後始末はきっちりと
それからというものは忙しい日々を過ごした。
まず、起きて(と言うよりも、記憶を取り戻しての方が正しいだろうか?)カトレアに泣き付かれた。なだめるのにそこそこ時間を掛けられたのはいい思い出だ。そこからクロノの依頼を果たすため、行動を始めた。ただし、ちょっとしたサービス付きで。
『あなたが魔王、だよね?』
「そうだが、君は?」
『僕は優人。一応、勇者だよ。クロノから話を聞いたから、力を貸せないかと思ってね』
「そう、なのか?」
魔王を含め、他の魔族たちも懐疑的だった。そりゃそうかもね。勇者、なんて言ったんだから、敵としか思っていないかもしれない。そこで、サービスの出番だ。
『これ、返すね。あなたたちの世界で埋葬してほしい』
「これは………!」
魔王たちに引き渡したのは、今まで死んでいった魔族たち。その死体だ。神様から贈り物として、時間遡行の力を渡された。とは言っても、限定的なものでもう使えない。あくまで、魔族との戦いをこれ以上させないために使うことを許された力だったから。もう没収されてるんだよね。まあいいんだけど。
それに加えて、僕の持っていたジョーカーのカードを使わせてあげることにした。座標を固定することができるようになり、内蔵されている魔力が莫大なこの魔道具は魔族たちが自分たちの世界へと帰るための最後のピースとなったらしい。程なくして、別れの時が来た。
「すまないな。君たちには何もできず………」
『いいんだよ。お礼ならレインさんとクロノに言ってあげて。あの二人がいなかったら、きっとこうしようとは思ってなかっただろうからさ』
「そうか。それでも感謝している。ありがとう」
魔王の姿もまた、人とさして変わりはなかった。また、魔王と呼ばれているのも王様であるからで、大した強さはないのだとか。確かに、クロノやレインさんの方が強そうだった。
魔族たちはこうしてこの世界を去った。そして、力を失ったカードが残される。……これで本当に、あの世界とはお別れだ。
「よかったんですか?」
同行すると言って聞かなかったカトレアが、道化師の絵を見ながら尋ねる。何がとは言わないまでもわかる。
『よかったんだよ、これで』
僕はカードを魔王が残していった手紙に同封して、目につきやすい場所へと置く。……元からあの世界に思うものなんてありやしない。僕が思っていたのは人だけ。それがいなくなってしまった今、戻る理由なんてなかった。それは前にも言ったはずなんだけどな。
僕は振り向いて、自分の手を見つめる。身体は不自由だけど、超能力は普通に使えた。神様は取り上げるつもりだったらしいけど、想像を超えて僕の魂とくっついちゃったらしい。無理に離そうとすれば、かえって危ないのだとか。なので、そのままでいいや、と言われたのだ。こうして車いすを作れたのも、一人で動かせるのも、一瞬にして別の地に移動できるのも、何よりカトレアと話せるのもみんなのおかげ。感謝しかないね。
『さて、と。まだまだ休むのは先になりそうかな』
次の目的地に向けて、転移をするのだった。
※ ※ ※
「そんなことが………」
『そう。結構忙しかったんだよ?』
魔王たちを帰した後はお金を稼ぎ始めた。こっちで暮らしていくなら、家が必要だ。カトレアが迫害されないところにあってほしいし、亜人だからと気にしないサクラ連邦で買うことにした。それなりに大きくあってほしかったので、冒険者ギルドで難しい依頼を多く受けていた。おかげで今は、『白い悪魔』とまで呼ばれて……あれ?どこかからストップが掛かりそうなあだ名だなあ。
時機を見て、エリサさん、宿屋の女の子、シンシアさんたちのパーティー、エヴァンさん、占い師のお婆さんに伝言を頼んだ。変装したのはシルヴィを驚かせたかったから。あんまり意味はなかったけどね。
『家を買って終わり、とも思ってたんだけど……やっぱりその後もお金を稼ぐのは必要だったんだよね』
「当たり前ですよ。ベッドや家具だって必要ですし」
とはいえ、強い相手と言えども八魔将よりは弱い。特に、クロノよりはずっと。安定して大金を得られたので、お金を稼ぐのは簡単だった。
シルヴィたちがお城に戻って、勇者たちを元の世界に帰す、となってからはまた忙しく。勇者のみんなに別れを告げて、ジリアンさんと凛花さんにはディアボロスからの言葉を伝えて。あとは王様にも会ってきた。僕が帰らないこととサクラ連邦に家を構えていること、そしてとあることを伝えておいた。王様は苦い顔をしてたけど、最後には許してくれた。あと、お金もいくらかくれた。
「……あの、もしかしてなのですが。帰還の儀式の際、あの部屋にいましたか?」
『ああ、うん。いたよ?ばれないように空中に浮いて』
《超念動》を使えば、これぐらいは余裕だった。それでも、途中で視線に気付かれてたっぽいけど。振り返られたときはびっくりしちゃった。
シルヴィがお城を出てからは、クロを僕たちの家に埋葬し直してから、シルヴィの護衛。ずっとついて行ってたわけじゃないけど、未来を視て危ないときは対処していた。そのおかげで、快適な旅にはなったんじゃないかな?僕はそう思ってる。
『これで僕の話は終わり。ここからが本題かな』
「はい?なんでしょう?」
軽く咳払いをする。声は出ないけど、そこは気分ってやつだよね。それに、緊張もしてるからさ。初めてのことだし。
体の向きを二人に向ける。目も合わせる。一つ深呼吸をして、ずっと言おうと思っていた言葉を伝える。
『……カトレア。シルヴィ。ずっと好きでした。あちこちボロボロで、どうしようもない僕だけど………これからもずっと一緒にいてくれたら嬉しい、かな』
「………………え?」
「そ、それって………」
『結婚してください、ってことだよ?』
……うーん、心臓がバクバクする。断られたら、って不安になる。世の中のお父さんたちはこれをみんな経験してるんだろうから、素直に凄いと思っちゃうなあ。
結局あの後考えに考えても、どっちが上と決めることはできなかった。だから、二人ともに結婚を申し込むことにしたんだよね。どちらにもずっと一緒にいてほしいと思ったから。
『ええと……駄目、かな?』
二人の顔色を窺っていると、同時に吹き出されてしまった。む、失礼な。笑う要素はあったかな?頬を膨らませていると、謝られた。わかってくれればいいんだけどね。
「ありがとうございます、ユート様」
「答え、ですよね」
二人は一緒に答えを言った。なんて言ったかって?それは……秘密かな。