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悪夢

今回は連投します

 「じゃあアルヴァさんは新しく手に入れたスキルはないんだ」

 「そうだな。ステータスが上がったぐらいだろう」

 「で、あんたはさらに増えたわけ?」

 「おうよ。《斧術》に《空間収納(小)》、《幸運》、《悪運》、《詠唱省略》ってのもあったな」

 「何というか……器用貧乏の典型例みたいな感じだね」

 「何だそりゃ?」

 「どんなことでも一通りは上手くいくから一つのことに集中できずに中途半端になっちゃうって意味」

 「てめえ、やっぱり扱いおかしいだろ………」

 「覗きのことがあるからね。遠征始まってから何回やろうとしたかわかってる?」

 「…………」

 「目を逸らすな」

 「まあそれはともかく、そちらはどうだったのだ?」

 「コルネリアはステータスが上がっただけ。私は新しく《槍術》を覚えて、シルヴィアが《無詠唱》ってやつを覚えてた」

 「そうか。何はともあれ、皆成長しているのだな」

 「そうだね。って、シルヴィアどうしたの?さっきから料理に口付けてないけど」

 「具合でも悪いんですか?」

 「い、いえ、そういうわけでは。ただ、考え事をしていただけです」

 「何を考えてたんだ?」

 「あんたってデリカシーないよね」

 「おい、どういうことだ!?」

 「申し訳ありません……ユート様のことを考えていたんです」


 場の空気が凍った。言うべきではなかったと後悔するも、出した言葉はもう取り消せない。


 「……そうだね。ちゃんとやっていけてればいいんだけど」

 「どっか心配なんだよな……せめて誰か一緒にいりゃあいいんだろうが」

 「無理をするのが当たり前でしたからね………」


 それでも勇者様たちは心配してくれていた。私だけが思っていたわけではないことに少しだけ安堵する。


 (ユート様、どうかご無事でいてください………)


※               ※               ※

 (ああ、またか………)


 夢の中ではっきりと夢とわかるような夢を見るのはこれで何度目だろう?おそらく記憶に関することだというのはわかるのだが、いくら見たところで思い出せなければ意味がないのではないだろうか?


 (ん、あれ………?)


 いつもは変な部屋であることが多いのだが、今回は違った。この景色はどこか見覚えがあるような………


 (そうだ、お城だよ)


 この夢はどうやら記憶に関することではないらしい。ちょっとがっかりしたが、まともな夢を見るのは記憶をなくしてから初めてなのでどうせなら楽しもうと思った。


 (お城ってことはもしかしてみんないるのかな?シルヴィアさんとかジリアンさんとか凛花さんとか?)


 たとえ夢の中であったとしても知り合いに会えるのは嬉しい。何しろ自分を知っている人なのだから。誰も知らないとなるとそれは少し悲しいし、一人ぼっちはなんだか嫌だ。浮かれた気持ちで道を歩き始め、角を曲がった。



 そこにあったのは地獄だった。


 「何……これ………」


 そう呟くのがやっとだった。辺りに飛び散った血、血、血。床は鮮血で赤く染まっており、壁にまで血が飛んでいる。動いている人間など見つけようもなかった。

 あるものは鋭利な刃物で首を切り落とされたかのように首がなかった。あるものはドロドロになった何かだった。あるものは辛うじて人であったと思われる肉塊であった。あるものはぐちゃぐちゃになった何か。あるものは………


 (もういい!もういいよ!)


 今すぐ目を閉じて塞ぎ込みたい。それなのに目を閉じることができない。歩くことをやめることができない。夢の中でも吐くことはあるのだろうか。それくらいに凄惨な景色であった。だが、その夢はそこで終わらない。

 見てしまった。見えてしまった。見たくなかったその死体を。


 「ジリアン……さん………?」


 何かと迷惑を掛けてしまったその人の死体があった。いや、その表現は少し間違っているかもしれない。かつてジリアンであったろうものはもはや首しか存在していなかった。首より下はどこにも見当たらない。驚愕に見開かれた目は何を映していたのだろう?


 「じゃあ……こっちはアルヴァさん………?あっちはコルネリアさんと凛花さんなの…………?」


 アルヴァであろうそれは肘のみを残し、何も残ってはいなかった。辛うじてわかるのはその手に銃が握られていたからか。コルネリアはバラバラに切断されていた。凛花は……推測にすぎなかった。なぜならその死体は原型を留めていなかったから。


 「嘘だよ……こんなの嘘だ………」


 そして唐突に気付く。ここにいない人のことを。


 「シルヴィアさん?シルヴィアさんはどこ?」


 もはやここが夢だということを忘れていた。必死に城の中を駆けまわる。どこに行こうと待ち受けるのは人の死のみ。けれど諦めることなどできず、ただただ走り続けた。

 最後に辿り着いたのは大きな扉の前。そう、王に謁見したあの部屋だった。どこを探してもいなかったのだ。いるとしたらここしかない。

 

 「シルヴィアさん!」


 扉を開けようとして……そのまま通り抜けてしまう。ここにきてようやく夢の中であることを思い出した。そもそもこれが現実であれば息が上がって動けないはずであるし、扉を開けようとしてもうんともすんとも言わないだろう。


 (じゃあ、あれも……本当のことじゃないんだよね。よかった………)


 気分が悪くなる夢ではあるが、ただの夢であることを知ってほっとした。ジリアンさんたちが死んでしまったなんてあるわけがない。大体、あんなに無茶苦茶なアルヴァさんが負けるなんてあるはずがないのだ。だから、これはただの夢。ただの悪夢だ。

 心を落ち着かせてあたりを見渡すと、やはりここも例に漏れず死体が転がっている。騎士の人が多いのだが、どこか廊下にいた人たちよりも強そうだった。そして死体を見て回っていると――――やはり気分は悪くなるけれど――――知っている人を見つけた。


 (この人……確かシルヴィアさんを嫌ってる王子様だったよね?それにあれは王様?二人とも死んでるの?)


 通りで人っ子一人いないはずである。ジリアンさんたちはともかく、城の兵士たちが王を見捨てるなんてことは聞いたことがない。生きていないか確かめるなんてことはしなかった。必要はなかったから。王子の方はどう見ても致死量の血液を流しているし、王の死体はきれいなものだが瞳孔が開いている。何故かその死体の下には水たまりができていたが、それが波紋をつくることもない。呼吸もしていないのだろう。おそらく触れば冷たくなっていると思う。……股間に染みが広がっているし。筋肉が弛緩して、尿がそのまま流れ出ているのだと思う。死んだら筋肉は動かすことができないし。まさか生きているなら王様がこんな無様な姿を見せることはないだろう。


 「あ、シルヴィアさん………」


 部屋全体を見まわし、ようやく気付く。シルヴィアは無事だった。傷は一つとしてついていない。そう、まるでそれだけは傷つけてはいけないものであるかのように。そしてそれに気づけなかったのも無理はないといえよう。なぜならシルヴィアは宙に浮いて(、、、、、)いるのだから。何もないはずなのに、だ。糸があるようにも見えなければ、透明な何かがいるわけでもなさそうだ。

 と、そこでシルヴィアが目を覚ます。それと同時にゆっくりと地面に降ろされる。彼女が自分の足で立てるまで何かは補助を続けたようだ。目を覚ましたばかりであるのに転ぶといったことはなかった。


 「な……これは一体………?」

 「起きた?」


 突如、何もない空間から誰かが現れる。先程の口調からしてこの人が犯人なのだろう。どんな人がしたのか気になり、顔を見ようとした。だが、その前にその人が振り返る。そして――――



 「え……嘘………」


 時間が止まったかのような感覚。何故、何故この人が。いや、それ以上にどうやってこれを起こしたのか。疑問が頭を埋め尽くす。

 僕はこの人を知っている。知らないはずはない。だってこの人は――――――――――


※               ※               ※

 夢から覚め、飛び起きようとする。が、やはりいつものようにカトレアがいて起き上がれない。仰向けのまま目を開けただけであった。

 さっきの夢の内容は鮮明に覚えている。あり得るはずのない内容だった。なのに、嫌な考えが拭えない。体はじっとりと汗で濡れ、呼吸は荒かった。


 「嫌な夢でも見たんですか?」

 「!起きてたの、カトレア?」

 「今起きたところです。そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」

 「ごめん……とても酷い夢だったから………」

 「そうですか。それなら………」


 カトレアが優しく抱きしめてくれる。ただ、その感触に一瞬肩が震えてしまう。カトレアは怖い夢を見たからだと思ったらしく、頭を撫で始めた。いつもなら逆のはずだった。だけど、それは確実に不安を取り除いていく。まるで昔誰かにこうされていたかのように………


 (だんだん眠くなってきちゃった………)


 眠りは不完全だったらしく、再び睡魔が襲ってくる。今度はいい夢が見れそうだ。眠りに落ちるその刹那の時間で少しだけ考える。


 (嘘だよね。……は、あんなこと……するはずないんだから………)


 けれど眠くて上手く考えられなくて、そこで思考を放棄してしまった。

 

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