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追放

 「おい、てめえ今なんて言いやがった?」

 「彼にはこの城を出ていってもらう。勇者の中に足手まといがいても邪魔なだけだろう?」

 「ふざけんな!だからってなんで追い出す!元の世界に帰してやりゃあいいだろうが!」

 「そういうわけにもいかぬ。貴殿らの士気にも関わる上、病気だから、怪我をしているからという理由で前例を作るわけにはいかないのだ。仮病やわざと怪我をすることで元の世界に戻ろうとする者が出て来ないとも限らぬ」

 「知るかそんなもん!いい加減にしやがれ!」


 そういうや否や、ジリアンさんは王様に掴みかかろうとした。流石に無礼だからという理由で騎士たちに押し留められてたけど。


 「お父様、どういうことですか?ユート様のことを何も知らないのに足手まといだなどと………」

 「ゾランから報告を受けた。どうやらその男は武器をまともに使えず、魔法すら発動させることができないらしいな。それに加え、低いステータスと何もないスキル。ただの足手まとい以外のなんだというのだ?」

 「しかし元の世界に帰すくらいは!」

 「くどいぞ。お前も王位を継承するかもしれんのだから、少しは冷静に物事を考えろ。物事には優先順位があるということもな」

 「冷酷であることが王になる条件というのであれば、私は王になどなりたくありません!」


 そう言うとシルヴィアさんは走って出ていっちゃった。うーん、どうしようかなあ。


 「そこの騎士さん、ちょっといい?」

 「……なんだ?」


 すごい嫌そうな顔で振り向かれた。もはやこれって差別だよね?


 「あのさ、僕を抱えてシルヴィアさん追ってくれない?みんなにはまだ用事あるみたいだし」

 「貴様はどうするのだ?」

 「貴様呼ばわりかあ……まあ、いいや。シルヴィアさんと話してくるよ」

 「城に残らせてもらうように頼むためか?」

 「面倒くさい人だなあ。そうじゃないから早くしてくれない?」

 「チッ、仕方ない」


 その騎士の人は僕を負ぶって走り始めた。でも、この人舌打ちしたよね?この城には味方は少数しかいないみたい。


※               ※               ※

 「あ、居た居た。シルヴィアさーん」

 「ユート様?」


 シルヴィアさんにやっと追いついた(走ったのは騎士の人だけど)。近づくと誰か知らない人がいた。茶色い髪のイケメンさん(?)かな?どことなく王様に似てるような気がする。


 「役立たずの勇者が来たか。父上も追放とは思い切ったことをしたが、こいつを見ればまあ仕方がないと思うだろう」

 「君、誰?」


 なんか場の空気が凍った。まずいこと言ったかな?でも、こんな人知らないしなあ。


 「……フン、苦し紛れの仕返しのつもりか?子供のようだな。それではせいぜい明日から生きていられるように祈っているがいい」


 って言って行っちゃった。何が言いたかったんだろうね?あ、騎士の人も行っちゃったよ。


 「……そんなに王になりたいのですか、兄上は」

 「今のお兄さんだったの?似てないね」

 「相変わらず遠慮がないですね……私はお父様の愛人から生まれたのに対して、あの人、ゾラン兄上は正妻の子ですから。目障りなのだと思います」

 「でも、普通に考えたら王様になるのあの人じゃないの?」

 「シュレンブルク王国は少し特殊なんです。王になるのは血族の中から選ばれるのですが、優秀な者が王位を継承します。次の代の有力候補は私と兄上なんですよ」

 「そっか。だから仲悪そうなんだ」

 「そうですね」


 少し沈黙が場を支配する。しばらくするとシルヴィアさんが口を開いた。


 「あの、ユート様、その、追放のことですが………」

 「ああ、謝らなくてもいいよ。シルヴィアさんは悪くないでしょ?別に一生帰れないわけでもなさそうだし」

 「……どうしてあなたは怒らないのですか」

 「?」

 「もっと怒ってもいいはずでしょう!無理矢理召喚されて、勝手に期待されて、失望されて、最後には捨てられて!あまりにもひどいと王を、兄上を、私を!恨んだっていいはずでしょう!」

 「ありがとね、僕のために怒ってくれて」

 「私の欲しい言葉はそんなものじゃありません!」

 「さっきの答えだけどね、何も感じないんだ。ううん、感じられない(、、、、、、)って言った方が正しいのかな?」

 「っ!?それはどういう………」

 「みんなを見てると怒るだったり、悲しむだったりそういった感情はなんとなくわかるんだ。でもね、同じようなことを感じたことがあったか?って聞かれるとないとしか言えない。どんなところでどんな暮らしをしていたのかわからなくなっちゃったよ」

 「怒ることも……恨むこともできないのですか?」

 「うん」

 「そんなのって……あんまりではないですか………」

 「シルヴィアさんにお願いがあるんだけどさ」

 「……何でしょうか?」

 「もし帰れるようになったら、わかるようにいろんなところに発表してほしいんだ。それなら僕も帰れるでしょ?」

 「………!はい、わかりました」


 よかった。これでシルヴィアさんは自分を責めないで済む。無理しないかは心配だけど、そこはジリアンさんとかコルネリアさんに頼めば大丈夫だと思うしね。

 さてと、これからどうしよう?


※               ※               ※

 「本当にこれから一人で大丈夫?」

 「ぶっ倒れても俺らはいねえんだぞ?」

 「大丈夫だよ、みんな心配性だなあ」

 

 追放を言い渡された次の日。みんなが出発する前に僕は城を出ることになっていた。一応は勇者であるから、体調は整えるまでの時間は待ってくれたのだ。あの王様は完全な悪人なわけではないみたい。ただ、やっぱりジリアンさん怒ってたけどね。


 「スラれねえように気を付けろよ?大金持ってんだから」

 「うん、わかってる」


 あの王様は出る前にお金を出してくれていた。銀貨が数十枚。一ヶ月は暮らしていける金額らしい。


 「しかし、あのお姫様見送りに来ねえ気か?冷てえやつだな」

 「そんなことはないと思うよ?」


 何かあるみたいだし、すぐに出発しないのもシルヴィアさん待ちだからなんだけど………


 「あ、来た来た」

 「すみません、遅れてしまいました」

 「いいよ、別にすぐに出てけってわけじゃないんだし」

 「そう言ってもらえると助かります。それと、これを」


 そう言って、首にかけてきたのは首飾り?淡い紫色の宝石がついたそれは高そうなものだった。


 「きれいなんだけど……これは?」

 「アミュレットです。一度だけですが、攻撃から身を守ってくれます」

 「高いんじゃない?いいの?」

 「はい、貰ってください。これくらいしかできないのが心苦しいですが………」

 「そんなことないよ。ありがとう、大切にするね」

 「へえ、なかなか考えてんじゃねえか。あのオッサンとは天と地ほどの差があんな」

 

 その言葉にシルヴィアさんは苦笑していた。さてと、もうそろそろかな。


 「じゃあ、いってきます。何かあったら」

 「はい、大きく報道します。どうか、気を付けて」

 「うん、またね」


 そう言って、城から出る。まずは何からしようかな?宿を取ってもいいし、旅をするのでもいいよね。


 「ん?あれって………」

 

  

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