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宿を探そう

 「うーん、困ったねえ」

 「そうですね………」


 旅に出よう!と意気込んだのはいいんだけど………


 「まさかカトレアに物を売ってくれないなんて………」

 「ユート様が文字を読み書きできないことを忘れていました………」


 どっちか一方だけだと何もできないんだよね。だから二人で行動中なんだけど………


 「旅に必要なものってどれくらいあるの?」

 「まずはテントですかね。雨が降ったときなどはないと不便ですし。他にも寝袋に水袋、保存食にランタン、着替え………」

 「……多いんだね」

 「これでは出発がいつになるか……それにお金が足りるのでしょうか………」

 「どうしようか?お店を回ったのはいいけど、こんな時間になっちゃったし」


 いろんなお店で必要なものの金額を見て回ってたら、いつの間にかもう夕方近く。明日に買いに行くしかないかな?


 「取りあえず、宿を決めない?もうそろそろ店じまいするところも出てきたみたいだし」

 「そう、ですね。ただ………」

 「?」


 何かあるのかな?よくは考えず、泊まる場所を探し始めた。


※               ※               ※

 「……どうしよう?」

 「すみません、本当にすみません!私のせいで………」

 「いや、気にしてないから大丈夫だよ」


 この国の差別を甘く見てたかも。まさか行く先々で亜人だからと断られるなんて………


 「あの、私のことは気になさらず、泊まるところを探してきてください」

 「……カトレアはどうするの?」

 「私は野宿でも平気ですから。どうかユート様だけでも……きゃっ!」


 何となくもやっとした気持ちになったので、無理矢理手を取って歩き出す。

 僕はこの世界に呼ばれた意味なんてわからないし、自分のことさえも何も思い出せない。女の子に心配されるくらいには体が弱いみたいだし、勇者ですらなくなった。でも、それでも――――


 (目の前で寂しそうにしている人に手を差し伸べるくらいならできるから)


 そうしなければいけないような気がするのだ。何故かはわからないけれど。


 (ねえ、シルヴィアさん)


 心の中で呼びかける。届かないことはわかるけど、それでも思わずにはいられなかった。


 (本当にこの人たちを救わなければいけないの?誰かを貶めることを当然と思う人たちを?)


 カトレアの手のぬくもりは自分とそう変わらない気がする。見た目は少し違うけど、そんなことは双子とかじゃない限り誰だって当たり前のことだと思う。


 (僕はいったい何のために………)


 「ちょっとあんたたち、待ちな」

 「はい?」


 考え事をしてると誰かに呼び止められた。振り返るとそこにいたのは……なんて言えばいいのかな?その、体型がふくよかな女の人というか何というか……40歳くらいの女性がいた。


 「あんたたち、何をさっきからウロウロしてるんだい?もしかして道に迷ったとか?」

 

 そんなにウロウロしてたかなあ?泊まるところ探してたはずなのに。そのことを伝えると。


 「さっきから同じところをぐるぐると回ってたじゃないか。あんた、方向音痴みたいだね」

 

 失礼だな、この人。たまたまだよ。


 「まあそれはさて置き、泊まるところを探してるんだって?どうして見つからないのさ」

 「……あ、それはきっと、私のせいです………」

 「ん?お嬢ちゃん、亜人なのかい?ってことは………」


 その女の人、もうおばさんでいいや。はこっちを見てにやにやし始めた。何だろう、変な人なのかな?


 「そうかい、そうかい。若いのにもなかなか根性のあるやつがいるじゃないか。よし!うちに泊まっていきな!」

 「え?いいの?」

 「ここで断ったらせっかくの逃避行が台無しになるじゃないか。いいから泊まっていきな」

 

 なんだ、この人いい人みたい。疑ってごめんなさい。


 「さ、ついてきな。あんたたちの部屋に案内するよ」


 取りあえず、宿をとることができた。これからのことは後で考えよう。


※               ※               ※

 「食事をとるところがここだ。もう食事にするかい?」

 

 そういえばお昼何も食べてないんだよね。もう食べちゃおうか。お腹空いてるし。


 「じゃあ、お願いします」

 「はいよ。適当なところに座って待ってな」


 そう言って、準備をし始めた。待っていると何人かの人たちが入って来る。おじさんばっかりだけど。


 「ここらじゃ見ねえ顔だなおめえ。誰だ?」


 そのうちの一人が話しかけてきた。頭はツルツルで、あご髭はもじゃもじゃ。筋肉ムキムキのおじさんだった。身長も大きいからすごい威圧感が。


 「おいおい、こいつの隣にいるの亜人だぜ?」

 「なんでこんなとこにいんだ?森に帰った方がいいんじゃねえか?」


 どうやらカトレアにも絡み始めた様子。流石に見ていられなくなって、立ち上がろうとすると――――


 「あんたたち何やってんだい!その子たちの邪魔をするんじゃないよ!」


 って、あのおばさんがお皿を投げつけた。うわ、痛そう。鼻血出てるし。


 「エリサ、何か知ってるのか?」


 あ、あの人エリサさんって言うんだ。いつまでもおばさんだと失礼だからちゃんと覚えとこ。


 「駆け落ち中なんだよ、あの子たち」

 「はあ!?マジか?」

 「よく見てみな。いい服着てるだろう?あれはいいとこのお坊ちゃんだろうさ。でも、あの子に恋をしちゃったんだろう。だけど、亜人と結婚なんて親が許すはずもないじゃないか」

 「そう言われりゃそうだな」


 駆け落ち?何のことだろう?カトレアを横目で見ると顔を真っ赤にしていた。熱でもあるのかな?


 「で、あの子たちを見たときにはあの男の子の方が亜人の子の手を引いて走ってたのさ。あたしは確信したよ、これは駆け落ちだってね。それと同時に感心もした。今の貴族には珍しく肝の据わった子だってね」

 「そういうことか。よし、俺も応援するぜ!頑張れよ、坊主!」

 「はあ、ありがとうございます………?」


 何か勘違いしてそうだったけどまあいいか。あ、ご飯はおいしかったです。


 「エリサさん……俺らの飯は………?」

 「あの子たちの邪魔をしたから抜きに決まってるだろ!」

 「「そ、そんなあ………」」


 頑張って。きっといつかいいことがある……かもしれないから。




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