夢の中で
(ここはどこだろう?)
夢の中、なのだろう。普通、人は空中にふよふよと浮くことはできない。そうではなく、夢で見ている場所のことだ。知らない場所のはずなのに――――懐かしい気がするのはなぜだろう?ここに来たことがあるのだろうか?
そこは異常な場所だった。四角い部屋で、扉のある壁から見ると左側に大きな本棚がある。本棚の中にはたくさんの本が陳列しているのだが……どうにも並べられている本に規則性が見いだせない。絵本、漫画に始まり、小説、新書、地図、果ては専門書、教科書に至るまで。まるで手当たり次第に本を買い、無理矢理本棚に押し込んだかのようだ。更に、本は本棚に収まり切らず、床の上にまで散らばっている始末。綺麗好きな人間が見れば、「片付けろ!」と怒るかもしれない。
これだけ見ればおかしい所はない。図書館、もしくは図書室で読んだ本を読みっぱなしにしたままなのではないかと思う人もいるだろう。ただ、本棚の対角となる壁には――――扉から見て、右側の壁には簡素なベッドがあった。ここで寝泊まりしている人間がいるのだろう。使用していることがわかるかのように枕は少しくぼみ、掛け布団は適当に放り投げたのかベッドの端に置いてある。というより、放り投げたのだろう。掛け布団の端は床にずり落ちそうな寸前である。ここで寝泊まりしている者は、相当に面倒臭がりなのだろうか?と思うような状態である。まあ、これでも常識の範囲内で処理できるだろう。本が好きだけど、片付けが面倒だと思うような人が住んでいるのかなと思うぐらいだろう。
しかし……まるでこの部屋にいるモノを監視するかのように、部屋の天井に監視カメラがついていればどうであろうか?また、部屋にいるモノを逃がさないかのように、外につながる出入り口が扉しかないのであれば?窓はおろか、通気口すらないのならどうであろうか?そう、まるで『牢獄』であるかのように。もはや、奇妙を通り越して異常としか表現できないだろう。そんな異常な部屋をふわふわと移動する者が一人。
(やっぱり、知らない場所なんじゃないかな?)
こんなに特徴的な場所はちょっとのことでは忘れないだろう。やはり気のせいだったのだと思った。
(?あれは………?)
この部屋の真ん中には小さなテーブルがあり、そのすぐ近くに一人の少年と何かがいた。何かというのは、それが何かわからないからだ。何かがいる部分のみ、靄がかかったかのようにぼやけている。何かがいるのはわかるのに、それが何であるかはわからないのだ。
「◇◇、今日は何をしようか?」
不意に少年が何かに話しかける。何かが反応しているのかどうかはやはりわからない。
「一緒に本を読む?ご飯食べる?散歩に行く?」
最後の言葉を聞くと、その何かは反応したようだ。
「散歩だね、わかったよ」
少年はそう言うと、扉の方へ近づいていく。何かは彼の後を追っているようだ。その少年は扉の横にあるボタンを押す。
「ここ、開けてくれないかな?」
何をしているのかよくわからない行動だ。誰も聞いていないのに開くわけがないじゃないかと思う。都合よく扉の向こう側に人がいるならわからないが………
現代人ならわかるであろうスピーカーを知らないのだろうか?扉が開いたところを見て、
(都合よく人がいたんだな)
と思うところ、どこかずれているのか、ただ知らないだけなのか………
扉はゆっくりと横に開いた。自動ドアが開くのに似ている。というか、まんま自動ドアである。パスワードを打ち込むと開くタイプのあれである。これを見れば、ここは科学の発達した場所だとわかるだろう。その場にいる者はそのことに全く気付いていないが。やはり知らないだけのようだ。
(あの子を見ればわかるかな?)
そう思い、顔を確認しようとしたとき。
急に浮上するかのような感覚。夢が覚めるのだろう。その流れに逆らわず、身を任せる。逆らったところで無意味だからだ。ただ――――
(あの子は誰だったんだろう………?)
疑問は胸に残った。
ここに他の人間がいたら気付くだろう。
その少年はそこにいた者に似ていることに。