫様のようで、今の王家では最も所有している魔力量が多いみたい。召喚は1人しか召喚できないこともあれば、4人召喚できることもあるそうだ。しかしジョーカーのカードが使用され、召喚に成功した最後の記録は300年も前。興奮もしようというものだった。
そして、王様はこう締めくくった。
「勝手なことだとは思っている。だがこの国のため、ひいては世界のために力を貸してくれまいか?」
「拒否をしたらどうなる?」
筋肉質の男が不意に口を開く。それに追随するかのように黒髪の少女が声を発する。
「私は正直帰りたいんだけど。自分が実力者だとも思えないし」
「そうか。しかし、拒否することは出来ぬ」
「ふえぇぇぇ!どうしてですかぁ!」
「こちらとて、必死なのだ。もし拒否するというのであれば、元の世界に返すことはしないと思ってもらおう」
「チッ。最初から条件を呑むしかねーんじゃねーかよ」
「巻き込んでしまったことはすまなく思っている。それは事実だ。だが、それとこれとは話は別だ。勿論、協力してくれるのならばそれ相応の対価は払おう」
「ケッ、わあったよ。協力すりゃいいんだろ、協力すりゃあ」
「私には異存はない。もとより命を救ってもらった身だ。拒否することはない」
「帰れないんじゃ仕方ないしね……はぁ、帰ったらどう説明しよう………」
「え!?え!?ど、どうしましょう?」
拒否権ないんだったら、断っても意味ないだろうに。そこまで頭が回らないのだろうか?
「お前はどうする?」
あ、また王様から話振られた。この部屋で僕の存在を認識しているのは王様だけなんだろうか?
「選択肢がないなら協力するしかないんじゃない?」
「そうか」
それだけ言うと、王様は立ち上がった。
「私はこれより勇者の召喚に成功したことを他の国に報告しなければならない。もしわからないことがあれば、シルヴィアに聞いてくれ」
そう言って、部屋を出てしまった。うーん、あの人………
「ほんとに勝手な野郎だぜ。いけ好かねーな」
確かに勝手だよね。マイペースって言うのかな?ああいう人。
「おめーが言うなよ」
「え?何が?」
口に出していないのにそんなことを言われた。心でも覗けるのかな、あの人?凄いね。
「いや、何となくそれを言わなきゃいけねー気がしたような………」
訂正。ただの変人でした。
「…………」
なんか無言で睨まれました。怖いです。
「まあ取りあえず、だ。あのオッサンの言うことを聞かなきゃいけねーんだから、この5人で情報を共有しなきゃいけねーと思うんだが……どうだ?」
「そうね。一応、あいつよりは信頼できそうだし」
「それにそっちの姫さんのことも知る必要がありそうだ」
「私……ですか?」
「ああ。っつー訳で
自己紹介から始めるとしようぜ」