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子供の処遇

 「……どうするよ、あいつをさ」

 「どうする、と言われましても………」


 いい案など思い付かない。このままにすれば、いずれ死んでしまうことは明白だろう。だが、彼を育てるだけの余裕があるかと言われれば、口をつぐむしかない。彼一人に時間を割き、多くの人に被害が出る。そうなれば、彼と同じような子や彼よりもひどい目に合う子もいるかもしれない。


 「王城に匿うってのはどうだ?姫さんの力でどうにかならんのか?」

 「恐らくですが……無理だと思います。お父様は特例として、認めることはないでしょうし……何より、育てるものがいないかと」


 そう、そこが一番の問題なのだ。私の教育係だった者も王城を離れている。たった一人の、それもただの一般人のために、再びその者を呼び戻すことはしないだろう。

 もしそれをしてしまえば、王国の民からも同じことをしろという不満が出て来るからだ。相手は別の国の人間ということもあり、不満は相当大きいものになるだろう。


 「くそ……どうすりゃいいんだ………」

 「そう簡単には諦められないしね………」


 凛花様とジリアン様が頭を悩ませている。コルネリア様はおろおろしていた。やはり、見捨てることができないからだろう。

 たった一人だけ異なるとするのなら。


 「……私は放り出すべきだと思うがな」

 「ああ、ダンナならそう言うと思ったよ……だがな、まだ子供なんだぞ?俺にはそれが正しいとは思えん」

 「同じなのは嫌だけど、今回はジリアンに賛成。いくらなんでも、あんなに不幸な子を見捨てるなんてことはできないよ」


 ジリアン様と凛花様はあの子を生かしたい、という意見で一致しているようだった。声は上げていないものの、コルネリア様も同じ意見のようだ。


 「だが、どうする?具体的な方法がないのも事実だろう?」

 「それは……まあ、そうだが」


 冷たいと思うかもしれないが、今回ばかりはアルヴァ様の味方をしたい。このままでは多くの人が不幸になる。一人の命と多くの命。どちらが大切かなど、比べるべくもないだろう。


 「誰かが残って世話をする、とか?それなら大丈夫かもしれないけど」

 「ですが、それだと……って、ユート様!?」


 突然増えた声に驚く。それもそのはず、その声は隣の部屋にいたはずのユート様のものだったからだ。


 「どうしてここに………?」

 「ああ、あの子寝ちゃったから。一応様子を見に来たんだ」


 ボーッとしたような表情で、彼はそう告げた。私は少し気まずくなって、視線を逸らした。だって、私は………


 「シルヴィは気にしなくても大丈夫だよ?」

 「え?」

 「あの子を受け入れるのは反対なんでしょ?仕方ないよ。シルヴィは国のことを考えなきゃいけないんだから」


 私は息を呑んだ。ユート様の言う通りだったから。けれど、本音を言えば私だって助けたかった。このまま助からないのは、あまりにも可哀想だったから。


 「まあ、最悪僕が手を出すから大丈夫。気にしないで」

 「手を出す、とは………?」

 「僕が殺す。苦しまないで済むだろうから、いいと思うのだけど」


 場の空気が凍った。なんとか立ち直った私が、彼に問い掛ける。


 「殺す、のですか?」

 「そりゃあね。一応兵器な部分がまだ残ってるわけだし、戦争で何万人と殺してきたから。それが一人増えるだけだよ。慣れてない人がやるよりはよっぽどいいでしょ?」


 慣れていない、と言われて、少しだけ悲しくなった。ユート様が異質だということがわかったからではない。彼が人を殺すことに慣れ過ぎてしまったことにだ。私はもう……この人にそんなことを押し付けたくはなかった。


 「超能力を使わずとも、即死させることぐらいはできる。私がやるとしよう」

 「え、でも………」

 「少なくとも、10年ほどしか生きていないものに、押し付けるのは正しくないと思うがな。それは大人と軍人の役目だろう」


 アルヴァ様が銃を持ち上げてそう言った。その姿にジリアン様が髪をがりがりと掻いた。


 「だあら、殺すことを前提にすんな!捜索の方は他のやつらだけでもできそうか!?」

 「んー……まあ、別行動にはなるかもだけど。超能力をフルに使えばできるんじゃないかなあ?」


 ユート様はできると言う。流石の無茶苦茶さだ、と苦笑いしてしまった。


 「んじゃあ、誰かが面倒見てる間に探してもらうとするか。今のところはその方針でいいな?」

 「いいよ」

 「ああ、了解した」


 ユート様とアルヴァ様が頷いたのを見て、三人がホッとする。私も心のどこかで安堵していた。ユート様が人を殺さなくていい、ということが本当によかったと思っているのだ。


 「そんじゃ、誰が世話するか決めるか。得手不得手もあるだろうしな」


 ジリアン様が笑い、ようやく事態は解決したように思えた。けれど……大きな問題が残っていたのだ。


※               ※               ※

 「……おい、どういうことだ」

 「……私が聞きたいんだけど」


 ジリアン様と凛花様が頬を引き攣らせている。二人が見ているのは、二人の裾を掴んでいる一人の子供の姿だ。


 「……懐かれたな」

 「そうだね。ジリアンさんと凛花さんがお世話をするってことでいいのかな?」

 「「誰がこいつなんかと!」」


 互いが互いを指し、心底嫌だと言うようにそっぽを向いた。


 「これは、また………」

 「大変そうですね………」


 今にも喧嘩しそうな二人を見て、私は額に手を置くのだった。

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