表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/204

そして、ここではないどこかで

本当の最終回です。人によっては蛇足に感じるかもしれないので、読み飛ばしても大丈夫だと思います。

 「……おはよー………」


 しょぼしょぼする目を擦りながら、食卓に着いた。着いてからもやっぱりウトウトしていて、下手をすればご飯の中に顔を突っ込んでしまいそうだった。


 「あら、今日も眠そうねえ」

 「うん……なんだか変な夢を見ちゃって」


 ここじゃないどこかの夢。僕は旅をしていた。色々と見知った人たちと会ったので、起きた後も驚いたのを覚えている。


 「へー。ま、夢なんて所詮夢でしかねえし、あんまり気にすんな」

 「うん。ありがとう、姉さん」


 金髪のカッコいい、という言葉が合いそうな女の人が頭を撫でてくれた。この人は僕の姉さん。よくわからないけど、家族の中で一人だけ金髪だから不思議なんだよね。そんなに気にしてはないけど。で、かなりの心配性。暇なときはしょっちゅう僕に同行していて、守ってくれていた。この前は絡んできた人をボコボコにしていたし。なんだか可哀相だったなあ。

 食べ終わった食器を持っていくと、黒髪の女の人が僕の母さん。優しいけど、どうにも逆らえないというか。怒られはしないんだけど、悲しい顔で見つめられると謝るしかないんだよね。


 「……あれ、伯父さんと叔母さん来てるの?」


 頭が覚醒してきたことで、ようやく気付くことができた。いつもはいない人がいることに。むこうは苦笑してたけどね。

 伯父さんは護衛を仕事にしていて、大陸中でもかなりの実力者みたい。なんたって、時間を止められるからね。数秒だけとは言っても。固有魔法、って言うらしくて、使える人は限られているみたい。伯父さんはその中でも特に強力な時間魔法を使えるらしい。体格はがっしりとしていて、男らしい感じかな。

 で、叔母さんは身体が弱いんだよね。でも、お腹に子供がいるからこっちに来たのだとか。お腹も膨らんできているし、生まれるのも近そう。こっちには近くに治癒魔法を使える人がいるから、それは正しいんだと思う。儚げな人で、こっちもこっちで黒髪。母さんと姉妹なんだって。伯父さんに助けてもらったときに、一目惚れしてしまったのだとか。


 「今日はどうするの?」


 母さんに聞かれたので、少し考える。まだ子供だから、仕事はできないんだよね。家業である商会の経営……は僕には無理そうなんだよね。結構大きな商会だから、潰すわけにはいかないし。ほとんど姉さんに丸投げ状態なんだ。姉さんは好きにしていい、って言うから、それに甘えてるとも言えるけど。


 「街で何か探してくるよ。面白そうなものだったり、変なことがあったりしたら伝えるね」

 「そう、それは助かるわ。でも、一人で大丈夫?」


 母さんも母さんで心配性なんだよね。何かと理由をつけては行動を制限するし。そんなに信用がないのかな?ちょっと悲しい。


 「大丈夫だよ。レアとラックも連れてくつもりだし」

 「そうなの?なら大丈夫かしら」


 そんなに信用がないのかあ。一抹の寂しさを感じる、今日この頃だった。

 準備を終えたら、友達を呼ぶ。ついて来てもらうと約束したからには、ちゃんと連れてかないと。母さんがまた泣きそうな顔になっちゃう。それは困るからね。


 「ラックー、出掛けるよー」


 ぽてぽてと歩いて来たのは、真っ黒な毛並みの狼。の魔物らしい。5歳ぐらいに森を散策してたときに、偶然会ったんだよね。妙に気になったし、むこうも懐いてくれたので連れ帰った。今では僕の保護者役になっている。……普通逆じゃないかな?情けなくなるなあ。


 「ユウ様、持ち物は?」

 「あ、レア。お金だけあれば大丈夫じゃない?」

 「日傘を忘れないでください!」

 「あ、そうだった。取りに行かないと」

 「そう言うと思ってました………」


 レアにため息をつかれた。ひどい。とはいえ、差し出された日傘はレアなりに気を遣ってくれてるんだと思う。ありがとう、と言って受け取った。

 レアはよその街で買い取った奴隷……というか、解放奴隷。こちらも妙に気になったので、僕の我が儘で買い取ってもらった。その後解放したけど。一緒にレアのお母さんも解放して、今では商会の大黒柱になっている。仕事はなんでもこなせるし、器用だし、何より働き者だからね。娘のレアの方は僕のお世話役になっている。かれこれ10年ぐらいは付き合いがあるかな?今ではすっかり仲良しだった。いまだに様付けをやめてはくれないけど。


 「いいですか?ユウ様は肌が弱いんですから、日に焼けたら大変なんですよ?わかっていますか?」

 「わかってる、わかってるー」

 「聞いてないですよね!?」


 だって、レアの上で揺れる獣の耳の方が気になるし。赤みが混じった茶色の髪と同じ色。なんでも獣人って言うみたい。これもまあ、そんなに気にしてはいない。ちょっと触ってみたいな、って思うだけ。


 「じゃあ、行こうか。いつまでもこうしてるわけにもいかないし」

 「ユウ様!日傘!日傘を忘れてます!」


※               ※               ※

 「いたか!?」

 「いや、見ていない!むこうを探せ!」


 走り回る音が聞こえる。私は狭い路地から顔を覗かせて、彼らが通り過ぎたのを確認する。……どうやら行ったみたいだ。安心して、大通りに出た。


 「まったく、あっちは駄目、こっちは駄目などと。退屈で仕方ないです」


 せっかく街に来たというのだから、自由に歩き回りたかった。騎士たちも口うるさいので、私一人で。人ごみに紛れて、騎士たちを撒いたのはよくやったと自分でも思っている。


 「さて、どこに行きましょうか」


 足を踏み出そうとしたとき、急に後ろから掴みかかられた。驚いている間に、首筋に刃物のような何かが触れていた。


 「よう……なかなか良さそうなご身分じゃねえか?人質になって、金を盗れそうだなあ………?」

 「な、何をするのですか!無礼者!」

 「ははは、違いねえ!けどな、金が要るんだよ!てめえがどうこう言われる筋合いはねえな!」


 私を捕まえた男は騎士の方へと歩いていく。むこうはすぐに気付き、剣を構えた。


 「貴様!その御方を放さんか!」

 「ああ~?聞こえねえなあ?人にものを頼むんなら、それなりの態度があるんじゃねえかあ?それに、ただじゃあ返せねえなあ?」

 「ふざけるな!とっとと放さんと………」

 「放さんと?どうなっちまうんだろうなあ?」


 刃物が私の首に当たる。薄皮が破れて、血が少しだけ流れる。もがこうとすると、怒鳴りつけられた。


 「動くんじゃねえ!変なことをしたら、このガキを殺すぞ!」


 騎士の動きが止まる。私は怖くて、震えることしかできなかった。


 (どうしよう……私が、勝手に逃げたから………!)


 死にたくない。でも、こんな男の思い通りになるのも嫌だ。でも、怖くて動くこともできない。今の私は無力だった。


 「……大丈夫?」


 耳元で囁かれる。私が弾かれたように振り返ると、そこには全く別の人がいた。白い髪に、赤い瞳。日傘を差していて、少しボーっとしたような目。そして、雪のように白い肌と病人のような細い体つきをしている。

 辺りを見渡せば、急に私を見失った男が騎士たちに抑え込まれている。どうやら助かったらしい。


 「危なかったね。助けられてよかったよ」

 「あ、あの、あなたは?」


 不思議な少年は優しく手を差し伸べてくれた。私はその手を無意識のうちに掴んでいた。


 「僕?僕はユウ、って言うんだ。僕からも質問をいいかな?」

 「は、はい。どうぞ………」


 頬が熱い。目の前の人から目が離せないでいる。なのに、この人をどこかで知っているような気がするのだ。


 「どこかで会ったかな?初めて会った気がしないんだけど………」

 「それは……いえ、会ったことはない、はずです」


 記憶の限りでは会ったはずはない。今日、初めて見た人だ。こんなに特徴的な人なら、忘れるはずもない。


 「そっか。思い違いなのかなあ?」

 「でも……会った気はするんです。ここじゃない………もっと遠い、どこかで」


 それがどこなのかまではわからない。でも、もしかしたらこの人と親しかったのかもしれない。この人からは嫌な感じがしないから。


 「君は?なんていうの?」

 「私は………」


 このときから、物語が始まったような気がした。この不思議な男の子との物語が。

ということで、カードが導く異世界生活完結です。ここまで続けられたのは読者の皆様がいたからだと思っています。本当に、ありがとうございました。気が向いたら、番外編も書くかもしれません。


今後は少し元死神の番外編を書いてから、新作の方に移るかと思います。もしよろしければ、読んでいただけると幸いです。


最後になりますが、ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ