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ユートの行方Ⅰ

 「あなたがエリサさん、でしょうか?」

 「うん?そうだけど、どうかしたのかい?」


 エリサという人はやや恰幅のいい女性で、熟年といった方がいいような年だった。だが、人のよさそうな人で、話しかけやすくはあった。そのため、声を掛けること自体は躊躇うことはなかった。


 「一つ、質問をしてもいいでしょうか?」

 「ああ、構わないよ?何だい?」

 「ユート、という方を知りませんか?」

 「ユートかい?知っているには知っているけどね………」

 「本当ですか!?」


 思わぬ手掛かりに、前のめりになった。エリサさんに落ち着いてくれ、と宥められ、ようやく冷静になれる。


 「とは言っても、ここに来たのは随分と前のことさ。魔族がまだウロウロしてた頃でね。そのときに、獣人の女の子とここに泊まってた、ってことだね」

 「そう、ですか………」


 期待していただけに、残念に思ってしまう。元々、すぐに見つかるとは思っていなかったとはいえ。そんな私を見兼ねてなのだろうか。ああ、そういえば、と声を上げた。


 「そのときの獣人のお嬢ちゃんによく似た子がつい最近、ここに来ていたねえ。ありゃあ姉妹か何かなのかね?」

 「……!その方は今どちらに!?」

 「あ、ああ……帝国の方に行く、って言ってたね。危険だとは言ったけど、守ってくれる人がいるそうでさ」

 「その方はどのような方かおっしゃられていましたか!?」

 「いや、そこまでは……ただ、とんでもない力を持っているとは聞いていたね」


 とんでもない力。それに該当する人を一人だけ知っている。もしかしたら、という可能性は十分にあった。凛花様が言う通りに、ここには手掛かりとなる情報があったのだ。


 「助かりました!ありがとうございます!」


 私は頭を下げて、すぐに出発した。次に目指すのは帝国だ。


※               ※               ※

 「……とはいえ、やはり簡単には着きませんね………」


 私は帝国に向かう道の途中にある村で、久しぶりの休憩を取っていた。ここまで来るのに約1週間ほど掛かってしまっている。転移能力がどれだけ便利であるかは、身に染みてわかったところだった。

 そういえば、と思い出す。この村は以前にも立ち寄ったことがあり、あのときはカトレアが荒んでいた頃だった。この宿も前に泊まったときと同じ宿だ。思い出があったからかもしれない。ユート様がいて、あの魔物がいて、勇者様たちがいた。目の前のことでいっぱいいっぱいではあったものの、楽しかったときの。


 「……?はい、どうぞ」


 部屋の扉がノックされ、横になっていた体を起こす。ルームサービスは頼んでいないはずであるし、乗合馬車の中に知り合いもいなかったはずなのだが。この部屋を訪れるのは不自然の一言に尽きる。だが、入って来た女性を見ると、どうやら警戒する必要もなく……尚更疑問は強くなった。


 「こんばんは。ごめんね、こんな時間に」

 「いえ、構いませんよ。いったい何があったのですか?」


 入室したのはこの宿の看板娘さんだった。裏表のない性格で、結婚を申し込む異性も多いのだとか。私を姫だと知っても、変わらず平等な態度を取ってくれるため、私としてはありがたい限りだった。


 「ああ、そうじゃないんだ。とある人から伝言を頼まれちゃってさ。お金も貰ったから、ちゃんと果たさないわけにはいかなくてねー」

 「そうなのですか。その方はどのような見た目をしていたのですか?」

 「え?うーん……不思議な人、だったかな?なんだか子供っぽさはあるのに、どことなく大人っぽさもある、みたいな?真っ白な髪だったから、おじいちゃんかと思ったけど、普通に若い人だったし。あと、変な乗り物に乗ってたよ」

 「変な乗り物、ですか?」


 この宿であれば、乗り物が通るスペースなどないはずなのだが。それとも、宿の外であったのだろうか?彼女は頷いて、見た通りのことを教えてくれた。


 「そう、変な乗り物。椅子に車輪がくっついてたんだよね」

 「は、はあ………」


 それは乗り物なのだろうか?そんな乗り物など聞いたことすらないが。少なくとも、王国の中ではそんなものを見たことはなかった。


 「聞いたら足が不自由らしくってさ。あれで移動せざるを得ないらしいんだよね。魔道具か何かなのか、自動で動いてたけど」

 「そうですか………」


 それはお気の毒に、と言うべきだろうか。いや、それよりも何故その人が私に伝言を頼んだのかだ。そのような格好をした人に知り合いはいないし、認識があるとも思えない。そして何より、どうしてここで伝言を頼んだのか、ということだ。私の正体を知っていて伝言を頼むのなら、王国の城の方に行くのが普通である。わざわざこんな回りくどいことをしなくても、というのが本音である。

 その後も彼女は話し続けていたのだが、ようやく訪れた目的を思い出したらしい。いっけないと舌を出していた。その様子は同性の私から見ても可愛らしく、こういった所作で異性を惑わしているのだろうかと思った。


 「その人がね。『魔王についての話が聞きたいなら、暗殺されたと言われている帝国貴族の近くの森に来い』って言ってたんだ。どうしてそんな話をするんだろうね?魔王は勇者様たちを恐れて、逃げちゃったんでしょ?」

 「………そう、ですね。ありがとうございます。伝言は確かに受け取りました」

 「そっか、よかったー……って、もうこんな時間!あたし、仕事あるんだった!早く行かないと!じゃあ、ゆっくりしてってねー!」


 慌ただしい様子で彼女は廊下を駆けていく。その様子がおかしくて、少しだけ笑ってしまった。


 (白い髪の人、ですか………)


 このタイミングで魔王の話を口にしたというのなら、魔王が元の世界に戻した方法とジョーカーのカードについて何かを知っているはず。幸い、ユート様の手掛かりと同じ帝国で話があると言う。それならば、一刻も早く帝国に向かうべきだろう。


 (あなたは、いったい何者なのですか………?)

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