最強が最強である理由
「フン、敵だと?だから、どうしたというのだ。そう宣言したところで、何かが変わるわけでも………」
パチン。指を鳴らす。その瞬間に、周囲の魔物はすべて消えた。残っているのは、透明な相手と僕たちだけだ。
「な、何っ!?我が配下のものたちはどうなったのだ!?」
「僕の『座標移動』はただモノを転移させるだけじゃない。できることは多岐にわたるんだ。転移に始まって、切断、果ては空間収納まで。君の配下の魔物たちは全員、異空間に送らせてもらったよ」
「異空間だと!?」
そう、それこそが『座標移動』が最強である所以なんだ。『座標移動』を最も使うのは、その高い汎用性のためだ。『座標移動』は大きく分けて、3つに能力を分類することができる。
1つ。これは当然だけど、モノを転移させる能力。これは一番よく使う。元々使っていた『テレポート』と同じ、長距離移動も短距離移動もできる。けれど、それだけじゃ終わらない。
自分が直接見たことのないところにも行けるんだ。今回みたいに、誰かの記憶を覗くことで行ける。あっちの世界なら、写真を見れば行くこともできる。また、それはデータとして送られても、印刷されたものであっても構わない。その気になれば、大まかなイメージでも行けるから、これが大きなウエイトを占めるのは仕方がないと思う。
2つ。切断する能力。これも『座標移動』の能力を応用することで使える。3つの能力の中では、使用頻度は少なめだ。それも当然の話。だって、攻撃するのなら、別に他の能力でもいい。ソーちゃんなら、一瞬で敵を焼き尽くすことができる。クーちゃんなら、一瞬で敵を押し潰せる。シーちゃんがいれば、気を狂わせるのなんて簡単だし、フーちゃんなら、毒ガスでも、放射線を発生させることでも殺せる。チーちゃんなら、すぐに敵を握りつぶすことができる。ルーちゃんの能力じゃ殺せないけど。でも、これだけ攻撃手段があるんだ。
なら、これはなんで便利なのか。それはやはり、利便性が大きい。そもそもの話として、さっちゃんほどシンクロ率の高い能力は他にはない。その影響で、空間内に存在するすべてのモノを対象に取れる、というとんでもない能力なんだ。その気になれば、距離は無視できるし、いくらでも加減は可能。斬りたくないものだけ対象から省いて、あとは残さず切り捨てる、なんてこともできる。だから、要人警護だったり、できるだけ保存状態がいい方がいいだったりしたときは、この能力をよく使っていた。
イメージしにくい人は、こう考えるといいかもしれない。例えば、自分の体があったとする。体はそのままそこにいようとするけど、頭だけ転移させられそうになったら?首なしの死体の完成だ。パーツごとに転移できる、っていうのはそういうことも含まれる。
3つ。これもよく使う副産物の一つ。異空間収納だ。
元々、この世界は4次元と言われている。縦と横、高さに加えて、時間が絶えず流れているのだから。なら、時間が流れない空間というのは、どういうものなのだろう?その答えが異空間収納だった。
4次元から3次元への転移。そこでは時間が流れることはないから、モノが劣化することはない。時間が止まったままで、その場所に存在しているんだ。そして、その場所は真っ白な空間だった。神様がいたのは、恐らくだけど3次元なんだろう。時間が存在しない、真っ白な世界。だから、いつまで経ってもあの姿なのかもね。
連邦で『プロミネンス』を使ったときに国ごと避難させたのも、ブルーシートや座布団を取り出したのも、この能力でだ。使い勝手はいいから、やっぱりよく使う。ひょっとしたら、他の能力よりも。
「だから、君の配下が助けに来ることはない。時間を止められて、動くことすらできないからね」
「んだ、その能力……んな能力、アリかよ………?」
「やつの失敗は、狙ってはいけないものを狙ったことだな。そのままにしておけば、まだ生きていられたかもしれんな」
「ま、まだだ!ワシの姿は見えんだろう!そんな敵にどう対抗するというのだ!」
声だけが聞こえるけど、まだ希望があるかのような声。その言葉に、僕としては呆れるしかなかった。
「……まだ勝てると思っているの?だとすれば、あなたはとても哀れだね」
「……あのう、凛花さん。私、なんだか嫌な予感がするんですけど………」
「……奇遇だね、コルネリア。私も」
僕は目を閉じて、両手を肩の位置まで上げる。この技は他のとは違って、ちゃんとイメージしなきゃ使えない。でも、今日はすんなりとすることができた。シルヴィを狙われて、怒ってたからかな?まあ、それは後で考えればいいか。
僕に向けて何かを飛ばした様子だったけれど、それを転移で防ぐ。目を開いた僕は、《悪夢》の異名を貰うことになった、その技の名を呟く。
「『悪夢の宴』」
周囲の土がボコボコと盛り上がり始めた。土の中から出てきたのは、おかしな人形たちだった。土塊でできた、ただの人形。それはたった30㎝ほどで、とてもではないけれど、この場所には不釣り合いなものだった。けど、普通の人形とは違うところが2つだけあった。
1つは人形一つ一つが銃のような何かを持っていること。もう1つは……
「なんだ、こいつらは……薄気味が悪い」
人形たちの顔はすべて同じく、張り付けたような笑みの顔であることだ。それが50体ほど現れた。初めて目にすれば、あまりにも気味が悪いだろう。ふと、僕を召喚したカードを思い出す。あの道化師も同じような笑みをしていたか、とぼんやり思った。
人形たちが一斉にケタケタと笑い始めた。それと同時に……
「ぐぎゃあああああああああ!」
手にした銃から、炎弾が撃ち出されていく。その狙いは無茶苦茶で、まったく当たっていないものもある。当たったのはたまたまなのだろう。けれど、ここから先はそうはいかない。
『ねえ、遊ぼう………?』
『遊ぼう………?』
『遊ぼうよ……魔族さん………?』
無邪気な子供の声が、しわがれた老人の声が、色っぽい女の人の声が。人形たちから発せられていく。その声の下は、炎弾が命中した場所からだ。新しく現れた人形が、そこにいる何かを掴んでいるのだ。
「は、離せ!貴様らに構っている暇など………!」
『遊んでいこうよ………?』
『楽しいよ………?』
『とっても面白いんだよ………?』
銃を向けていた人形たちも、そこにいる何かに向かっていく。皆、何かを掴もうと近づいていくのだ。同じ顔の人形たちが、一斉に。何を考えているかもわからず。
「来るな……来るな!」
そこにいる何かが、ようやく姿を現す。それは大きなアルマジロが、二足歩行をしている魔族だった。背中についたいくつもの棘を見て、あれを発射していたのかと納得する。弾かれたのも納得だ。あんな鎧のような皮膚をしているのなら、棘が弾かれるのも当然だろう。
魔族はまとわりついていた人形たちを、力任せに破壊していく。踏み潰され、握り潰され、振り落とされていく。しかし、その度に地面から、さらに多くの人形が現れていくのだ。
「う、うわあああああああ!助けて、助けてくれ!嫌だ、嫌だ!来るな!来ないでくれえ!」
人形たちはケタケタと笑うだけだった。ついには、すべての人形が八魔将を覆い尽くす。そのタイミングで、僕はその塊を空中に送った。なぜなら、それは……
ドオン!と大きな音が鳴り響く。空を見れば、巨大な炎の玉ができていた。中心の方を見れば、魔族であった何かを見ることができた。
「終わったよ」
「……エグ過ぎんだろう、お前………」
罠に掛かった割には、案外すぐに決着がつくのだった。




