模擬戦
「じゃあ、気を取り直して始めよっか」
「そうですね」
そして、凛花さんと騎士さんとの模擬戦が始まった。騎士の人はまっすぐ踏み込んで突きを放ったんだけど、凛花さんは剣で受け流して攻撃をいなしてた。攻撃に失敗した騎士の人はすぐに後ろに下がろうとした。ただその判断は遅く、首に剣を突き付けられていた。
「私の勝ちでいい?」
「はい、私の負けですね。ありがとうございました」
割とあっさり終わっちゃったね。もうちょっとかかるかなと思ったんだけど。それだけ凛花さんの腕が優れてるってことかな?
「勝っちゃった」
「うん、知ってるよ」
「この国の兵士ってこれで大丈夫なの?」
「模擬戦だったし、あの人が一番強いわけではないわけなさそうだし、大丈夫じゃない?」
「まあ、そうかもね」
「あの……凛花様が想像以上に強かっただけでは?なぜそれほどの腕で戦いの経験がないのか不思議なくらいです」
「別に私の国は平和なところだったし。戦争なんか数十年やってないよ。私は護身術と家の関係で剣道と合気道習ってただけ」
「そう……だったのですか。いい国だったのですね」
「この世界に来てからは本当にそう思う」
そう笑いながら、凛花さんが言ってた。
「ところでさ」
「はい、何でしょう?」
「なんでカトレアがいるのかな?しかも、僕の後ろに」
「……まさか言わなきゃわからない?」
「重症ですね、これは………」
「ユート君?ちゃんと考えてください」
なんか呆れた目線で見られてるんだけど………
「い、いや、だってさ。メイドさんって他にも仕事あるでしょ?僕にばっかり構って他の仕事を蔑ろにしてていいのかなあ、なんて………」
「普通は主の世話をするのがメイドの仕事じゃないの?」
「それに勇者様のお世話を任せているメイドたちはそれ以外に仕事を持ちません。勇者様のお世話をしていない方が仕事を蔑ろにしています」
「そ、そうなんだ………」
そこまでやるものなんだね……驚きだよ。
「そういえばスキルの確認のためって言ってましたけど、凛花さんは《体術》のスキルを使っていなかったですよね?」
「ああ、確かに。どうしようか?」
「じゃあ、僕が模擬戦して………」
「「「「却下(です)」」」」
そんな息をそろえて言わないでも……それに、いつの間にかカトレアも参加してるし………
「じゃあ、昨日のこともあるし、後でジリアンにでも使おうか」
「それがいいかもしれないですね」
なんかあの二人怖いよ。まだ怒ってたんだ。怒らせないようにしよう………
そんなことをしてると、ジリアンさんの番になったみたい。アルヴァさんが一番最後なのかな?
「ああっと、弓も問題なく使えそうだし、槍の方も問題ねーわな。まあ、模擬戦は剣でやるわ」
「槍でなくてよろしいのですか?」
「この槍は使いにくいしな。俺はもっと安物のやつでいいんだよ」
「そういうわけにはまいりません。あなたは勇者なのです。安いものを選ばせるなどしようものなら、その武器屋は潰されるでしょう」
「おいおい、そんなにか?大体この槍重いからな。そういった意味でも使いにくいんだよ」
「そういうことでしたか。では、もっと軽く良いものを用意しておきましょう。何週間かすればできると思います」
「別にそこまでしなくてもいいんだがなあ………」
なんかジリアンさん、困ってるみたい。まあ確かに、高いものって使うのに勇気がいるよね。
「取りあえず、とっとと始めようぜ。面倒なことは早めに終わらせるに限る」
「そ、そうですか。では、始めましょうか」
なんか騎士の人が苦笑いしてるんだけど。どうしたのかな?
「騎士たちにとって、勇者と手合わせしたというのは大変名誉なことですからね……あのように面倒だと言われてしまうと………」
「へ-。じゃあ、勇者の世話をするのも名誉なことなの?」
「はい、とても名誉なことですよ」
「そうなんだ。僕にはそうは思えないけど」
「?なぜですか?」
「え?だって、しょっちゅう倒れる人の世話をするのって大変なだけじゃない?」
「「「「そう思うならちゃんと体調管理をしてください(しなさい)!」」」」
怒られちゃった。理不尽だよ。とか言ってる間に、模擬戦終わってるし。勝ったのはジリアンさんだったよ。なんかギリギリっぽい気もしたけど。まあ、指揮官みたいなスキルの方が高かったし、そっちが本職なのかな?
「はあ、やっと終わったぜ」
「そ。それならちょうどよかった」
「ん?どういう………」
ことだ?って言おうとしたんだろうなあ……言う前に凛花さんに投げ飛ばされたけど。ひどい………
「ジリアンさーん。大丈夫ー?」
「まさかお前に言われるとは思わなかったぜ………」
どういう意味かな?よくわからないや。
そんなやり取りをしているとアルヴァさんの番になったみたい。騎士の人と構え合ってる。
「《銃創成》、《弾丸創成》」
アルヴァさんがそう言うと、その手には銃が。いわゆるハンドガン、ってやつだよね。お互いの武器を構えながら、二人は睨みあった。二人の間に一陣の風が吹く。吹き止んだその瞬間。
二人が交錯し、そしてアルヴァさんが騎士のこめかみに銃を押しあてた状態で静止した。一瞬のことだったよ。瞬きしてたから、よくわからなかったし。
「……何が起きたのですか?」
「ま、全く見えませんでした………」
「アルヴァさんが一番強いってことでいいんじゃないの?」
「否定できそうにねえな………」
凄まじい強さを見せつけたアルヴァさんは自慢をするわけでもなく、
「ふむ、《効果付与》が試せなかったな」
とか言ってる。
……これ、普通にアルヴァさん一人召喚するだけでよかったんじゃない?