そして、ここではないどこかで
本当の最終回です。人によっては蛇足に感じるかもしれないので、読み飛ばしても大丈夫だと思います。
「……おはよー………」
しょぼしょぼする目を擦りながら、食卓に着いた。着いてからもやっぱりウトウトしていて、下手をすればご飯の中に顔を突っ込んでしまいそうだった。
「あら、今日も眠そうねえ」
「うん……なんだか変な夢を見ちゃって」
ここじゃないどこかの夢。僕は旅をしていた。色々と見知った人たちと会ったので、起きた後も驚いたのを覚えている。
「へー。ま、夢なんて所詮夢でしかねえし、あんまり気にすんな」
「うん。ありがとう、姉さん」
金髪のカッコいい、という言葉が合いそうな女の人が頭を撫でてくれた。この人は僕の姉さん。よくわからないけど、家族の中で一人だけ金髪だから不思議なんだよね。そんなに気にしてはないけど。で、かなりの心配性。暇なときはしょっちゅう僕に同行していて、守ってくれていた。この前は絡んできた人をボコボコにしていたし。なんだか可哀相だったなあ。
食べ終わった食器を持っていくと、黒髪の女の人が僕の母さん。優しいけど、どうにも逆らえないというか。怒られはしないんだけど、悲しい顔で見つめられると謝るしかないんだよね。
「……あれ、伯父さんと叔母さん来てるの?」
頭が覚醒してきたことで、ようやく気付くことができた。いつもはいない人がいることに。むこうは苦笑してたけどね。
伯父さんは護衛を仕事にしていて、大陸中でもかなりの実力者みたい。なんたって、時間を止められるからね。数秒だけとは言っても。固有魔法、って言うらしくて、使える人は限られているみたい。伯父さんはその中でも特に強力な時間魔法を使えるらしい。体格はがっしりとしていて、男らしい感じかな。
で、叔母さんは身体が弱いんだよね。でも、お腹に子供がいるからこっちに来たのだとか。お腹も膨らんできているし、生まれるのも近そう。こっちには近くに治癒魔法を使える人がいるから、それは正しいんだと思う。儚げな人で、こっちもこっちで黒髪。母さんと姉妹なんだって。伯父さんに助けてもらったときに、一目惚れしてしまったのだとか。
「今日はどうするの?」
母さんに聞かれたので、少し考える。まだ子供だから、仕事はできないんだよね。家業である商会の経営……は僕には無理そうなんだよね。結構大きな商会だから、潰すわけにはいかないし。ほとんど姉さんに丸投げ状態なんだ。姉さんは好きにしていい、って言うから、それに甘えてるとも言えるけど。
「街で何か探してくるよ。面白そうなものだったり、変なことがあったりしたら伝えるね」
「そう、それは助かるわ。でも、一人で大丈夫?」
母さんも母さんで心配性なんだよね。何かと理由をつけては行動を制限するし。そんなに信用がないのかな?ちょっと悲しい。
「大丈夫だよ。レアとラックも連れてくつもりだし」
「そうなの?なら大丈夫かしら」
そんなに信用がないのかあ。一抹の寂しさを感じる、今日この頃だった。
準備を終えたら、友達を呼ぶ。ついて来てもらうと約束したからには、ちゃんと連れてかないと。母さんがまた泣きそうな顔になっちゃう。それは困るからね。
「ラックー、出掛けるよー」
ぽてぽてと歩いて来たのは、真っ黒な毛並みの狼。の魔物らしい。5歳ぐらいに森を散策してたときに、偶然会ったんだよね。妙に気になったし、むこうも懐いてくれたので連れ帰った。今では僕の保護者役になっている。……普通逆じゃないかな?情けなくなるなあ。
「ユウ様、持ち物は?」
「あ、レア。お金だけあれば大丈夫じゃない?」
「日傘を忘れないでください!」
「あ、そうだった。取りに行かないと」
「そう言うと思ってました………」
レアにため息をつかれた。ひどい。とはいえ、差し出された日傘はレアなりに気を遣ってくれてるんだと思う。ありがとう、と言って受け取った。
レアはよその街で買い取った奴隷……というか、解放奴隷。こちらも妙に気になったので、僕の我が儘で買い取ってもらった。その後解放したけど。一緒にレアのお母さんも解放して、今では商会の大黒柱になっている。仕事はなんでもこなせるし、器用だし、何より働き者だからね。娘のレアの方は僕のお世話役になっている。かれこれ10年ぐらいは付き合いがあるかな?今ではすっかり仲良しだった。いまだに様付けをやめてはくれないけど。
「いいですか?ユウ様は肌が弱いんですから、日に焼けたら大変なんですよ?わかっていますか?」
「わかってる、わかってるー」
「聞いてないですよね!?」
だって、レアの上で揺れる獣の耳の方が気になるし。赤みが混じった茶色の髪と同じ色。なんでも獣人って言うみたい。これもまあ、そんなに気にしてはいない。ちょっと触ってみたいな、って思うだけ。
「じゃあ、行こうか。いつまでもこうしてるわけにもいかないし」
「ユウ様!日傘!日傘を忘れてます!」
※ ※ ※
「いたか!?」
「いや、見ていない!むこうを探せ!」
走り回る音が聞こえる。私は狭い路地から顔を覗かせて、彼らが通り過ぎたのを確認する。……どうやら行ったみたいだ。安心して、大通りに出た。
「まったく、あっちは駄目、こっちは駄目などと。退屈で仕方ないです」
せっかく街に来たというのだから、自由に歩き回りたかった。騎士たちも口うるさいので、私一人で。人ごみに紛れて、騎士たちを撒いたのはよくやったと自分でも思っている。
「さて、どこに行きましょうか」
足を踏み出そうとしたとき、急に後ろから掴みかかられた。驚いている間に、首筋に刃物のような何かが触れていた。
「よう……なかなか良さそうなご身分じゃねえか?人質になって、金を盗れそうだなあ………?」
「な、何をするのですか!無礼者!」
「ははは、違いねえ!けどな、金が要るんだよ!てめえがどうこう言われる筋合いはねえな!」
私を捕まえた男は騎士の方へと歩いていく。むこうはすぐに気付き、剣を構えた。
「貴様!その御方を放さんか!」
「ああ~?聞こえねえなあ?人にものを頼むんなら、それなりの態度があるんじゃねえかあ?それに、ただじゃあ返せねえなあ?」
「ふざけるな!とっとと放さんと………」
「放さんと?どうなっちまうんだろうなあ?」
刃物が私の首に当たる。薄皮が破れて、血が少しだけ流れる。もがこうとすると、怒鳴りつけられた。
「動くんじゃねえ!変なことをしたら、このガキを殺すぞ!」
騎士の動きが止まる。私は怖くて、震えることしかできなかった。
(どうしよう……私が、勝手に逃げたから………!)
死にたくない。でも、こんな男の思い通りになるのも嫌だ。でも、怖くて動くこともできない。今の私は無力だった。
「……大丈夫?」
耳元で囁かれる。私が弾かれたように振り返ると、そこには全く別の人がいた。白い髪に、赤い瞳。日傘を差していて、少しボーっとしたような目。そして、雪のように白い肌と病人のような細い体つきをしている。
辺りを見渡せば、急に私を見失った男が騎士たちに抑え込まれている。どうやら助かったらしい。
「危なかったね。助けられてよかったよ」
「あ、あの、あなたは?」
不思議な少年は優しく手を差し伸べてくれた。私はその手を無意識のうちに掴んでいた。
「僕?僕はユウ、って言うんだ。僕からも質問をいいかな?」
「は、はい。どうぞ………」
頬が熱い。目の前の人から目が離せないでいる。なのに、この人をどこかで知っているような気がするのだ。
「どこかで会ったかな?初めて会った気がしないんだけど………」
「それは……いえ、会ったことはない、はずです」
記憶の限りでは会ったはずはない。今日、初めて見た人だ。こんなに特徴的な人なら、忘れるはずもない。
「そっか。思い違いなのかなあ?」
「でも……会った気はするんです。ここじゃない………もっと遠い、どこかで」
それがどこなのかまではわからない。でも、もしかしたらこの人と親しかったのかもしれない。この人からは嫌な感じがしないから。
「君は?なんていうの?」
「私は………」
このときから、物語が始まったような気がした。この不思議な男の子との物語が。
ということで、カードが導く異世界生活完結です。ここまで続けられたのは読者の皆様がいたからだと思っています。本当に、ありがとうございました。気が向いたら、番外編も書くかもしれません。
今後は少し元死神の番外編を書いてから、新作の方に移るかと思います。もしよろしければ、読んでいただけると幸いです。
最後になりますが、ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。




