被害は続く
「それじゃあ行くよー?荷物はちゃんと持ってる?」
「問題ねえよ。それに何かありゃあ、取りに戻れるだろ?」
「まあね」
なんだかんだ言って、一番早く転移になれたのはジリアンさんなんだよね。流石、使えるものはなんでも使うだけはあるねえ。ぼけーっとそう思った。ただ、凛花さんに足を(というか、脛を)蹴られていたけど。ひどい………
「何でもかんでもユートに頼らない!あんた、覗きにまで使おうとしてたでしょ!」
「ハハハ、ナンノコトヤラ」
ジリアンさんの目が遠い……まあ、使ってくれって頼まれたことはあるけどね。カトレアとシルヴィから念入りに釘を押されていたから使わなかったけどさ。
「でも、すぐに行き来できるのはすごくいいですよね!忘れ物をよくするので、助かります」
コルネリアさんが笑うけど、別に行き来しなくてもいいんだよ?場所さえ伝えてくれれば、持ち物だけ呼べばいいんだし。そんなことを考えていると、今度はカトレアとシルヴィが遠い目をしていた。
「……こんな現実に慣れていく自分が怖いです………」
「そうですね……これでもしユート様が不調になってしまったら、どうなるのでしょう………?」
「それはそのときにでも考えればいいんじゃないかな?」
カトレアとシルヴィにはそう言っておく。まあ、実際そうそう使えなくなるものじゃないしね。能力を奪う、みたいなものがない限り。……それにしたって、奪えるかどうかは怪しいけど。シンクロ率が高くなり過ぎると、ホムンクルスとの同化率も上がる。つまりは、それだけ離れにくくなっちゃうんだ。僕の力を奪おうとしてもうんともすんとも言わない、っていう超能力者たちを多く見てきたし。
あるとすれば、やっぱり暴走だったり、体調不良の方がありそう。暴走は一回経験しているし、体調不良なんてむこうの世界ではしょっちゅうあった。こっちでは倒れたってことはあっても、まだ病気にはなってないんだけどね。なんでだろ?
――――ちなみに、この答えはカトレアがせっせと世話をしているからであり、本人の免疫力が高くなったわけではない。食事や睡眠時間、できる限り病原菌が体内に侵入することのないようにきれいにしているから、そんなことはないのである。……ちゃんと感謝してあげてほしい。
「………?」
「ユート様?どうかされましたか?」
「いや、今何か言われたような……?気のせいかな?」
僕は首を傾げるけど、そのことに答えてくれる人はいなかった。まあ、仕方ないか。
※ ※ ※
「とは言ったものの……どーしたもんかねえ………?」
国に着いた僕たちは、物凄い歓迎を受けた。それもそのはず、被害はなおも拡大して、とうとう国に影響が及ぶまでになってしまったらしい。
このままではこの国が滅んでしまう。そこにやって来た希望の光が僕たち、ということらしい。
「地道に探すしかないんじゃないの?」
「相手は転移能力を持ってる。一筋縄じゃいかんだろうさ。もしも釣れるとすりゃあ………」
ジリアンさんが僕を振り返る。言いたいことはわかってる。あんまりやりたくはないけれど。
「カトレアを囮にする、ってことかな?」
「そうだ。あのシドって野郎が何も変わっちゃいなけりゃ、それで釣り出せるはずだ。そこからあの魔族の居場所も引き摺り出せばいい」
そう、それが最善策。なんだけど………
「私は反対だけど。あいつはイカれてる。何をしてくるかわからないじゃない」
凛花さんがきつい目をさらにきつくして、詰め寄っている。正直なところ、僕も同意見なんだよね。元々のシドさんや、魔族の魔力で強化されただけだったら、別にそこまで厄介ではなかったのだけど。でも、今のシドさんはカトレアを自分のものにできるなら、それこそ手段を選ばないと思う。それが厄介だと思うんだ。
でも、ジリアンさんの意見もわかる。実際に被害は拡大し続けてるし、このままじゃあ何の関係もない人たちに迷惑が掛かる。さらには、この国で終わるかどうかもわからない。それがわかっているのか、ジリアンさんは首を振った。……まあ、ここまで全部ルーちゃんの受け売りなのだけど。
「けど、これ以外に方法はねえ。何も手掛かりがない今は、これしか方法がねえんだよ」
「けど………!」
「大丈夫です、勇者様方。その役割を引き受けさせてもらいます」
カトレアは迷ってなかった。それどころか、きちんと覚悟を決めていたんだ。ここでどうこう言うのは、カトレアに迷惑かなと口を閉じる。
「わりいな。ってことで、ユート。嬢ちゃんとデートしな」
「「……はい?」」
二人分の間の抜けた声が聞こえた。カトレアとシルヴィの二人分。僕も出しそうになったけどね。疑問符を浮かべていると、ジリアンさんはちゃんと解説してくれた。
「あいつはユートの本気を見ちゃいねえからな。油断させておいて、逆に叩く。それに、そっちのが守りやすいだろ?気も散らねえだろうしな」
「うん、まあそうだけど……いいの?」
「いいだろ、別に。効率もいいし、不満も出ねえし。何より、安全性は格段に上がる。文句はねえだろ?」
ニヤリと笑うジリアンさんに、頷くことしかできない僕とカトレアだった。




