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依頼の途中で

 「カトレア-、これー?」

 「違いますよ、ユート様……これは別のものです。魔力草はこういうものですよ」


 そう言って、手に持った魔力草を見せる。これで何回目だろうか……似たようなものが多いのもわかるけど、1本も取れていないのは流石に運が悪すぎだと思う。確かユート様は運はいいはずなのに………

 

 (まあ、私が全部集めればいいかな………)


 私は鼻が利くからどこにあるのかなんてすぐにわかる。さっきの冒険者の人たちも助けてくれているし、すぐに終わると思う。

 冒険者になったのは正解だったかもしれない。冒険者は実力主義だから差別されることもなかったし、こういった採取系の依頼なら群生地をある程度知っている私にはさほど難しいことじゃない。


 (ユート様に頼り過ぎなくても済むしよかった。これで何かお返しできるかな………)


 依頼を達成した後のことを考える。報酬は銀貨2枚だから宿代に使ってもまだ残る。テントくらいは買えると思う。採取系の依頼はまだまだたくさんあったからすぐなくなることはないはず。それに報酬も似たり寄ったりなので、うまくいけば数日中に旅の支度を整えられるかもしれない。


 (そうすれば帝国に、お母さんを探しに行ける)


 ユート様をだましているようで心苦しかったが、それでも会いたかった。会ってこう言いたかったのだ。

 ――――この人が私を助けてくれたんだよ、と。


 「おう、嬢ちゃん。今何本集まったんだ?」

 「今は……これで18本ですね。あと2本集めれば達成です」

 「そうか、じゃあこれで残り1本だな」


 そう言って、アルバート様は私に魔力草を渡してくる。

 そういえば、この人で思い出した。あまり受付の人とユート様を近づけない方がいいかもしれない。あの受付の人の周りには何というか……頭がアレな人たちが集まってるし。ユート様に変な影響を与えたら困る。それに、あの受付の人自身も危険だった。ユート様の冒険者登録を手伝っていたけど、目が猛禽類のそれだった。危ない人だ。ユート様は良くも悪くも純粋な人だから、騙されてとんでもないことになるかもしれない。だから依頼を受けた後全速力であそこから離れたのだが………


 「これで終わりでしょうか」


 20本目の魔力草を摘み取る。目的は達成したし、もう帰るとしよう。日が落ちてからの移動は危険なことは森で暮らしていた頃に学んでいる。ユート様は体が弱いし、あまり運動をし過ぎるのもよくないはず。ここは早めに帰るのが正解のはずだ。


 「ユート様、もう帰りませんか?」


 と声をかけ、ユート様の方に目を戻すと同時にそれ(、、)に気付いた。それは普通では考えられないほどのサイズの猪。間違いなくそれは――――


 「馬鹿な!こんなところに『ジャイアントボア』だと!」

 「ユート様!早くお逃げください!」


 そう叫ぶものの、驚いているのかその場から動いていない。


 「ユート様!」


 咄嗟に駆け寄ろうとしたが、目の前に別の猪が現れ進路を阻む。


 「邪魔です!」


 蹴り飛ばそうとするけれど、体重の差で逆に弾き飛ばされる。早く行かなきゃいけないのに!


 「嬢ちゃん!クソ、どうなってやがる!」


 アルバート様のほうを見やると、そちらにも何体かジャイアントボアが襲い掛かっている。苦戦はしていないが、倒すのにはまだ時間がかかりそうだった。

 そうしている間にもユート様は動かず、猪の巨体が彼に近づいていく。必死に駆け寄ろうとしても猪の邪魔でそれができない。目の前に迫る魔物にとうとうユート様は目を閉じる。それは自分の死を受け入れたかのようにも見えて。そして――――母にそっくりだった。


 「だめえぇぇぇぇぇぇぇ!」


 神様がいるのなら恨んできた人生だった。でも、願わずにはいられない。私の一生分の運を使い果たしてもいい。だから。だからどうか。


 (ユート様を助けて!)


 そう思ったその時。あの人の声が聞こえた。


 「クロ?」


 そして、猪はユート様がいた場所を通り過ぎた。それは猪の影で……何も見ることができなかった。


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