拾った子供
「……なんだ、こいつ?」
「倒れてたから連れて来たんだけど……まずかったかな?」
敵意も何もなかったし、大丈夫なんじゃないかと思ったんだけど。間違ってたかなあ?ジリアンさんの渋い顔を見て、そう思った。
「どこにいたんだ?」
「探してる途中で森に倒れてた。お腹の音が鳴ってたし、お腹空いてるんじゃないかと思って」
で、僕たちもちょうどいい時間だと思ったから、ここに戻ってきたんだよね。途中で屋台には寄ったけど。そこで軽く食べ物を買ってきたんだ。
振り返って、一心不乱に食べ続ける男の子を見る。歳は5、6歳程度かな?痩せ細っていて、あの子を見た二人が心配するほどだった。茶色っぽい髪に、年相応の幼い顔立ちが印象的な子だね。ただ、どこか違和感を感じるんだよね。まるで、どこかで会ったかのような……気のせいかな?
「……まあ、一般人を保護するのはいいだろうけどよ………中途半端に助けるのはかえって迷惑だぞ?助けるなら、きちんと面倒を見なきゃいけねえわけだしな」
「そこはみんながどうしたいかに依るかな?育てるなら育てるで力は貸すし……どうしようもないなら、僕が何とかするよ」
もしこの子が一人で生きていくしかなくて、それが難しかったとき。そのときは責任を持って、僕がどうにかするつもり。その覚悟はあるし、他の人に任せるわけにもいかないからね。
ただ、僕の目を見て何か思ったのか、ジリアンさんに小突かれた。そこまで痛くはなかったけど。
「……馬鹿言うんじゃねえよ。それはお前が考えなくてもいいことさ」
「でも………」
「そうならねえように、努力してやる。お前だって嬢ちゃんたちに嫌われたくはねえだろ?」
それは……そうだけど。カトレアやシルヴィに嫌われたら、一生部屋から出ていくことができない自信がある。そんなこと、自慢するなという話だけど。
そんな僕にジリアンさんは笑って、部屋を出ていくのだった。
※ ※ ※
「で、そもそもだ。お前、どっから来たんだ?両親はどこにいる?」
ようやく食べることに落ち着いて、話ができる状態になった男の子にジリアンさんが質問をする。その頃には凛花さんやコルネリアさん、アルヴァさんも戻ってた。女性陣は可愛がっていたよ。
でも、ジリアンさんの問いに対する答えは、想像してるよりもずっと悪いものだった。
「……わかりません。ずっと暗いところにいたので………」
「どういうことだ?」
「両親に売られたそうです。お金が欲しいから、って。人体実験用に使ってください、と言ってたそうです」
凛花さんたちが息を呑んでた。僕としてもあんまり気分がよくはないかなあ……あっちの世界での嫌なことを思い出しちゃうし。凛花さんは眉を吊り上げて、コルネリアさんは口元に手を当ててた。カトレアとシルヴィはというと……僕を見てた。心配そうに。そこまで心配しなくても、別に大丈夫なんだけどなあ。
「それはまた……最悪だな。どうやって逃げ出した?」
「よくわからないんですけど……突然、職員の人たちが苦しみ出したので。拘束はされてなかったのが幸いして、逃げ出しました。どこをどう走ったのかまでは覚えてないです………」
「……そうか。悪かったな、辛いことまで聞いちまって」
「大丈夫です。今までに比べたら、どうということはないので」
ジリアンさんは申し訳なさそうにもう一度謝って、部屋を移動した。移動したのはほとんどの人たちで、部屋に残ったのは僕とカトレアぐらいだった。クロもいるけど、我関せずってところだし。クロらしいと言えば、クロらしいのだけど。
「名前とかあるの?」
「……いえ。ないです」
「そっか。それも後で伝えといた方がよさそうかな」
勿論、この子を助けると決めたときは、だけど。下手に名前なんか付ければ、感情移入してしまうということは知っている。僕自身が名前は特別なもの、ってわかっているしね。だから、どうしようもないときは誰にも何も告げないでやることにしよう。
(ただ、まあ……そんなことをしていると、兵器に戻ったような気になるなあ)
もしかして、だからジリアンさんは小突いたんだろうか?もう兵器に戻るなよ、っていう意味で。首を傾げてみるものの、そんなことは聞いてみないとわからない。後で聞いて来よう。
「ユート様?」
「ん、どうしたの?」
「いえ……止めなきゃいけない、と思ったもので………何かするなら、ちゃんと話してくださいね?」
むう、カトレアの目は誤魔化せないようだ。僕がまた戻るかもしれない、ってことを勘付いちゃったみたい。心配そうな表情で見つめられると、言い訳をするわけにもいかないし。……してもいいけど、ばれたり変なことをしたときに、お説教コースは確定だからなあ。それは嫌だ。
「はーい」
「もう、わかってるんですか?ユート様はすぐに無茶をするんですから………」
「そんなことはないよ?」
「あります。とにかく!きちんと話を通すことです!いいですね!?」
僕はちゃんと頷いておいた。だって、カトレアに逆らうと後が、ねえ?
「あ、寝ちゃったね」
「そうですね。どうしましょうか?」
「カトレア、見ててくれる?僕はみんなと話してくるから」
「あ、はい。わかりました」
カトレアが頷いたことを確認して、僕は転移した。さてと、どうなるかは決まったのかな?




