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 「それでは、行ってきます。ユート様のこと、お願いしますね」

 「はい、お任せください。どうかご武運を」


 城門の前でカトレアと別れる。彼女の背にはユート様が背負われていて、外の風景を珍しそうに見ている。だが、私が遠ざかっていくのを見て、手を振ってくれていた。どうやら好奇心はあれど、知人の見送りよりは上回らないことらしい。そのことは素直に嬉しい。


 (必ず帰って来なくてはなりませんね)


 前を進む勇者様方に遅れないように、私は馬を急がせたのだった。


※               ※               ※

 前回と同じく、船を出してもらう依頼を出して、クアト島へと辿り着く。今回引き受けてくれたのも、前と同じ船長。彼の厚意に感謝しつつ、魔王城のあった場所へと急ぐ。この寒さに体力を奪われるわけにもいかない。早急に辿り着く必要があるのだ。

 幸い一度は来た道であることと、ジリアン様のスキルのおかげで時間を掛けずに辿り着くことができた。


 「相変わらず、不気味なところだね………」

 「なんつーんだろうな?人気が無さ過ぎんだよな。相手は人じゃあねえが」


 凛花様とジリアン様はいつもの調子ではあったが、油断している様子はない。……いや、少し違うか。最初は険悪だった二人の間柄は、どちらかというとふざけ合っているようなそれに変わった。そして、変わったと言えばもう一つ。


 「これで、終わるんですよね………?」

 「恐らくな。まさに、長かったような短かったような、というやつだ」


 コルネリア様とアルヴァ様の仲も変わったのだろう。コルネリア様とアルヴァ様の距離は、最初の頃よりもずっと近い。それに、アルヴァ様が少し表情を見せるようになった。これは出会った当初は考えもできなかったことだ。これからも、ずっと変わっていくのだろう。……私が見れないだけで。それを寂しく感じてしまうのは、付き合った時間は長くはないと言えど、冒険の思い出が鮮明に残っているからだろうか。


 「行きましょう。これが最後の戦いですから」


 私たちは魔王城の中へと踏み込んだ。






 と、そこまではよかった。けれど、待ち受けていたのは予想とはまるで違う光景だった。


 「……何もねえな」

 「何を期待してるんだか………」

 「だが、ジリアンの言う通りだ。あまりにも何もなさ過ぎる(、、、、、、、)。魔族がここに生息していると言えるのか、首を傾げざるを得ない」

 「そう、ですね………」


 結論から言えば、中に入って急に襲われることはなかった。周囲を警戒しても、暗がりから飛び出してくることもない。部屋を覗いても、罠の類いも仕掛けられていない。本当にここが魔王城なのか、疑わしくもなるということだった。


 「金目のもんがねえどころか、生活臭すらまるでねえからな。使われてねえ部屋がほとんどだ」

 「厨房もあったよ。でも、使われてる様子はなかった。綺麗ではあったんだけど、ね………」

 「使われなくなったのは、ここ最近だと思うんですが……いつかまではわからないです………」

 「恐らくだが、放棄されたとみるのが正しいだろうな。また魔王がいるところから探さねばならんだろう」


 勇者様たちが持ち帰った情報を整理している。私が得られた情報もほぼ同じであり、無力感を覚えていた。居場所が知れたとなれば、これぐらいはしてくるはずだったのに、と今更ながら後悔をしている。


 「……しゃあねえ、戻って来たわけだしな………」

 「何かあったの?」

 「……まあな。危険かもしれねえと思って、入るのを止めた部屋があんだ。そこが最後の手掛かりかもしれん」


 全員の視線がジリアン様へと向いた。彼は驚いた様子ではあったが、すぐに説明を始める。


 「地下室があったんだよ。とんでもなくでかい扉のな」


※               ※               ※

 地下へと通じる階段は大きく、まるで軍隊が通ることを想定するように。それに見合うほどに、扉もまた大きなものだった。これほどのサイズの扉を用意させるとなるのなら、魔王とはどんな存在であるのだろう。そんなことを考えながら、気持ちを落ち着かせていく。


 「いいか?」

 「………うん」

 「ああ」

 「は、はい………」

 「ええ」


 私たち一人一人の表情を確認して、ジリアン様とアルヴァ様が扉を開けた。凛花様、ジリアン様、アルヴァ様は武器を構えて。私とコルネリア様はいつでも魔法が使えるようにして、部屋の中へと踏み込む。攻撃を警戒していた私たちの予想は、またもや裏切られることとなった。


 「……誰も、いねえな………」

 「隠れてるだけとか?」

 「いや、何も引っ掛からねえ。きっとここにもいなかったんであってんだろうな」

 「そう、ですか………」


 また振り出しに戻ってしまった。他とはまるで違った部屋であっただけあって、期待もしていたのだと思う。手掛かりがなくなってしまったことに、軽く落ち込んでしまったのは事実だ。


 「む、あれは………?」


 アルヴァ様が何かに気付いたかのように移動した。警戒しつつではあったが、やはり何もなかったようで私たちのところに戻って来た。


 「こんなものがあった」

 「えーと……なんて書いてあるの?」

 「……勇者へ、と書いてあります」


 ジリアン様に確認すれば、頷かれる。罠ではないということなのだろう。手紙のようなそれを開封して、中身を読み始めた。


 「………え?」

 「どうしたの?」

 「……魔王が、この世界を去ったと。そう、書いてあるのです………」

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