異世界召喚
(ここは……?)
何もないとも言えるような、殺風景な部屋だった。立方体の形をした部屋の中心には、円形の台が鎮座している。そこの上には自分を含め、5人の人間がいた。
「ここは……どこ?確かさっきまで、私は家に帰っていたはず………」
「?どうなっている?ここは死後の世界なのか?」
「はれ?ど、ど、ど、どこですか、ここぉぉぉぉ!」
「ああ?どうなってんだ、こりゃあ?」
自分以外の4人は戸惑い、そのうちの1人はパニック状態に陥っているようだ。そんなことを他人事の様に考える。まずは気になっていたことを確かめよう。
(何だろう、これ?)
自分の足元にあったカードを拾う。4人の足元を見ると、自分同様にカードがあった。また、足元にあるカードの枚数も全員同じで1枚だった。カードには絵柄があるのも共通点かもしれない。自分のカードに描かれている絵柄は――――
(ピエロ?って言うんだっけ?)
そう、サーカス団にいたり、大道芸をしていたりしていそうな道化師の絵であった。なんでこんなへんてこりんな絵をしたカードが自分の足元に落ちていたんだろう?ついでにそこまで4人とは距離があるわけではないので、4人のカードの絵柄も見てみようと思った。
まずは、長い黒髪を腰まで伸ばしている少女――――ややツリ目がちで、不機嫌そうな印象を持つ美少女だった――――のもの。木の葉の様な模様で、黒く塗りつぶされていた。
次に、短めな灰色の髪で筋肉質な男性。彼の足元には、菱形の模様が赤く塗りつぶされたカードが落ちていた。
そして、パニック状態になっている桃色の髪を2つに束ねている女性――――こちらもこちらで美女だった。特に目を引くのは……男の人ならわかっていただけるであろう部分である。Fはあるだろうか?女性を見ている本人はそんなことはわからないだろうが。――――彼女の足元のカードの模様は赤いハートだった。
最後に、赤い髪をぼさぼさにした青年。彼のものは……何と表現すればいいのだろう?3つの丸がくっついて、下に棒が伸びているといった感じだろうか?ちなみに、色は黒かった。
(何?僕のだけなの?こんなに変な模様しているの)
ここにそのカードの現物があれば、すぐに何のカードかわかるはずである。このカードはトランプの絵柄と同じであり、それぞれスペード、ダイヤ、ハート、クローバーである。ピエロの絵柄は勿論ジョーカーだ。どうやらこの少年、トランプを知らないらしい。
その少年はスペードのカードの近くにいる少女と同じような黒髪であった。中肉中背で髪は長くもなく、かといって短いわけでもない。日本人の中に放り込んだら、すぐにどこに行ったかわからなくなるほどのいたって普通の容姿である。ただ、唯一目を引くような特徴を挙げるとすれば、それはその瞳だろう。彼の瞳には何が映っているのか全くもってわからない。何かを深く考えているかのようにも見えれば、何も考えてないようにも見える。感情が宿っていないからこそ余計にわからない。
そんな少年はジョーカーのカードを眺めつつ、これなら他の模様がよかったな、などと思っている。
そんな時、密閉状態だった部屋の扉が開いた。開いた扉の先にいたのは一人の女性。彼女は光を受け、煌めく銀色の髪を揺らしながら、部屋に入ってきた。その後方にはその女性を守るためなのだろうか?これまた女性たちが入ってきた。彼女たちは鎧をまとい、槍を手にしていた。
「よかった……勇者の召喚は成功したのですね………」
「姫様、おめでとうございます!」
「これで、この世界に希望が見えますね!」
「ええ……本当に、成功してよかった………」
そんな事を話し出す女性たち。姫様と呼ばれている所を見ると、最初に入ってきた女性はどうやら姫であるようだ。
「おい、あんたら。事情がよく呑み込めねーんだが、ちゃんと説明してくれるんだろうな?」
赤髪の男はそう問う。
「確かに。どうやら先程の発言を聞く限り、事情はお前たちが知っているようだな」
「ここはどこか聞かせて欲しいんだけど。早く帰らなきゃ困るし………」
「へ?何か知ってるんですか!?あの、あの!」
「お、落ち着いてください!事情はすべて説明します!ですから、一遍に話し出さないでください!」
姫であろうその女性の言葉を聞いて、少し冷静になったらしい。皆、話を聞けるように静かになった。
「みなさんに起こったことをお話しします。ですが、その前に場所を変えましょう。申し訳ありませんが、ついてきていただけませんか?」