お風呂に入ろう
「要するに、風呂って体を綺麗にするためにあるの?別にシャワーでもいいんじゃ………?」
「シャワー?んだそりゃ?」
ああ、シャワーを知らなかっただけなのか。軽くシャワーのことについて説明しておこう。
「へえ、そいつぁ便利そうなもんだな。けど、なんでそれを知ってんだ?飯のときも知らないもんがあったし、風呂も知らなかったろ?それ以前に記憶がねーんじゃなかったのか?」
「んー、なんでだろ?よくわかんない。ただ、記憶はなくても知識はあるんだよね」
「そうなのか?」
「そもそも知識がなかったら、こうして話すこともできないんじゃないかな?」
「それもそうか。ん?待てよ?それじゃあ、お前記憶なくす前はパンとか肉とか知らなかったってわけか?」
「え?そう言われてみれば………」
知らないんだったら、見たことがないということなのかもしれない。言われるまで気付かなかった。
「……なんか記憶があったときのことが不安になるんだが」
「……大丈夫じゃないかな」
今回は……言い切れませんでした。
そんな風に話してると前の方に凛花さんとコルネリアさんが。二人とも風呂に行くのかな?
「あれ?ジリアンさんと……ユート君ですか?」
「あんた、休んでなくて平気なの?」
「開口一番にそれ?大丈夫だって」
「ま、具合が悪くなりゃ運んで帰るさ」
「信用がなさすぎる………」
しかも、コルネリアさん?ジリアンさんとアルヴァンさんは「さん」なのに、僕は「君」なの?なんだか頼りなさげに見られてるみたいでやだよ。そのことを話すと
「ごめんなさい、ユート君を見てると弟みたいで。いないんですけど、いたらこんな感じなのかなって思っちゃいまして」
って、笑いながら言われたよ。ひどい……しかも。
「ああ、そりゃわかる気がすんな」
「確かに。背伸びしてる感じがそうっぽい」
って、ジリアンさんと凛花さんも。背伸びなんてしてないのに………
「お、ここじゃねえか?」
「そうみたいですね」
ここ?目的の場所に着いたみたい。
「じゃ、また後でね」
「はーい」
男の人と女の人とで分かれてるみたい。なんでだろ?
「さてと、俺らも入るか。早くしないとあいつら出てくるかもしれねえしな」
「うん」
ただ、またもこのとき僕は気付いていなかった。ジリアンさんの瞳が輝いてたことに。
※ ※ ※
「でだ。この壁の向こうは女湯なわけだ」
「うん、知ってるけど……」
それがどうしたんだろう?なんか体を洗った後、そんなことを言われた。風呂に入る前は体を洗うのがマナーなんだって。
「いいか、俺は今から少しお前の面倒を見れなくなる。少しでも体のどっかがおかしいと思ったら、迷わず部屋に戻れ。いいな?」
「う、うん」
「それと今から少し静かにしてろ。俺がいいって言うまでだ。いいな?」
「うん」
何する気なんだろう?まあ、静かにしてろと言われたし、黙ってようか。そうして黙って見てると、ジリアンさんは壁をするすると登り始めた。器用だねえ。そして壁の上まで辿り着いたみたい。
「……おお、いい眺めだぜ」
そう言ってたんじゃないかな?小声だったから、よく聞こえなかったけど。
そしたら、次の瞬間。
「何見てんの、この変態!」
って、凛花さんの声が。そして、洗面器と一緒にジリアンさんが落ちてきたよ。痛そうだなあ。って思ってると、ジリアンさん起きたよ。大丈夫なのかな?
「やべえ!ずらかるぞ、ユート!」
「え?どういうこと?」
「逃げるってことだ!理由は後で話す!」
「うん、わかった」
なんか大変なことでもあるのかな?ま、いっか。後で理由話してくれるらしいし。急いで着替えて外に出ると………
「どこ行こうとしてんの?」
「最低です!」
「……何をしたんだ、お前は?」
怒ってる凛花さんとコルネリアさん、そして呆れ顔のアルヴァさんがいたよ。
※ ※ ※
「全く!最低です!たとえ勇者様でもしていいことと悪いことがあります!」
そんな風に怒りながら隣を歩いてるシルヴィアさん。ちなみに、ジリアンさんは凛花さんたちに引きずられて行っちゃった。仲がいいのかなあ?僕は無実だからいいんだって。よくわからない。そのことを凛花さんに話したら
「いい?女の子が入ってるお風呂を覗いちゃいけないの。わかった?」
だって。凄い圧力を感じたような気がしたから頷いておいたよ。その間に通りがかったシルヴィアさんが部屋まで送ってくれるっていう状況だよ。……なんだかかっこわるいような。
「ユート様もあのようなことはくれぐれもしないようにしてくださいね?」
「う、うん」
なんでここまで念を押されるんだろう?信用ないのかな、僕。
「そうだ、櫛くれない?固めのやつ」
「え?はい、いいですが………」
今日はいろいろなことがあったけど、さっき寝たばかりだし。もう少しだけ起きてようかな。