勘違い
「……ここは?」
見知らぬ天井。とは言ったものの、記憶がないからそれは当たり前なのかな?なんだか似たようなことを考えたこともあった気がするなあ。まあ、自分の部屋ではないよね。
(あの後何があったんだっけ?)
確かシルヴィアさんと話をするために残って、話をしていたら怒らせちゃったんだよね。で、近づいたら突き飛ばされちゃって……その後が思い出せない。何があったんだろう?
「あ!気が付きましたか?」
「コルネリアさん?どうしてここに?」
「どうしてここに?じゃありませんよ!頭から血を流して倒れたって聞いてすごく驚いたんですからね!危うく死ぬところだったんですよ!」
「え?本当に?」
「本当です!」
そっか、あの後倒れたんだ。女の子に突き飛ばされただけで死にかけるだなんて情けない気がするなあ。
「取りあえずだけどありがとね、コルネリアさん。助けてくれたんでしょ?」
「まあ、そうですけど……次からは気を付けてくださいね?それとジリアンさんにもお礼をしておいた方がいいですよ。手遅れにならなかったのはあの人のおかげですし」
「そうなの?」
「はい。倒れてたユート君を見て、一目散に私のところに来たみたいです」
「そう、だったら確かにお礼を言わなきゃね」
そんな話をしていると、突然扉が開いた。そこにいたのは――――
「ジリアンさんと凛花さん?どうしたの?」
「どうしたの?じゃねえよ。おめえの見舞いに来たんだろうが」
「案外元気そうでよかったけどね」
「一応元気だと思うよ?」
「疑問形な時点で怪しい………」
「まあ、大事を取ってしばらくは安静にしとけ。それともう一つ。入ってきていいぞ」
「……はい」
そう言って、入ってきたのはシルヴィアさんだった。なんだか暗いオーラをまとっている。大丈夫かな?
「ええと………」
流石にどうすればいいのかわからないので、ジリアンさんに助けを求めようとしたのだけれど………
「部外者は出てるとするか。ちゃんと二人で話し合っとけ」
と言って、コルネリアさんと凛花さんを連れて出ていこうとしてる。僕に丸投げですかね?
「あ、そうだジリアンさん」
「あん?なんだ?」
「ありがとね、助けてくれて」
「別に気にしなくてもいいさ」
そう言って、部屋から出ていっちゃった。ああいうのがかっこいい男、ってやつなのかな?モテるんだろうなあ、ジリアンさん。
「あの……傷の方はもう大丈夫なのですか?」
「うーん、大丈夫じゃないかな?痛い所とか特にないし。回復魔法ってすごいんだね」
「そう……ですか………それはよかったです」
会話が途切れた。どうしよう?なんて声かければいいのかな?僕はジリアンさんと違ってできる男じゃないからわからないや。
「その、申し訳ありませんでした………」
「え?何が?」
「私の不注意であなたを傷つけてしまいました……罰はいかようにも受けます。ですから、どうかこの世界を救ってくれませんか?身勝手な願いだとはわかっていますが………」
「ちょっと待って。なんかわかんなくなってきたから待って」
「は、はい」
「まずはシルヴィアさんは僕に謝りに来たってこと?」
「はい、そうです」
「で、罰は受けるから世界を救ってって言いに来たの?」
「はい……これだけひどい目に合わされたのに救えというのは虫のいい話だとは思っています。ですが、苦しんでいる人々がいるのです!ですからどうか、どうか………!」
「ええと、いやそれはいいんだけどね」
「はい?」
「え?いや、力を貸してほしいんじゃなかった?僕の聞き間違い?」
「いえ、聞き違いではないのですが……昨日、世界を救わなくてもいいのではないかと!」
「ああ、それは何というか……言葉足らずだったかな、って」
「……え?」
「ほら、シルヴィアさん全部を自分一人で抱え込んでいそうだったからさ。別にシルヴィアさんが世界を救わなくたっていいじゃない?他の人だっていいわけだし、最悪複数人でだっていいでしょ?少しくらい肩の力を抜いたら、って言おうと思ったんだけど」
「……も、申し訳ありませんでした!」
「謝るのはもういいんだけど………」
流石に苦笑するしかないかな?お姫様ってこんなに頭下げていいのかなって思うし。
「私の早とちりのせいで大怪我を負わせてしまいました……どんな罰でも受けます。その、ですので………」
「なんでそうなるかなあ。別にいいよ。気にしてないし」
「ですが!」
責任感が強い人なのかな、シルヴィアさんって。でも、困ったなあ。罰なんて思いつかな……あ。
「じゃあ、これからは問題を一人で抱え込まないで。これが罰ってことで」
「そ、そんな事ですか?もっと重いものでも………」
「って言われても思いつくものなんてないよ。これで十分」
と言ったはいいけど、やっぱり不満そう。うーん、それなら………
「わかった、それなら増やすよ。これからも仲良くしてくれるのでいいかな?」
「罰じゃない気がします………」
「と言われてもねえ……そうだ、これなら?僕が困ってどうしようもなくなったときに助けてくれるっていうの」
「今思いついたものをそのまま口にしました?」
目を逸らす。うん、仕方ないよね。思いつかなかったんだもの。それに困ることなんてないと思うし。あってないような罰だからいいかなと思うんだけど。
「わかりました。あなたが困ったときは私が助けます。約束です」
「うん、よろしくね」
自分を許せたようだしよかった。さてと、これからどうしようかな?そんなことを思っていると。
「シルヴィア様。ユート殿。陛下がお呼びです」
「ユート様は怪我人ですよ?後日にまわすことはできないのですか?」
「いえ、至急の要件と言われたもので」
「変ですね。歩けそうですか?」
「いけると思うけど」
そう言って、立ち上がる。ちょっとふらつくけど歩けるみたい。
「ふらついていますよ。やはり無理をしているのですね」
「無理ではないよ」
そう言うものの、全く信じてくれない。というか肩貸そうとしてるんだけどいいのかな?お姫様だよね、この人?
「シルヴィア様!そのようなことは我々が!」
「いえ、そういうわけにはいきません。困っていそうだったので」
シルヴィアさんの責任感の強さ、見誤ったかな?今さらだけど、軽はずみな言葉に後悔し始めた。
※ ※ ※
「おい、ユート連れてきて大丈夫だったのか?」
「いざとなれば私がどうにかします」
うん、やっぱりあんなこと言うんじゃなかった。シルヴィアさんの責任感をなめていたよ。
「ようやく来たか、勇者たちよ」
「けっ、勝手に呼び出しといて一言目がそれかよ」
「それについてはすまなく思っている。だが、悠長に構えられていても困るのでな」
「んで、用件は何だよ?」
「ああ、さっそく本題に入るとしよう。勇者たちには早く強くなってもらいたい。そのため、明日から遠征に行ってもらう」
「また、急な話だね。ユートはどうするの?怪我人だっていうのに」
「ああ、それがもう一つの用件だ。
彼にはこの城を出ていってもらう」




