魔法を覚えよう
更新、遅れてすみません……
「マジですんのか?」
「やめといた方がいいと思うけど………」
「そ、そうですよ」
「……手加減を間違えないようにな」
「わかっています」
「……信用なさすぎない?」
なんだか僕がとっても弱いみたいじゃない。そんなに弱いわけじゃないんだから……多分。
「では、武器などはどうしますか?使ってもいいですよ?」
丸腰の女の子に向かって武器を構える……なんだかものすごく情けなくなりそうだなあ。
「取りあえず素振りするだけでもいいんじゃねえか?」
「まあ、素振りくらいなら………」
それなら大丈夫だよね?絵面的にも問題ないよね?
「じゃあ、剣を持って………」
と言って、持とうとしたら落としちゃった。お、重い………
「……両手でも持てねえか」
「これは……前衛として戦うのは完全に無理ですね」
「むしろなんであのステータスで持とうとしたのかわからない………」
「……戦力外と言ってもいいほどだな」
「……みんな随分と酷いこと言ってくるね」
本人目の前にいるのに。でも、困ったな。どうやって戦おう?
「もうちょっと軽い剣ってないの?」
「レイピアや短剣ならありますが……そういったものでは正直なところ、魔族にはダメージが与えられません。その剣で与えられるかのギリギリといったところです。それも下級魔族に対して、です。持てないのでしたら、他の武器の方がいいと思いますよ?」
「うーん……例えば?」
「弓などどうでしょうか?威力はなくても牽制程度にはなるでしょうし………」
「じゃあ、弓を使ってみようか」
何事もチャレンジだよね。
そして、一時間後。
「やっとまともに飛ぶようになってきたな………」
「すみません……私の認識が甘かったようです………」
「……まあ、上達してきた方なんじゃない?」
「みんなには優しさってものはないの?」
いや、あるんだろうけど。でもさ、本人が目の前にいるのにどうかって思うんだよね。
「そもそも、攻撃もまともにできねえんじゃ模擬戦どころじゃねえぞ」
「え、でもほら、パンチとかはできるんじゃない?」
いくらなんでもそれくらいはできると思うよ。
「話聞いてたか?俺らは魔族と戦うんだぞ?おめえのパンチは魔族にダメージを与えられんのか?」
「それに加えて、ただでさえひどいステータスだしね……下手をしたら、ダメージ受けそう」
……この場に味方がいないってことはよくわかったよ。別に敵なわけでもないけれど。
「やはり魔法で戦う方がよいのかもしれませんね」
「まあ、MPは多少なりともあるみてえだし、それが妥当なんじゃねえか?」
魔法かあ。どんなものか気になるし、習ってみようかな。
「じゃあ、魔法教えて」
「じゃあってお前……まあ、いいのか?」
「私は構いませんよ?」
「ありがとう」
シルヴィアさんの表情が少し引きつっていたような気もしたけど、気のせいだよね。覚えられるといいなあ、魔法。
※ ※ ※
「「…………」」
「ええっと、詠唱はっと………」
結構時間がかかったけど、なかなか魔法が使えない。太陽はもう隠れかけてる。つまり、もう夕方。
「どうして………?」
「お姫様の教え方が悪いわけじゃあなさそうだしな……その証明にほら、なあ?」
ジリアンさんは遠くの的に向かって、火属性の初級魔法『ファイヤーボール』を放った。的は小さな火球に燃やされて、燃えた跡が残った。
「ジリアンさんが器用だからじゃない?弓とか槍とかも使えるんでしょ?」
「いや、おめえが不器用過ぎるってのもあると思うぞ………」
「き、今日はここまでにしておきましょうか!明日明後日にどうこうなる話でもありませんし!」
「そうね。ユートの体に何かあっても困るし」
「それもそうだ」
ジリアンさん、笑いながら言わないでよ。そりゃ確かに前科はあるけど、しょっちゅう倒れてるわけじゃないじゃない。
「コルネリアももうそろそろ帰って来るだろうし、夕食までは自由行動ってところ?」
「そうですね。昨日の様に準備ができ次第、人が来ると思います」
「そうか。で、アルヴァの旦那はどこいんだ?」
「自主鍛錬に行くって。ユートが魔法の練習してた間にどこかに行ってそれっきり」
「冷てえやつだな……まあ暗くなってきたし、もうそろそろ帰ってくんだろ。俺たちは先に戻ってるとしようぜ。いつ倒れるかわからねえやつもいるしな」
「だからそんなに倒れてないって」
「「2日続けて倒れたやつが言うな(言わないでよ)」」
僕には反論することも許されていないのだろうか?仕方なしにみんなと一緒に部屋に戻った。
(?何だろう?)
柱のうちの一つに目を向ける。嫌な予感がしたような気がした。
「何やってんだ、ユート!置いてくぞ!」
「あ、うん。今行くよ」
慌ててみんなを追いかけた。追いついたころには先程のことは頭から抜け落ちていた。
※ ※ ※
(驚いたな、ばれたかと思ったぞ)
柱の影から一人の男が現れた。その男は茶色の髪をしており、どこか目を引くような不思議な雰囲気を持っていた。その男に一人の騎士が近づく。
「報告は間違いないのだな」
「はい、剣を振るどころか持ち上げることすらできていませんでした。それどころか魔法も弓に至っても使えていません」
「挙句の果てにステータスは非常に低く、すぐに倒れるか。フン、まだ俺の方が戦えるというものだな」
「その通りで………」
「なぜ、あのようなやつが勇者にいるのか不思議でならん。まあ、よい。父上に報告し、進言すべきだな」
「と、言いますと?」
「邪魔な者や足手まといはいない方がいい。つまりやつを追放すべき、とな」
そして、二人はその場から離れ誰もいなくなった。その場所は偶然なのか、はたまた必然なのかユートが目をやっていた柱であった。