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ユートの行方Ⅱ

 「ここ、ですよね………?」


 探し出したのは、暗殺されたと噂されている貴族領の森。ユート様の手掛かりは何もなかったために、仕方なしにこの地へと訪れていた。こちらは人に聞いていけば、すぐに見つけることができたからだ。

 なんでも、すこぶる評価の悪い貴族だったそうだ。税率は非常に高く、払うことはなかなかに困難だった。加えて、使用人や奴隷に対してもひどいことを行っていたらしく、死んで喜ぶ人こそいたものの、悲しむ人はいなかったようだ。あの噂では皇帝の怒りを買ったために。また、ある噂では奴隷たちの反逆で。と様々な噂があったが、真相は不明だ。


 「……その白髪の方が何か情報を持っていればいいのですが」


 魔王の一件については真実が明らかになるかも、という希望があったものの、ユート様の行方については手詰まりという言葉が相応しい。どうにかしてヒントだけでも得たいというところなのだが………


 (それにしても、いつという指定がありませんでしたね……曖昧過ぎませんか………?)


 この場所に来るよう伝えた白髪の人に対して、思わずため息をついてしまう。どこか抜けているところがあるのかもしれない。それに、この森のどこで待て、とも言っていなかったこともあるのだから。

 しばらく森で捜索を続けていると、見知った顔の人物を見つける。懐かしさを感じる人物で、出会った地もこの近くだった。


 「シンシアさん、でしたね?お久しぶりです」


 冒険者である彼女のパーティーがいたのだ。メンバーはあの頃と変わっていないが、手にした武器は高価なものになっていた。いくらか使い込まれた様子もあり、きっと持っているもので戦ってきたこともあるのだろう。むこうもすぐに気付いた様子で、私の方へと近付いて来てくれた。


 「やあ、シルヴィア様。元気そうで何よりだよ」

 「そちらもお元気そうでよかったです。こちらへはどういった用で?」

 「うん?ああ、君がきっと該当するのだとは思うのだけど……とある人物から伝言を頼まれていてね。今日ここに来るはずだからと依頼を受けたのさ」


 まさかシルヴィア様だとは思っていなかったけれど、とシンシアさんは続ける。だが、私には頼んだ人物に心当たりがある。このタイミングであれば、間違いないだろうという相手が。


 「その方は白髪の方でしたか?」

 「ああ、うん、そうだよ。もしかして知り合いの方かな?」

 「……まあ、それに似たようなものでしょうか………」


 会ったことはないはずですが。とは口にしないでおく。心配をさせるわけにもいかないのだから。


 「その方は何と?」

 「うん?移動するからバーホルト国まで来てほしいとのことだったね。居場所はバーホルト国の門番であるエヴァンという人を訪ねてほしい、とも言ってたよ」

 「そうですか……ありがとうございます。助かりました」


 なんだか肩透かしを食らった気分だ。それに加えて、少しだけ怒りの念も。場所を指定したのであれば、ちゃんとそこで待てという気分だ。


 「それにしても、時間まで合ってるとはねえ。ちょっと怖いかな」

 「怖い、ですか?」


 シンシアさんが何かを思い出すように苦笑いをしているのを見て、私は首を傾げた。シンシアさんは丁寧にも説明してくれる。


 「そうだね。簡単な依頼だったけど、渋らずに報酬を渡してくれたし、物腰も柔らかい人だった。それに、私たちを下に見ることもなかったからね。二つ返事で依頼を受けたんだ。でも、日にちと時間だけは厳守してくれとのことだったんだ。その時間に必ず来るはずだから、と。そこにシルヴィア様が来たものだから驚きだったよ。まるで未来を見て来たかのようだったね、彼は」

 「そう、ですか………」


 彼、ということは白髪の人物は男性なのだろう。そして、得体が知れないようだ。警戒は強めなければいけないかもしれない。

 そうだ、ともう一つ思い出したことがある。もしかすると、シンシアさんたちなら知っているかもしれないと。


 「ここで獣人の少女を見かけませんでしたか?カトレアによく似た子なのですが………」

 「うん?ああ、その子だったら白髪の男の人について行ってたよ?たぶんバーホルト国にいるんじゃないかな?」

 「そうなのですか?助かりました、感謝します」


 頭を下げて、少し世間話をした後に別れる。次に向かうべきところは見つかった。帝国を探すのは後回しでもいいだろう。


 (未来を知ってきたように、ですか。まさかですよね………)


※               ※               ※

 「もう去った、ですか?」

 「ああ、報告ではもう行っちまったらしい。すまんな」

 「いえ、あなたの責任ではありませんし………」


 帝国からまたも馬車に揺られて2週間ほど。エヴァンという男性にはすぐに会うことができた。なんでも今日来るということを聞いていたからだそうだ。すぐに会うことはできたが、聞かされたのは残念な情報。白髪の男性はもうこの国を出ているとのことだった。


 「……伝言があったりしますか?」

 「ん?ああ、あるぞ。サクラ連邦にいるから、着いたら占い師の老人に会ってくれとのことさ。高い酒を手土産に貰ったからなあ。これぐらいは伝えにゃならんと思ってな」

 「わかりました……ありがとうございます………」


 いったい、どれだけ移動を余儀なくされるのだろうか。これで王国に戻ったという話であれば、私は発狂しそうである。雲を掴むかのような感覚に、疲弊を覚えているのは確かだった。


 「あの、もう一ついいでしょうか?」

 「なんだ?」

 「白髪の男性について、何か見た感想を教えていただけますか?少し、気になるので………」


 せめてわずかな情報だけでも、と思ったゆえの言葉だった。だが、それは思いもよらない結果をもたらした。もしくは、これも狙っていたのだろうか。後からそう思うこともある。


 「そうだな……足が不自由な上に、身体が弱そうだったな。おまけに、どことなく頼りない感じもあったかもしれねえ。とにかく不思議な少年、って言葉が相応しかったな」

 「不思議な、少年………?」


 まさか、といくつかのピースが組み合わさっていく。今までのことを思い出していけば、そうだという可能性は十分にある。何より、そう考えれば辻褄が合うのだ。


 「ありがとうございました。とにかく、サクラ連邦へと向かってみます」


 私は飛び出すようにその場を後にしていた。

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