最後の戦い
「さてと、行きますか」
時刻的には日を跨いだと思う。朝焼けが見えるし。時間的には早いと思うけど、人数少ないから許して、ってことで。
クロに乗って、敵の要塞へと進んでいく。クロもここまで来たからには止める気はないらしく、黙って歩みを進めるだけだった。要塞の手前まで進んでもらい、一つ深呼吸をした。
『魔族の皆さん、おはようございまーす。早速ですけど、襲撃するのでよろしくー』
《思考共有》で思ってたことを飛ばした後、《操炎》で要塞の門を破壊。一気に大穴を開ける。これだけでも後から来る人たちは楽になるよね。
中では混乱する魔族たちが見える。そんなところを待つ理由もなく、クロに頼んで移動を始めた。
「フェニフェニ、ミーちゃん、ロッチー、ギガギガ。今日は大盤振る舞いで行くよ!」
呼び出すのは、炎によってできた鳥、ヘビ、8つ首の龍、そして巨人。それぞれは勝手に動き始め、敵を殲滅に向かう。
ロッチーは八岐大蛇からイメージを得た複合能力。最初は8つの頭を持つヘビにしようと思っていたんだけど、ヘビならミーちゃんがいるよね、ということで龍にしたんだ。特徴としては、とにかく殲滅力が高いということ。それぞれの口から火を放ち、死角がまったくと言っていいほどにない。それは裏を返せば、敵を発見するのも非常に速いということ。とにかくスピード勝負には強い子なんだ。
ギガギガは炎の巨人が出て来る。イメージしたのはギリシャ神話に登場する、天を支えるとも言われている巨人。アトラスが元になってるんだ。特徴はとにかく大きいこと。この子を召喚すれば、即座に要塞を破壊できるし、押し潰すだけでもその場にいるものを焼き尽くせる。他の子と違って、加減ができないのだけど。まあ、この状況には使えると思う。要塞を破壊すれば、それだけでも不利を覆せると思うから。
「き、貴様ぁ!たった一人で乗り込んで来るとは、随分と舐めた真似を!」
「舐めてはいないよ。こっちも死力を尽くしてるんだ」
言うや否や、能力を解放する。あちらこちらで超能力が吹き荒れる。重力が一気に増したことで、魔族たちが押し潰される。地面が変質して、敵を貫く。炎が噴き出て、敵を焼く。思考が繋げられて、発狂するものが出る。見えない力に振り回され、どこかに叩きつけられる。首だけが飛んで、首なしの死体が出来上がる。
そう、僕が本気で戦えば、ここに誰かがいたとしても巻き込んでしまう。むしろ、一人で動き回る方が自由に戦うことができるんだ。守りながら戦うこともできるんだろうけど、それは非常に難しいと思う。巻き込んでしまいかねないから。
「だから、一人の方が強いんだけど……ね………」
ごほごほと咳き込む。押さえた手には、早くも血が混ざっていた。やっぱりか、とは思いながらも、能力を止めることはない。止めるわけにはいかないから。
身体が治るなんて奇跡は起きない。神様が助けてくれる。何か不思議な魔法を覚えて、この呪いを解く。そんな都合のいいことは起きない。どれだけ願っても、先生や姉さんが戻って来ないのと同じ。それはわかり切っていた。
「………大丈夫か?」
「大丈夫さ……まだ、いけるよ………」
息が上がる。けれど、あくまで気丈に。弱さを見せるわけにはいかなかった。まだ、全然敵が減っていない。倒れるわけにはいかなかった。
クロも分身を出して、魔族たちへと襲い掛からせる。影に引き摺り込んだり、四方から飛び掛かり、着実にダメージを与えていく。
「……ッ、これは確かに嫌がるよねえ………」
初めて負った傷らしい傷。限界まで力を引き出していたせいで、体力の消耗はすこぶる激しい。ほんの少し。超能力が弱まってしまったのだ。その隙を見逃されるはずもなかった。魔法が僕の肩に突き刺さり、血が流れた。
「ふははは、馬鹿め!これで………!」
「終わりにはできないよ」
台詞を奪い、炎で焼き尽くす。いつもより時間が掛かる焼却。それでも、まだ炎は消えなかった。
「くそ!撃て、撃てええええええ!」
魔法が飛び交う。矢や針のようなものも。その膨大な数に、段々と僕たちは傷を増やしていった。
矢が頬を切り裂く。放った相手は原型が無くなった。
針状の何かが足に何本も刺さる。撃った相手は叩き潰された。
魔法が脇腹を貫く。その相手は瞬時にバラバラにされていた。
気付けば、肩で息をしている。クロも傷だらけになり、あちこちから血を流している。綺麗だった黒い毛並みは、走ったことで出た汗と流れた血で紅く、ぼさぼさとなっていた。その色には僕が流した血も混ざっているのかもしれない。
僕も満身創痍と言った方がいいような状態だった。片方の目は潰れ、左肩に大きな傷ができたせいで片腕が上げられない。上半身にはかすり傷が多くあって、その中には大きな怪我もいくつかあった。それでも少なめなのはクロが回避を続けてくれたからだろう。片足はズタボロにされて、まともに動かせない。だと言うのに、吐血を止めることもできなかった。
「でも………」
無茶をした甲斐は、あった。敵はほとんどが死に絶えている。辛うじて息をしているものも、いずれは死ぬだろう。例え無事な相手がいても、それは発狂しているか、怯えて出てこないか。まともに戦える相手は少ないだろう。だから、残るのは。
「この奥にいる、得体の知れないやつと………」
八魔将、クロノだけだろう。




