依頼を受けよう
「では、これにて冒険者登録は完了です。お疲れさまでした」
「ありがとう。カトレア、何か依頼受けてく?別に急いで旅する必要もなさそうだし」
「それは……まあ、そうかもしれません。何を受けるのですか?」
「?えーっとねえ、どんなのあるの?」
人に丸投げとか言わない。文字読めないのは僕のせいじゃないし。
「そうですね……今私たちができそうなものと言えば、採取系の依頼でしょうか?」
「なんで採取なんかするの?」
「必要としている人がいるからですよ。薬草だったり、高級食材だったりは一般の人でも加工することができます。ただ、街の外に出ると魔物がいて危険ですよね?ですから、そういった場所から採取してくるのが冒険者の仕事の一つというわけです」
「なるほど」
冒険者登録の手続きをしてくれた受付の女の人――――そういえば受付の人、女の人しかいないなあ――――がそう教えてくれた。この金髪の人――――フランさんはいい人だね。登録をするときも丁寧に教えてくれたし、代筆もしてくれたし。
「フランちゃん、俺と付き合ってくれ!」
「いや、俺とだ!」
「何言ってんだ!俺とに決まってんだろ!」
「全員お断りします」
冒険者の人たちがフランさんにそう言い寄っていたけど、そっけなくそう言われてた。なんだろう、なんだか今すごく嫌そうな顔してたような………
「ユート様。受けるとするなら『魔力草20本の採取』がいいかもしれません。これなら私たちにも無理はありませんし、森に群生していることが多いので簡単だと思います」
「へ-、そうなんだ。じゃあ、それにしようかな。すみません、フランさん。この依頼を受けてもいいかな?」
「『魔力草20本の採取』ですね。わかりました。どうかお気を付けて」
「ありがとう」
初めての依頼かあ。ちゃんと達成できるように頑張ろう。
「なんであの新人気に入られてるんだあぁぁぁぁぁ!」
「気を付けてなんて俺らですら言われたことないのにぃぃぃぃぃ!」
……後ろで変な声がしていたけど気のせいだよね?
「ユート様、急ぎませんか?暗くなる前には終わらせたいですし」
「そういえば野宿とかしようにも道具がないんだっけ?じゃあ、急ごうか」
「わかりました。少し失礼します」
「うん?なに………」
しようとしてるの?って聞こうとしたらカトレアにいきなり抱えられて(しかもお姫様抱っこ)、かなりの速度で景色が移っていくのが辛うじてわかった。要はカトレアに抱っこされて走ってもらってるっていう状態。
……ねえ、カトレア。僕の気持ちも少し考えてくれないかな?すごく情けない気持ちになるから………
※ ※ ※
「おーい、お前ら。ちょっと待ってくれ」
爆走中のカトレアも聞き覚えがある声だから無視できなかったのか、一旦その場で止まった。やっと降りれる……ちなみに声をかけてきたのはアルバートさん。何の用だろう?
「魔力草を集める依頼を受けたんだってな?俺らも依頼の関係で近くまで行くから、ついでに送って行ってやるよ」
「いいの?」
「まあな、新人冒険者なんだ。ベテランがついてた方が安心するだろ?」
「ですが、あなたたちに何のメリットがあるのですか?」
「カトレア、失礼だよ」
「いやいや、坊主はもう少し人を疑うってことをした方がいいぜ?まあ、強いて言うなら酒の肴にでもと思ったわけだ」
「どういうこと?」
「つまりだ、面白そうだったからってわけだ。俺ら冒険者ってのはな、退屈することが嫌でなったやつが多い。そこに駆け落ちっつー面白そうな話題が転がり込んできた。だから、つい食いついちまったってわけだ。あわよくばもっと面白いことを見れるかと思ってな」
「わかりました。こちらとしては断る理由もないので、申し出に甘えさせていただきます」
「それでも警戒は解かねえか。ま、それが正しくはあるんだが。俺は面白いもん見れたから満足したけどな」
「「?」」
二人で首を傾げた。変なところあるかなあ?
「いや、どう考えたって男女逆だろ!」
って言って、アルバートさんを含めたその場の冒険者たちが笑い始めた。そういえば、降ろしてもらうの忘れてた………
※ ※ ※
「カトレア-、これー?」
「違いますよ、ユート様……これは別のものです。魔力草はこういうものですよ」
カトレアはそういうけど、違いがわからない。どっちも似たようなものじゃない。
「ハハハ、坊主にゃあまだ依頼は早かったかもな。もう少し知識と体力をつけてからの方がよかったんじゃねえか?」
「そうかなあ?思い立ったが吉日って言うし、何年かかると思ってるのさ」
「違いねえな!」
また冒険者たちが笑い始めた。失礼な。冗談のつもりだったのに。
「今何本くらい集まったのかな?」
「これで15本目です。もう少しなので頑張りましょう?」
「うん………」
なんだか申し訳ないなあ。その15本はすべてカトレアが見つけたもの。それに対して、僕は何もできていない。運んでもらわないと今日中に終わらせることができなかったかもしれないし、意気込んで採取をしようとしても失敗ばかり。さっきなんか戦闘があったのに、周りの冒険者とカトレアに守ってもらうばかりで何もできなかった。
(……もしかして僕、必要とされていないのかな)
カトレアも僕がいない方が楽に暮らせるのかもしれない。城にいたときと違ってひどいことをする人はいないし、住むところも見つけられた。仕事だって冒険者をしていれば暮らしていけるだろう。
(冒険者ギルドに戻ったら……お別れになっちゃうのかな………)
なんだか胸に穴が開いたかのようだった。頑張って頼りになるところを見せなきゃ。
そんなことを思っていたからかもしれない。それに気付くのに遅れたのは。
唐突に何かにぶつかった。他の冒険者かもしれない。作業に夢中になって気付かなかった。
「ごめん………」
ぶつかって。と言おうとして気付いた。目の前にいたのは人ではないことに。
目の前にいたのは巨大な猪。大きな牙は僕の腕の二倍は優にあり、その毛は硬そうで生半可な攻撃では通用しそうもなかった。猪は驚いている僕に目掛けて突進してくる。大きな体だから撥ね飛ばされたら大けがをするかもしれない。いや、僕だったら死んじゃうかも。
妙に猪の動きがゆっくりだった。体は動かないのに猪の動きは手に取るようにわかる。誰かが何かを叫んだ気がする。ああ、これでお終いなのかな。自分が何なのか、どこにいたのか何もわからないまま死んじゃうのかな。なんだか――――
(嫌だな………)
そう思って目を閉じる。
猪は止まることなどなかった。