冒険者ギルドに行こう
「ところで坊主。これからどうするつもりだ?金や行く先の当てはあるのか?」
さっき話しかけてきたおじさん、禿の人にそう言われる。そう言われてみれば――――
「全くないや。適当に旅すればいいかなって思ってたよ」
「おいおい、そんなんで大丈夫か?何に困ってるんだ?俺に話してみな」
このおじさんもいい人だ。禿げてるけど。
「おい、お前今失礼なこと考えてなかったか?」
「そんなことはないよ。名前聞いてなかったなって思っただけだよ」
「そういや言ってなかったか。俺はアルバート。Cランクの冒険者なんだぜ?」
「僕はユート。で、こっちがカトレア」
「ユートにカトレアか。お似合いなんじゃねえか?どこか……うーん、なんて言やあいいんだか………」
「アルバート!あんた、ちゃんと考えてからモノ言いな!似合ってないみたいじゃないか!」
「ち、ちげえよ、そういうことじゃねえんだ。上手い言葉が見つからねえんだよ」
「どんな感じに見えたの?」
「何というか……そっちの嬢ちゃんは亜人なわけだろ?お前も何というか………」
「この国に馴染んでないみたい?」
「それだ!そんな感じで………」
「アルバート!あんた何言ってんだい!」
「す、すまねえ!」
「いや、いいよ。気にしてないから」
要は馴染んでない者どうし仲良くやれば?って感じ?あれ、これだと嫌味に聞こえる。
「は、話を戻してだ。まずは何が足りねえんだ?」
「計画も何も立ててないからねえ。いろんな場所を見たいなって思ってるだけだし」
「まずは計画からだな。どこに行きたいんだ?」
「さあ?カトレアはどこか行きたいところある?」
カトレアを見るとまだ顔を赤くして何やら呟いている。病気かな?
「えーっと、どれどれ………」
「ふえっ!」
なんかカトレアが呟くのはやめたけど、さっきより赤くなっちゃった。
「ななななななな、何を………?」
「?熱があるんじゃないかと思って」
そんなに大げさに驚かなくても。ただ、おでこくっつけただけなのに。
「うぎぎぎぎ、うらやましい………」
「この前受付嬢の手を握ろうとしたらそれだけで悲鳴挙げられたんだぞ!」
「……後で酒奢ってやるよ」
なんか周りも変だ。何がしたいんだろう。
「ね、熱などはないから大丈夫です!そ、それでなんでしょうか!?」
「まあ、それならいいんだけど……カトレアって最初にここに行きたいとかそういうのある?」
「行きたい場所、ですか?ユート様は………」
「僕はそういうのないよ……というかどこに何があって、どんな特徴があるのかわからないし」
「そう、ですね。私の希望でいいのならいいでしょうか?」
「うん、いいよ」
「では……この国の隣の国、ヘイム帝国が最初の目的地でいいでしょうか?」
「いいよ。でも、何か理由でもあるの?」
「!い、いえ、そういうわけでは………」
「まあ、いいけどね」
きっと話したくなれば話してくれるだろう。そういうことでアルバートさんに向き直る。
「隣の帝国に行こうかなってことになったよ」
「平気なのか?あそこは亜人差別が特にひどくて、奴隷にされることが多いんだぞ?」
「カトレアが行きたいって言ってるし。それにカトレアは僕が守るから大丈夫」
「そうか。そういうことにしておこう。他にはあるのか?」
「旅の道具一式とお金かなあ?」
「そうですね。おそらく足りなくなるかと………」
「それなら冒険者登録したらどうだ?金を貰いながら旅をすりゃあいい。場所に縛られることがねえから旅もしやすいだろうしな」
「そうしようか」
「早っ!」
「そんなに驚くことかな?」
「いや、普通もっと悩むだろ!そんな即決するとは思ってなかったわ!」
「それより冒険者登録って何かあるの?」
「それよりってお前な……まあ、いいか。冒険者登録はな、書類に必要なことを記入したら冒険者カードってのを貰うんだ。これで登録自体は完了。この時点で最低ランクのGランクの冒険者になるわけだ。この後だが、もう少し上のランクから始めてえやつはEランクまでの試験なら受けることができる。要はEランクから始めることもできるってことだ。坊主は無理そうだがな」
「なんで?」
「なんでってそりゃあお前、Fランク以上のランクから始めるには決められたモンスターを倒さなきゃいけねえからだよ。お前さんじゃ無理だろよ」
「そんなことないと思うけどなあ」
「いやいや、無理だっての。Fランクになるには『ジャイアントボア』を、Eランクになるには『オーク』を自力で倒す実力が必要だからな」
「取りあえず、部屋に戻りませんか?何というか、その、居心地が悪いので………」
あ、カトレア食べ終わったんだ。なら、部屋に戻ろっと。ランクをどうするかは冒険者登録するときでもいいし。と思って部屋に戻ると。
「ベッド一つしかないのかな?」
「多分違うと思います………」
「どういうこと?」
「きっと移動させたんだと思います……私たちに気を使ったつもりで………」
「まあ、いいけどね。お城にいたときも一緒のベッドで寝てたし」
「全然違いますよ!」
「眠いから明日にして……お休み………」
寝る前にカトレアが何か言っていたような気もするけど、なんて言ったのか確認する前に意識は途切れていた。
※ ※ ※
「……やっぱりこうなるじゃない」
朝の寝覚めは息苦しさと一緒に来る。いつものことだから慣れてきちゃったよ。取りあえず、まずは――――
「カトレア、起きて。もう朝だよ」
「ううん………」
カトレアって朝弱いんだよね。夜は強いんだけど。遅くまで起きていられるみたいだし。それと寝相が悪い。いつも同じ体勢になってるからいいとも言えなくはないんだけど。自分の胸の上に頭をのせているカトレアに目をやる。気持ちよさそうに寝てるから悪いとは思うんだけど………
「ほら、カトレア。起きないと冒険者登録するの遅れちゃうよ?」
肩を揺すりながら起こそうとする。そうこうやってるうちに3分が経って………
「……ユー、ト様?」
「やっと起きた。朝ご飯食べに行こう?」
と言った瞬間。
「あんたたち!いつまで寝てんだい!?さっさと降りてこないと……おっとお楽しみの最中だったかい。邪魔したね」
って、エリサさんが扉を開いて……すぐに閉めちゃった。何だったんだろう?それにお楽しみって?
「……あ。ま、待ってください!誤解ですー!」
どうしたの、カトレア?カトレアを落ち着かせた(あまり効果はなかったけど)後、食堂に行くとにやにやしてる人となんかすごい敵意を込めて睨んでくる人がいた。なんで?
「ほら、これ食って今日も頑張りな」
「?うん、ありがとう」
「坊主、お前もやるときはやるやつだったんだな」
「どういうこと?」
「昨日ベッドに連れ込んだんだろ?そっちの嬢ちゃんを」
「うん、まあ」
「なるほどなあ、確かに肝が据わってるぜ」
「で、ですから、誤解ですー!」
で、なんだかんだで食堂で一時間過ごす羽目になった。何が誤解なんだろ?
※ ※ ※
「ありがとう、冒険者ギルドまで連れてきてくれて」
「俺たちも行くところだったからな、ついでだついで」
朝食の一騒動からしばらくして。僕とカトレアはアルバートさんに案内されて冒険者ギルドに辿り着いた。ギルドは木造の建物で、外目からは三階建てに見える。まあ、地下にもあるかもしれないから何階建てかはわからないけど。
(冒険者ギルドかあ、中はどうなってるんだろう?)
期待に胸を膨らませ……ることはなかったけれど、強い興味を惹かれながらギルドの中へと入った。