僕は誰?
アルヴァンとジリアンの響きが似ているので、アルヴァにしました。
「誰から始めますか?とは言ってもスキルの効果の確認という意味が強いので、あまり気負う必要はありませんが」
とか騎士の人が言ってるよ。機嫌がよさそう。僕に対しては冷ややかなものしか向けないのに。ひどい落差だよね。
「どうする?誰からやる?」
「俺は別にいつでもいいが」
「私もいつでも構わない」
「じゃあ、私からでいいか」
最初は凛花さんからみたい。どんな感じなんだろ?
「武器はどういったものを使いますか?こちらで用意しますよ」
「剣だけど……この世界に刀ってあるの?」
「刀……ですか?」
「その反応だとないみたいね」
「も、申し訳ありません」
「別にいいけど。試したいものがあったから」
「試したいもの?」
「そ。『クリエイト・セイクリッドウェポン』」
凛花さんがそう言うと手には光る剣が。その剣は片方にしか刃がない普通とは違った剣だった。あれが刀なのかな?かっこいいね。
「無詠唱でこれだけの魔法を………!」
「これだけでも勇者として素晴らしいですが……《剣術》スキルも持っていましたね。十分過ぎると思います。後はどれだけの腕か、といったところですね」
「勇者として素晴らしいってどういうこと?」
「勇者は強いだけでは駄目であることが多いのです。勇者という人物は人々に希望を与える存在。例え強かったとしても、それが見る人に嫌悪感を抱かせるような戦い方では勇者とは言えないことがほとんどなのです」
「へ-、いろいろ大変なんだね」
「ええ、本当にそう思います」
「どちらが勝つんでしょうか?」
「何とも言えませんね。私としては戦いの経験がないと言っておられましたし、凛花様が勝つのは難しいのではないかと思いますが………」
「ええ!?頑張ってください、凛花さん!」
「……どうだろね」
「え?どういうことですか?」
「完全にあの騎士さんが勝つとは言えないと思うよ?たぶん、凛花さんの方が勝率は高いんじゃないかな?」
「どうしてそう思ったのですか?」
不思議そうにシルヴィアさんがそう聞いてくるけど、だってねえ?
「確かにシルヴィアさんが言う通り、凛花さんは戦った経験はないと思う。でも、それはあっちの騎士さんも似た様なものだと思う。ほとんど後方支援かなんかで実戦の空気に触れたことはあっても、命のやり取りまでは、って感じかな?あとは、武器のことだね」
「武器ですか?」
「そう、武器。男の人と女の人が剣で戦ったらどっちが勝つと思う?」
「男の方、ではないでしょうか?」
「同じくらいの腕ならそうだよ。ただこれが男の人が剣、女の人が槍になると変わっちゃう。今度は女の人が勝つことが多くなっちゃう」
「では、騎士の方の方が有利なのでは?あちらの騎士が持っているのは槍ですよ?」
「まあ、そうなんだけどね。言ったでしょ、同じくらいの腕ならって。凛花さんの腕が騎士さんより上なら勝てるよ」
「ですが、戦いの経験はないと言っておりましたよ?」
「うん、まあ戦いの経験はね。でも、剣の修行とかしたことないって一言でも言ってた?」
「あ………!」
「それくらいに構えは板についてると思う。それに間合いを詰められたら、十中八九凛花さんの勝ちだろうし」
「間合いを詰めれば?」
「いや、だって槍って小回りが利かないでしょ?剣の間合いに入られたら何もできなくなるよ。まあ、凄い人なら別なんだろうけど」
「凄いですねえ、ユート君は。私はそんなこと気付きませんでしたよ」
「当たり前じゃない、だって僕は………」
「「僕は?」」
あれ?何を言おうとしていたんだっけ?シルヴィアさんが怪訝そうな表情をしているけど、そんなことは気にならないほどだった。
(僕は誰?何者なの?どうしてこんなことを知ってるの?)
最初はただ不思議に思っていただけだった。でも段々と知識が浮かび上がってくるのに気付き、不安になった。いや――――怖くなったのだろう。知らないことは幸せだったのかもしれない。だって、どうして僕は――――
(凛花さんを殺すにはどうすればいいかを考えているの………?)
正確には相手の騎士もだったけれど。だけど、もう考えていない。なぜなら、殺せてしまうから。そして。
「!ユート様!?」
「ユート君!?どうしたんですか!?」
気付いたら倒れていた。また、あの頭痛が襲ってくる。
(ああ、これでいいんだ……これで起きれば………)
すべて忘れているだろうから。不安も恐怖も、殺し方すらも。きっと忘れているだろう。ならば、ほんの少しだけ寝ていよう。これはきっと、思い出してはいけないモノなのだろうから――――
※ ※ ※
「大丈夫ですか?」
「シルヴィア、さん?」
「よかった、急に倒れたから心配したのですよ?他の皆様も心配されてますし」
「ユート、おめえはもう部屋に行った方がいいんじゃねえか?いつ倒れるか心臓にわりいしな」
「大丈夫だよ、もう元気だし。今度は座って見てるから。どれくらい倒れてたの?」
「まあ、一分も経っちゃいないが……本当に大丈夫なんだろうな?昨日今日と連続で倒れるなんざ異常だと思うんだが」
「今日はもう大丈夫から、本当に」
何故倒れたのか。それを忘れ、考えないようにしている。そのことにも気付かない僕が記憶を取り戻すのはもう少し後の話だった。