宣戦布告
更新が遅れてすみません。頭痛で死んでおりました。
クロノと名乗った八魔将が宣戦布告をしてから、3日が過ぎた。敵情視察や各国との話を行っている王城は忙しさは変わらず……いや、大変なことが起こった分、むしろさらに忙しくなったのかな?お城の中はバタバタと慌ただしかった。のんびりとしているのなんて、僕ぐらいのことだ。
そして、今日は敵情視察に向かっていた人たちが帰って来たらしい。その報告を王様やジリアンさんたちが聞くらしい。僕は来ても来なくてもいい、とは言われたものの、みんながどんな敵と戦うのかは気になる。カトレアに頼み込んで、行くことにした。まあ、やっぱりおんぶされた状態で、だけど。そこだけは頑として譲ってくれなかった。
「ユート様!?何故こちらへ!?」
部屋に着くなり、急にシルヴィが声を上げる。ひどいなあ。シルヴィの中で、僕はそんなに冷たい人だったのかな、と思ってしまう。実際は心配しているだけなんだろうけど。
「相手がどうなのか知りたくてね。場合に依ったら………」
「……!駄目です!私たちでどうにかする算段をつけます!ですから………!」
「そんなに焦らないでも大丈夫だよ。冗談だし。そもそも、カトレアが行かせてくれないだろうし」
苦笑いしつつ、カトレアの顔をちらりと見る。……思いっ切り睨まれてました。ごめんなさい。
「……例え、冗談でもそのようなことを言うのはやめてください………」
目の前のシルヴィも目を伏せてしまう。流石に不謹慎だったかな、と反省して、頭を下げた。
「ごめんね。もう言わないから」
「はい………」
少しだけ暗い空気になってしまう。やっぱり、変わっちゃったな。いつもなら冗談で済むのに。
「皆、揃っているな?視察に向かっていた隠密が帰って来た。報告を聞こう」
そんなときに、王様が部屋に入ってきた。みんなちゃんと聞く体勢になって、空気が変わった。そのことに少しホッとして、僕も話を真面目に聞くことにした。
「それでは報告してくれ。何があったのかを」
「はっ、それでは私から報告させていただきます」
長々と報告をされたけれど、結局めんどくさくなった。途中から意識が飛んで、起きたときには終わった頃だった。あらら。
仕方がない、と僕は隣に座っていたシルヴィに、要約して説明してもらうことにした。シルヴィは苦笑しながら、それでも教えてくれた。要約すると、こういうことらしい。
1.敵は言っていた通りに、シュレンブルク王国に接する平原に陣取っている。
2.敵の数はおよそ10万程度。少なくとも、万を下回ることはないはず。
3.敵は既に陣地の作成に掛かっている。完成度具合は約6割ほど。
「……んー、まずいよねえ」
「そうですね……そのことは否定できません」
シルヴィも難しい顔だ。かと言って、僕が参加すると言えば、即座に否定されてしまうのだろうけど。
今になって、自分の能力を使えないことが歯がゆい。もしも使えさえすれば、戦力差を一気に縮めることができる。そうすれば、シルヴィたちの危険だってずっと低くなるのに、と。
「……各国に連絡を取り、増援を送ってもらうとしよう。10万の敵では、いくらなんでもどうしようもない。加えて、八魔将のために力を残すため、なるべく消耗は抑えてもらいたい。多くの兵が必要となるだろう」
「だろうな。レインやヴィシュアグニクラスの敵じゃあ、俺たちが消耗してたらまずやられる。せめて、最小限に抑えねえと………」
「それはどうなんだろう」
部屋に集まっていた視線が僕に集まった。あれ?と首を傾げたけど、僕が呟いた言葉が聞かれたのかな、と予想をつける。それは合っていたみたいで。
「どういうことかな、ユート殿」
「ん?そのままの意味だよ。クロノはたぶんだけど、八魔将最強なんじゃないかな」
王様が冷静に聞いたので、僕は思っていることをそのまま話した。見た感じでもそうだったけど、まあまず間違いないと思う。
「最強?」
「うん。前にレインさんが正体を隠してたとき……まだアメリアさん、って言ってたときなんだけどさ。訪れる人がいるから、戻らなきゃいけないって言ってたんだよね」
いまだに覚えている。まあ、忘れることもできないからなのだけど。
「レインさんより強いやつの可能性としては、ヴィシュアグニかクロノ、もしくは魔王って可能性があった。でも、ヴィシュアグニはレインさん程は強くなかったよね?あとは魔王って可能性だけど、魔王が向かうことはそうそうないと思うんだよね。逆はあるとしてもさ」
そして、レインさんは自分よりもずっと強いから、逆らうことができないとも言っていた。このことから察するに………
「あの女八魔将よりもずっと強い、ってのか………?」
「たぶん。恐らくだけど、今まで戦ってきた敵とは次元が違うんじゃないかな?」
すべての人が黙り込む。今回の戦いは総力戦であると共に、絶望的な戦いとも言えそうだった。
※ ※ ※
「ユート様、少々よろしいでしょうか?」
「シルヴィ?どうかしたの?」
会議が終わり、なんとか答えが出たらしく、その場は解散となった。僕はまたしてもカトレアにおぶられながら、部屋に戻っていたわけなんだけど、シルヴィに呼び止められていた。
「決戦の前の日のことなのですが……1日だけで構いませんので、私と出掛けてくれないでしょうか?」
「え、それはいいけど………」
カトレアが許してくれるかな、と思う。城の中でさえ、歩き回ることを許してくれないのに。
「勿論、カトレアさんもですよ。何かあれば、戻るという条件もありで、です。それなら構いませんか?」
「…………それなら、まあ…………」
カトレアが仕方なく、といった様子で頷く。それを受けて、シルヴィは嬉しそうにしていた。
「それでは、お願いしますね?」




